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学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
最終章 明けの明星
38/42

十二 ハーキュリー

 「クソ!! おいみんな!!」


 ヒュドラが突進してくる。龍人が叫んでみんなを呼ぶが、まだだれも動けないでいた。


 「く……。まだ……。」


 美菜があと少しだった。他は暫く動けそうにない。龍人は一人でヒュドラに向かう。そこで龍人に追い付いてきたのは、デゥエスだった。


 「龍人、二人で何とかするわよ!!」


 「ああ!」


 デゥエスはさらに加速してヒュドラの首の一つを殴り飛ばした。その威力は凄まじく、ヒュドラのその首は粉々に吹き飛んでしまった。


 「思い知った!?」


 だが、すぐにその首が再生してしまった!


 「再生すんのかよ!?」


 「あんたハーキュリーも知らないの!?」


 「んなもんしらねぇよ!!」


 「あいつは頭を吹っ飛ばしても再生すんのよ!!」


 デゥエスが説明しようとするが、ヒュドラの攻撃に前に中断せざるを得なかった。


 「邪魔すんじゃねぇ!!」


 二人はヒュドラを吹っ飛ばし、デゥエスが説明を続ける。


 「デオムの与える十二の試練ってのはきっと伝説の英雄ハーキュリーに与えられたものとおんなじなのよ!! だから最初はヒュドラ! ヒュドラは首を落としたとこを炎で燃やさないとダメなのよ!!」


 「あ、ハーキュリーってもしかしてヘラクレスの事か?」


 「ヘラクレス? なにそれ?」


 「ヘラクレスもおんなじように十二の試練を受けて……」


 二人が話している所にヒュドラが突っ込んできた。デゥエスは跳躍してヒュドラの首を一つ殴り飛ばす。ヒュドラの首が泥のように消しとんでしまった。


 「今よ!! あんたの炎で燃やして!!」


 「おう! おりゃ!!」


 龍人が手をかざした。その手からろうそくの火のような炎が出た! デゥエスが龍人の頭をぶん殴る。


 「遊んでんじゃないよ!! 速くしないとまた元に戻るでしょ!」


 「俺は魔法初心者なんだよ!! そんなブオーッ!! って出来るかぁ!!」


 「意地でもやんなさいよ!! 仮にも元魔王を屈服させた男でしょ!?」


 二人は言い合いを続けながらヒュドラの首をちぎっては投げちぎっては投げ、戻ったら、切ったり殴ったりしていた。


 その内美菜が動けるようになり修羅の力を解放した。美菜は呼吸を整え、白銀の剣を構える。


 「二人ともどきなさい。」


 「は!」「美菜!」


 二人が僅かにヒュドラから距離を取った。その瞬間を逃すことなく、美菜は修羅の力で紅蓮に輝く刃を振るう。



           「―――――斬風―――――」



 美菜の放った剣技がヒュドラの首を九つとも落とした。その剣筋は光の軌道を残影として残した。


 「美菜! あいつ燃やさないと意味ないぞ!」


 龍人が呼びかけると美菜は彼に振り向いた。


 「ええ。だから胴体ごと木っ端微塵にしておいたわ。」


 龍人とデゥエスは顔を見合わせた。なんだその手があったか! と。


 「それからデゥエス。ハーキュリーの事だけど、十二の試練の最初はライオン狩りよ?」


 「え……。誰だって間違いはあるわよ!!」


 「顔真っ赤にして、かわいいんだから。」


 「べ、別に可愛くなんかないもん!!」


 「ちょ、二人とも。次の試練が始まってるみたいだぜ?」


 龍人の一言で二人の言い合いが終わり、次の試練に移る事になった。


 「さて、お次は、これだぁ!!」


 ヘラクレスの伝説によるなら、ライオンをすっ飛ばしてヒュドラが出てきたので次こそライオンか? それとも、そこに現れたのは金色の鹿だった。


 「皆さんには、この鹿さんを捕まえて貰います。ただし、かわいそうなので殴ったりしないで下さいね?」


 デオムは腕組みをして一人でうなずいていた。その姿をみて龍人が質問する。


 「しつもーん。」


 「はいはいなんでしょう?」


 「鹿を食べるのはダメか?」


 「ぜーったいだめですよ?」


 「そっか。ならいいや。」


 龍人は怠そうに鹿に近付いて、その鹿を捕まえた。


 「はい終り……。ってあれ!?」


 残像だ。鹿はそう言いたげに龍人の方を見ていた。


 「はぁ……。」「やっぱバカね……。」


 女子二人が頭を押さえてため息をついていた。龍人はいらだってきて鹿をとにかく追い回したが、神速で逃げる鹿を捕らえることが出来なかった。


 龍人はプッツン来て怒鳴りながら鹿を追い回した。


 「待ちやがれ!! この鹿ァ!!」


 だが、鹿は待ってくれなかった。しばらくするとみんなも動けるようになって一緒に鹿を追いかけた!!


