表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
最終章 明けの明星
33/42

七 紅玉の修羅

 「天空の舞を舞った!」「みんなのHPが少し回復した!!」


 「みんなの疲れが少しとれた!!」「そしてー!!」


 「舞台上で魔法が使えるようになった!!」「はーいぃ!」


 「やったぜー!!」「P!!」


 「回復は出来ないみたいだけど!!」「まぁーいぃ!!」


 「お前らは凄いな……。」


 龍人は言った。


 「それより、美菜のやつ!!」


 龍人は舞台上に目をやった。


 「あんなもんありかよ。」


 美菜の瞳にはもはや狂気しか感じない。戦いに飢えているようにしか見えない。その証拠に、彼女はずっと笑顔なのだ。手の甲だけでは流れる血を綺麗には拭きとれず、頬に口元にと滲ませていった。正気の沙汰とは思えない攻撃を仕掛ける。敵のどこを狙っているのか分からないような攻撃を次から次へと繰り出していく。


 「クソ!!」


 デオムが必死で攻撃をかわしていく。だが、デオムにも美菜がどこを狙ってくるのか全く予想もつかなかった。かわした先が美菜の竹刀の振り下ろした所だった時もあった。デオムは予想せず、一撃一撃をかわしていかなければならず、美菜はでたらめに竹刀を振りはしたが、狙うこともした。美菜が狙った一撃は、その場しのぎのデオムに必ず当たった。


 「ウギャ!!」


 また当たった。その一撃が今までのどんな攻撃よりも重い事は言うまでもない。攻撃を受けてもそれなりのダメージで済んでいたデオムでさえ、美菜の攻撃には耐えがたい苦痛を与えられた。それ故、必死でかわしている。防戦一方になり、反撃の機会は訪れない。


 「もう人間の動きじゃない。」


 デゥエスはそう零した。美菜は目にも止まらない早業で連打する。残像が残り、敵の体力を奪っていく。それが舞台に外れると亀裂が出き、穴が出来、小石と塵が積みあがっていく。それすら、美菜が走り出すと、風圧で吹き飛んでいく。


 「あいつ、人なのか……?」


 龍人の一言にデゥエスは首を振った。


 「おそらく普通の人間じゃない。」


 デゥエスのその一言に龍人は別段驚くことも無かった。舞台上の戦い方を見ていたらむしろその方が疑問が減った。加えてどういうことか説明を求めた。デゥエスは戦いを見つめながら説明していく。


 「この世界には人以外も住んでいるって、言ってたでしょ。アレはホントなのよ。そして、それこそ答え。彼女は人ではない。」


 デオムの爪が右へ振り払われるのを美菜は身をかがめてかわし、竹刀を振り上げて、デオムの下あごに一撃を入れる。


 「あのルビーのような瞳。血に飢えた怪物のような凶暴性。悪魔のような破壊力。まさに鬼神アスラの末裔……。」


 続く左へ振り払われるデオムの爪を跳躍してかわし、重力の力を借りて竹刀を一気に振り下ろす。


 「彼女は恐らく修羅族の生き残りよ。戦乱の時代の遺物って言われてたけど、まさか本物が居たなんてね。」


 痛みに表情の歪むデオム。数歩後ずさり、再び襲い掛かろうとした時、美菜は竹刀をその喉元に突きつける。


 「まだ死にたくないでしょ? 本気を出しなさい。」


 美菜は微笑し首を傾げた。まるで子供をあやすかのように。


 「それとも私が攻撃しすぎた? もう変身する体力も無い?」


 「グルル……!!」


 デオムは距離を取り、四肢を床につけた。


 「やっとその気になったのね。」


 美菜は笑顔を浮かべ、デオムの様子を観察していた。竹刀を構えず、楽な姿勢を取っている。


 「コロス。コロス!!」


 デオムは低く唸り、雄叫びを上げた。見る見るうちにデオムの姿は変化していき。黒い猛虎の姿となった。


 「戦乱を求める彼らは、平和になった国に居ても何かと事を起こしたの。だから人々に捕らえられて、殺された。中には戦禍を求めて流浪する者もいたけど、たいてい同族同士の切り合いになって、その数を減らしていった。」


