百八日目 ただいま。
季節は廻り、夏になる。今にも茹で上がりそうな炎天下の中を、蝉の声が波になって溢れている。少年はその中を前方目指して歩いて行く。
「あっちいな……。」
彼は学校へ向かっている。今は夏休みだが、彼にはやることがあった。
取り敢えず、暑いので体育館横の剣道場に入る。
「あ、龍人!」
剣道場にはいつものメンツが揃っている。少年は片手を上げて軽く挨拶した。
「よ!」
「どうしたんだよ?」「おお、久しぶり!」
少年の所にアタルとマモルが寄って来る。
「他の人ならぶっ飛ばしてるけど、龍人は特別だよ。」
美菜は剣道場の奥で正座している。今では立派な部長になっていた。
「おいおい、それでいいのかよ……。」
カケルは怠そうに欠伸をした。笑いながら言う。
「だって龍人は私の恋人だもん。」「いつからそんな話になってんだよ!?」
龍人がツッコむ。
「違うのか?」「違うにきまってっだろ!」
マモルは純粋にそうだと思っていたそうだ。アタルはしみじみと言う。
「そっか……。じゃあ、まだ優燈の事、待ってんだな。」
「ああ、あいつが帰ってこないとさ。みんなで、遊びに行けねぇからな。」
それを言うと、龍人がすこしうつむき加減になった。みんなはそれを見て元気を出す。
「その内、帰って来るわよ!」
「おうよ!」
「あの優燈だもんな。」
「俺たちも待ってるぜ!」
「お前ら……。ありがとな。」
「何よ、龍人が寂しそうにすること無いじゃない!」
「ほらやめろ。そんな顔されるとこっちまで悲しくなるから。」
「へ、そうだな!」
仲間たちに励まされ、龍人は笑顔になった。
それからここで気付く。
「そう言えばデゥエスとか穂乃佳たちはどこ行ったんだ?」
「ああ、デゥエスは買い出しに行ったわよ。穂乃佳たちはお昼ごはん買いに。」
「穂乃佳たちはともかく、あいつが買い出しに行くって珍しいな。」
「私との勝負に負けたら飲み物買ってくるって言ったから、勝ってあげたのよ。」
「お前もだいぶキャラ変わったな。」
「元からよ。」
「そっか。」
龍人は少しの間三人を待ったが、残念ながら時間が来たようだ。
「んじゃ、俺はそろそろ行くかな。」
龍人が筆箱を持って立ち上がった。三銃士は疑問に思う。
「龍人が夏休みに学校って珍しいよな。」「そうだな。」
「何でお前学校に来たんだよ?」
「あ? 補講だよ。」
「あ。」察し
「そっか。勉強も頑張ろうね!! いつでも教えてあげるから。龍人ならね。」
「ギクッ!」「先に読まれてたな。」「全くお前は。」
「お前らもだいぶ変わったな。」
「そうか?」「そうでもないと思うが。」「そうなんだろう。」
「はよ行ってくる、んじゃ……。」
少年が剣道場を出ようとした時、突然、疾風のような時音が現れた。
「龍人龍人龍人!!」
「うお! 時音か!? どうした!?」
「龍人龍人龍人!! 外外外!!」
「へ、外?」
「うんうんうん! そとそとそと!!」
ぱたぱた動く時音に連れられて外に飛び出す少年、みんなも後を追った。そこには
「……!!」
少年は筆箱を投げ出して走って行った。
「……。」
彼は何も言えずにいた。眦が熱くなり、それを必死にこらえていた。
「ちょっと、カッコ悪いよ?」
「っるせぇよ!!」
少年の前には少女が居た。天使のような白衣を纏い、彼に微笑みかけている。少年は手の甲で顔の汗を拭った。
「おかえり……」
季節は夏。肌色のグラウンドに、地平線は緑豊かに、空の遠くに入道雲がそびえ、黒い影を作る。眩しくて色の見えない二人がいた。少女は微笑んで少年に抱き付き、少年は優しく抱き返した。
「ただいま……!!」
8/9 時