 「待ってぇー!」「どたどた!」「お待ちをー!!」「鹿の癖に速いな!!」「そうか? 鹿ってこんなもんじゃね?」「そんなわけないだろう!!」「追いかけるだけじゃだめだね。」


 みんな口々に言いながら追いかけた。何人もの少年少女たちが金色に輝く鹿を追っている。デゥエスと美菜は顔を合わせると、それだけで笑えて来てしまう。二人も鹿を追い始めた。


 「おりゃー!!」


 龍人が鹿に飛びかかる。だが、鹿は跳躍して寸での所で龍人をかわす。まるであざ笑っているようだ。続いて穂乃佳が飛びつく。途端に鹿は急停止して穂乃佳をかわし、走り出す。穂乃佳は地面に墜落した。


 「いててー……。」


 「大丈夫か!?」とみんなが聞くと、穂乃佳は照れて少し赤くなった。


 「捕まえた。」


 「あれ?」とみんなが思った。鹿の上をよく見ると、角をしっかりつかんで時音が鹿を乗りこなしていた。


 「い、いつの間に!?」


 デオムでさえも驚愕した。そうだろうな、時音は時間を九つの選択肢の中から選んでしまうのだから。時音が鹿に乗っている時間があったのだろう。


 「ぱからぱからぱからぱからぱからぱから!!」


 時音は鹿に乗ってみんなを引き離していく。そのままどこかへ行ってしまった。


 「しおんー!!」


 穂乃佳と美菜が叫ぶ。すると、みんなの共有認識で「ちょっと鹿さんと遊んで来る」と言うのが分かった。これには穂乃佳と美菜もさぞ怒るだろう。


 「無事で何よりー。」「時音なら仕方ないか!」


 怒らなかった。そう言えば龍人が転んでたな。みんながぞろぞろと龍人の周りに集まる。龍人は声を張った。


 「俺が元気になったらこの扱いかよ!!」


 「はい。」


 みんながそう答えた。答えるときは真顔だったが、その後すぐに賑やかに笑い出した。


 「さて、次の試練はこいつでーす!!」


 デオムが差し向けたのは大きい猪だった。


 「次はこの猪を生け捕りに……。」「したぞ?」


 龍人はすでに猪を掴みあげていた。デオムは顎が外れそうなくらい驚いたが、気を取り直した。


 「じゃあ、次はこちらです!!」


 デオムが指差した方向には、巨大な牛小屋があった。


 「今度はこれを綺麗に……。」


 そこまで言いかけて気が付いた。このままでは……。



           『漆黒砲ダークカノン』 『断竜刃ドラゴン・ブレイク



 美菜は剣を、デゥエスが拳を振り払い、牛小屋を更地に返した。あまりの威力にみんなが呆気に取られていると、美菜とデゥエスがデオムに言い放った。


 「次は、焼き鳥にすればいいのね?」


 デゥエスの腕からは漆黒の闇が、美菜の剣からは獄炎の光が滲み出ていた。龍人は立ち上がった。


 「俺たちは急いでんだ。次はなんだ?」


 「えーとぉ。次はこの鳥たちを……。」


 デオムの言葉が終わる前に、龍人が魔法陣を粉砕していた。デオムがポカーンとしていたが、龍人はつづけた。


 「次は?」


 「次は……、この牛を……。」


 「捕まえました! もーおぉ!!」


 サキが牛の物まねをすると、その牛も一緒になって鳴いていた。龍人は笑ってからすがすがしく言う。


 「はい次。」


 「次は人食い馬を……。」


 「地獄に沈め。『闇夜光線』」


 デゥエスの手から強烈な闇の魔法が解き放たれた。それが人食い馬たちを飲み込んでしまった。のちに残ったものはなにも無かった。


 「次はアマゾネス女王。」


 デゥエスが呟くと、デオムはやけになって言った。


 「そうですよ! 次はアマゾネスの女王のベルトを取ってください。」


 アマゾネスの女王が現れた。そこに三銃士が近づき、女王の前に跪く。


 「女王様」「あなたはとても美しい」「この世の者とは思えない!」


 そう言って適当に口説いた後、


 「どうか我々に」「ちょっとだけでいいので」「そのベルトを……」


 三銃士が同時に手を差し出すと、女王は全員の前を通過していき、みのるの所へ、そして。


 「あなたはとても強い意志の持ち主ですね。もしよろしければ、この黄金のベルトをお近づきの印に……。」


 だが、みのるは断った。