 猛虎は修羅の少女に飛びかかるが、少女は足を一歩引いてかわしてしまう。次の攻撃も、また次の攻撃も、竹刀を構えることも無く少女は最小限の動きで紙一重にかわしていく。


 「あなたに良い事教えてあげる。」


 少女は攻撃をすらすらかわしながら猛虎に話しかける。


 「私たちのご先祖様は血に飢えていたの。平和な世の中では暇で仕方なかったのよ。だから、そういう時はどうしていたか知ってる?」



「――――今生き残っている修羅族、この世界だけなら

              あの子の家族ぐらいでしょうね――――」



 その言葉に、龍人は何かを思い出した。ただ、それはほんの一瞬の事だった。


 「平和な世界での戦い。コロシアムとかが無い場所。例えば中国の辺りのご先祖様はね……。」


 少女は見せびらかすように距離を取り、竹刀を構えた。


 猛虎が唸り、走り、襲い掛かる。




          「虎狩してたの……!!」




               !?





           『―――――斬風―――――』





 早すぎて誰にも見えなかった。龍人にもアタルにも、ファテゥでさえも。これが美菜の本気なのか。見えたのは猛虎の悲痛な叫び声。


 動かなくなった獣。美菜はそれを見つめてニコニコ笑っている。


 「未だでしょ? ほら早く。」


 虎は唸り、その形が変化していく。


 「次は何かな?」


 まるでデザートが来るのを楽しみに待っている子供のように無邪気な少女。敵はうねりを上げ立ち上る。その姿はまるで鬼のようだった。


 「鬼さんか。」


 少女は竹刀を構えて、一歩踏み込む。その一歩は比類にならない瞬発力をもたらした。少女の背は、鬼の背を見ていた。




           『―――――童子切―――――』




 速すぎて感じることもままならない。見ることはおろか、飛んで来る風圧さえ、過去の遺物にしかならないのだ。


 「あの伝説。ご先祖様のなの。」


 少女は竹刀を降ろして一息ついた。鬼はあっけ無く倒れた。


 「天涯孤独。それを知ったきっかけよ。はやく、来なさい。」


 彼女には先程のような無邪気さも笑顔も消え失せていた。こんなものかと呆れるように倒れた鬼を眺める。


 「こんなものなの? ならもういいわ。消えなさい……。」


 美菜が竹刀を振り上げた時だった。鬼が唸る。


 地面が震え、空気は淀み、耳をつんざくような咆哮を上げる。観戦していたみんなも舞台の影に隠れて吹き飛ばされないよう踏ん張っていた。


 「挑発し過ぎよ!! デオムが本気を出しちゃったじゃない!!」


 デゥエスが叫ぶ。全てを吹き飛ばそうとするこの暴風の中でその声は、美菜には届かない。


 「お次は何?」


 美菜が再び微笑む。その視線の先には、漆黒のドラゴンが翼を広げていた。


 「す、すげぇ。」「か、かっけぇ。」


 アタルとマモルはドラゴンに見とれていた。その時。


 優燈とサキが天空の舞を舞った!

 みんなのHPが少し回復した!!

 みんなの疲れが少しとれた!!

 『???3』が解除された!!


 「よし!! 美菜ちゃーん!! 全部解除したよ!!」

 「はーいぃ!」


 「ありがとー!!」


 優燈とサキが叫ぶ。美菜は手を振ってお礼を言った。


 「さて、ここからが本番よ。」


 美菜は向き直って、竹刀を構えた。


 「未だ話は終わってないわよ? 長い戦乱が終わり、私たちのご先祖様は戦を求めて別れていったの。中国では虎を狩り、日本では鬼を切ってきたご先祖様。じゃあ西洋では何してたって? それは勿論……。」