 「大変ありがたいお話。しかし、私にはすでに心に決めた者がおりますので。」


 そこまで言うと女王は微笑した。そして、ベルトを差し出した。


 「あなたのような人に好かれて、その方もさぞお喜びでしょうね。このベルトは、あなた方に差し上げますわ。いつまでもお幸せに。」


 女王はそう言って帰っていった。みのるは少し戸惑ったが、ベルトをデオムに向けて掲げた。


 「次はなんだ?」


 「次は、向こうの山にある紅い牛を……。」


 デオムが指を差した方から大量の紅い牛がやって来る。


 「もー!!」


 その先頭に立つのは黄金の鹿を駆る時音だった。時音はデオムの前を通過し、紅い牛はデオムの前を通り過ぎていった。龍人はそれを見送って言った。


 「次。」


 「次は難しいですよ!! 黄金のリンゴを取ってきてください!!」


 「了解。」


 と言って龍人はとことこ歩いて行った。みんなが見守る中、龍人は黄金のリンゴを取って戻って来た。それはアマゾネスの黄金のベルトについたリンゴだった!


 「ほら、黄金のリンゴだぜ?」


 龍人はデオムに向けてリンゴを投げつける。デオムはそれを受け取り、むしゃむしゃと食べる。


 「確かに……。むぅ。じゃあ、次ですね。次は、ケルベロスを連れてきてください。」


 デオムはそのリンゴを食べつづけていた。横からデゥエスが茶々を入れる。


 「ほんとにそれでいいの?」


 「いいですよ。早くつれてきてください。」


 デオムは度重なる予想外の事態のせいか、完全にやる気をなくしてリンゴに夢中になっていた。デゥエスはため息をついて、指を鳴らした。


 「来なさい。ケロちゃん。」


 地獄の召喚印が地面に浮かび上がり、そこに巨大な三つ首の狂犬が現れた! と最初は思ったが、すっかりデゥエスに懐いてるようで、しっぽを振って彼女に飛びついた。デゥエスが普通の女の子なら死んでいただろう。あいにく彼女は普通じゃない。


 「さて、これで……。」と話を終わらせようとすると、さすがにツッコみどころが多すぎる。


 「なんでケロちゃんなんだよ!! つーか何でお前がケルベロス買ってんだよ!!」


 龍人がツッコむとデゥエスは首を傾げた。


 「あれ、言ってなかったっけ?」


 「なんも聞いてないぞ?」


 みんながデゥエスの方に身を乗り出すように耳を傾けている。興味津々な彼らに対し、デオムは欠伸をしながら、どうぞご勝手にと背を向けてリンゴを食べていた。


 「あたし、ファテゥさんの娘だから。」


 「は?」「な!」「え?」「ほえ?」「はう!」「はっ!」「あ!」「ばっ!」「へぇ。」


 一斉に絶叫する。みんなの声が混じり合ってなんて言ってるのか分からなかった。ともあれ、これでケロちゃんの謎が解決した。


 「いや、なんでケロちゃんなんだよ!?」


 まだでした。


 「だって、そっちの方が可愛いじゃん! ねぇケロちゃん!!」


 「バフゥーン!!」「どう考えても納得できねぇ。」


 腕組みをして眉間にしわを寄せていると、ケロちゃんが近づいて来た。


 「ん? どうした?」


 龍人が聞くとケロちゃんは龍人の事をペロッと舐めた。


 「んあ! なんだよ!!」


 と最初は嫌がったが、ケロちゃんがだんだん可愛くなって来たそうだ。


 「ケロちゃん! またな!!」


 龍人は名残惜しそうに、冥界に帰るケロちゃんに手を振った。


 「あんた、今時ツンデレ?」「おめぇにだけは言われたくねぇわ!」


 「さて、もういいですか?」


 デオムがペロペロとリンゴの芯を舐めながら喋る。


 「さあ、次で最後の試練です。最後の試練は……。」


 デオムの表情から笑顔が消えた。その目から殺意が溢れだす。これはさっき感じたものなのに、ずいぶん昔に思えてくる。


 龍人たちは身構えた。恐怖と戦うように武器を構え、敵の懐に入るようにデオムの目を見た。これは相手の思うつぼなのだろう。そうと知りながら、敵の目を見続けた。すると、敵の目から殺意が消えた。




 「最期の試練は、私と戦ってもらいます。一対一でね。」

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