 美菜は笑みを浮かべ、竹刀を強く握った。すると美菜の周囲が明るく輝き出した。


 「西洋の修羅はドラゴンを倒すってよく言われてたの。ほんとにそんなもんいるわけないけど、ご先祖様わね、実戦で使えるようにしてたのよ。」


 美菜の竹刀が周囲の光を吸収していき、さらに眩しく輝く。


 「未知なる敵に対抗できるよう、ありとあらゆる武器を様々な形状に変化させる。」


 「すなわち、錬金術。まさかここで拝めるなんてね。」


 デゥエスは感服のため息をついた。


 「あの子、ここまで研究してたなんて。」


 竹刀は光の中で変形していき、見事な白銀の鋼剣になった。


 「おお!!」「おー!!」「お~!!」「おおお!」


 みんなは感嘆していた。白銀の鋼剣には何の目立った修飾も施さない、そんなところがまだ普段の美菜らしかった。


            「覚悟は出来た?」


 美菜は剣を構える。普段の剣道の構え方ではなかった。


 「あれは……!!」


 その構え方は独特で、というより構えておらず、白銀の鋼剣を地面に突き立て、その柄を片手で握る。


 「ドラゴンを倒すもの。すなわち……。」


 「ドラゴンスレイヤーか……。」


 黒竜は噴煙を噴き上げながら喋った。美菜は首を振った。


 「私のご先祖様は『断竜者ドラゴン・ブレイカー』だったのよ。よく間違われるのよね……。」


 美菜は眉間にしわを寄せてため息をついた。間違えられるのは好きではないらしい。


 「さてと、おしゃべりはここまでにしましょうか。」


 「ああ、雌雄を決しようぞ……!!」


 黒竜は口を開き灼熱の炎を噴出した。その威力は舞台上どころか、この世界全体を覆うような勢いで……。


 「って、こっちまで来てんじゃねぇか!?」「うそぉ!?」


 龍人たちは急いで逃げたが、みのるたちは間に合いそうも無く。


 「クソ!! こうなったら一か八か!!」


              カツン!


 龍人は炎に向かってその拳を突き立てようとしたが、その寸前で、エメラルドグリーンの半透明の壁に止められた。


 「ふぅ、間に合った。」


 「お前……。何を……。」


 龍人に並んでいたのは、


 「やだなぁ~。私の事ちゃんと見ててよ。」


 「優燈……!!」


 気が付けば、龍人たちは巨大な光の紋章の上にいた。その紋章の周囲は、先程と同じ、半透明のエメラルドグリーンをした壁に覆われていたのだ! 優燈以外の全員驚いていたが、特にデゥエスが驚愕していた。


 「無詠唱で、これだけの防御陣って、あの子、一体……。」


 龍人はため息をついた。彼は事情を知っていたが、まさかこんなことまで出来るとは思っても見なかったようだ。龍人は優燈にありがとう、と言った。


 「えー! もっと気持ち込めてくれなきゃヤダ!!」


 「はいはい、ありがとう!」「ケチ……。」


 優燈はその場から動けないみたいなので、龍人は安全に避難することが出来た。


 黒竜の炎が収まると煙が辺りを包んで何も見えない。防御陣は消え、舞台の上に薄っすらと巨大な影が確認できた。恐らく黒竜だろう。しかし、美菜の姿が見当たらない。


 「まさか、今の炎で!?」


 あわやと思われた矢先、空中に光が眩く輝いた!


 「何!?」


 「美菜!!」


 美菜は天空に跳躍して難を逃れた。そして、そこから叫んだ。


 「これで最後!!」


 彼女の剣が紅玉の如き凄まじい輝きを放つ。その様を見てデゥエスがこぼした。


 「これが本物の……。」


 美菜の剣が紅蓮の瘴気を纏う。美菜は魔法で生み出した光の壁を蹴り、黒竜へと切りかかった。




            「断竜刃ドラゴンブレイク!!!」




 紅蓮の一閃が黒竜を断つ。後に残されたのは爆風と紅の炎だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