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学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
最終章 明けの明星
32/42

六 断罪する竹刀

 その世界に風は吹きこまない。あるのは異様な赤黒い世界。


 その世界の中で彼女は自分の居場所を探す。この舞台の上、敵と自分との間の距離を測り、一番自分に有利な間合いに持ち込めるところを探す。敵に有利にならず、かといって敵の不利になりすぎないところ。警戒されず、一瞬で勝負に出られるところ。


 試合が始まってから、まだ一合もしていない。お互いの探り合いがずっと続いている。


 舞台そでの仲間たちも固唾を飲んで見守っている。一言もかわすことなく、数分が過ぎた。その時、美菜が一気に間合いを詰めた。


 「!!」


 美菜の構えは中段から上段へ流れるように変化する。デオムもすぐに反応した。だが遅すぎた。


 そして、こだまする快音。背中を向け合う両者。


 あまりに一瞬の出来事でほとんどの者は良く見えていなかったが、今の一撃に見えた攻撃は。


 「三連続か。」


 龍人はじっと見ていて。何とか見えたらしい。


 「しかも全部一本とれるな。」


 「さすがね。」


 デゥエスは腕組みをしながら、試合を眺めていた。彼女にも見えていたようだ。


 「よーっし!!」「天空のまーいぃ!!」


 優燈とサキは天空の舞を舞った!

 みんなのHPが少し回復した!!

 みんなの疲れが少しとれた!!

 『精霊の加護』が発動した!!


 「まだ踊ってるのかよ!?」


 龍人がツッコむと二人は息を合わせ


 「踊ってやるさ!」「何度でも!! です。」


 「そうか。」


 龍人はため息……改め深呼吸をした。


 「さて、もう一回だ!!」「はーいぃ!」


 こうして優燈とサキは舞い続ける。


 「もうみんな全回してるだろ。」


 龍人は頭を掻いた。するとデゥエスが注意する。


 「そんなに頭を掻いてたら、はげるわよ?」


 龍人はまたか、と思い言い返す。


 「はげるかどうかは遺伝で決まってんだよ。」


 「遺伝? それって運命って事? なら変えることが出来るわ!」


 デゥエスは人差し指で龍人の頭を差して言い放った。


 「だから今すぐ頭掻くのやめなさい!!」


 龍人はため息……改め深呼吸して、頭を掻……こうとした手で額を抑えた。


 「まるでちっこいお母んだな。」


 龍人は呟いた。そこでデゥエスがため息をついた。


 「だけど、あんたよりカケルの方がはげそうなのよね……。今度会ったら注意しとかなきゃ。」


 「あいつも大変だな。」と、龍人は思った。


 「あ、そんなことはどうでもいいの。それより。」


 デゥエスは舞台上に視線を移した。龍人も同じ方を向いた。デゥエスが話しかける。


 「美菜はまだまだ体力があって大丈夫、けど……。」


 「けど、デオムもこの程度じゃなさそうだな。」


 「そういう事。てか、あんたびっくりするくらい勘がいいのね。」


 「ああ、昔っからな。」


 「私の知ってるデオムでも、もっと強かった気がするわ。」


 「でもお前も相当強いんだろ?」


 「どうかな。正直あいつらに勝てる保証は出来ない。けど、最後まで諦めないつもりよ。」


 「ああ、頼んだぜ!」


 「って、結局話がそれちゃった。」「そんなもんだろ。」


 「私が言いたいのは、美菜も勝てるか分からないって事。」


 「いや、大丈夫だ。」


 龍人はきっぱりと言った。


 「どっちもまだ本気じゃないが、底力は美菜の方が上だ。」


 「どうして?」


 デゥエスが疑問に思った。龍人がそこまで信じれるのは何か確証があるからなのか、それとも、ただ勘だけで言っているのか?


 「どうしてそう言い切れるの?」


 「さあな。」


 デゥエスは龍人の事を見つめる。答えはそれだけではないはずだと思って。


 「勘ってわけじゃねぇし、証拠もないけど。何となく、あいつなら何とかしてくれそうな気がしてな。」


 つまりそれは、淡い希望なのか、強い信頼なのか。デゥエスは全ての疑問が消えたわけではなかったが、必死に戦う美菜を見ているうちにそう思えてきたのだった。




 舞台上では戦いが激しさを増していた。両者一歩も譲らず、一進一退の攻防。試合を有利に進めているのはどちらでもない。主導権は常に行ったり来たり。力の差が無いのか、ただの腕力を考えればデオムの方が上だった。


 「っ!!」


 デオムの薙ぎ払う爪を受け止める美菜、何とかつばぜり合いに持ち込んだが、力でも体格でも劣っていて、何とか堪えるので精一杯だった。デオムはそれを良い事に、両手で美菜の竹刀を押し込んできた。


 「くぅっ!!」


 「ハハハ、ドウダ……!!」


 このままでは押し潰されてしまう。美菜は一気に全力を出し、何とか敵の腕を跳ね除けた。デオムの両手は投げ出されたようになり、すぐ反撃に移れるような状態ではない。無防備な頭部が美菜の正面にある。


 「シ、シマッタ……!」


 美菜がこの機を逃すはずはない。美菜は竹刀を振り上げ、敵の面目掛けて振り下ろす。


 「フ……。」


 「!?」


 美菜は驚愕した。デオムはこの窮地に笑っているのだ。動揺したために、美菜の判断は遅れてしまった。その隙にデオムは、反撃に出た、手ではなく、頭部を直接、美菜の顔に打ち付けたのだ!!


 「ぐはっ!!」


 「美菜!!」


 美菜の体は床に叩きつけられ、引きずられた。だが、すぐに立ち上がり、竹刀を構えた。


 先程の一撃で、美菜は舞台端まで追いやられていた。


 「大丈夫か!?」


 アタルが叫んだ。美菜は相手を見据えたまま片手の平でアタルを制止させた。邪魔をするなということだ。


 「けどお前……。」


 アタルたちは言葉を失った。美菜の鼻から、血がだらだらと流れ出ていた。


 「美菜ちゃんこれ!!」


 穂乃佳がティッシュを投げ入れようとした。それが舞台上に上がる前に、美菜は竹刀で弾いた。


 「邪魔しないで。『破滅』させたいの?」


 美菜は目をやることも無くそう言い放ち、竹刀を構えた。威嚇にも見えるその態度。ほとんど狂気と思えるその行動に、誰も何も言えなくなった。


 滾滾と流れ出る真紅の血が、唇を渡って顎まで伝い、雫になって彼女の竹刀に落ちていく。デオムはその姿を見てケラケラ笑う。


 「ダッセーナ!! ケケケ!!」


 美菜は黙り、静かに竹刀を構えていた。先程までの構えが騒々しく感じるように彼女は静けさに満ちていた。


 その静けさに、最も恐れをなしていたのは、対戦相手のデオムであろう。人とは思えない彼ですら、この美菜の姿を見て恐ろしいと思わないはずがない。デオムの挑発は美菜の隙を誘うものなのだ。


 美菜は全く動じない。寸分の隙も無く、デオムは一定の距離から踏み込めなかった。


 攻めあぐねているデオムに対し、優燈とサキは舞い上がっていた。


 「いち、に、さん」「はーいぃ!」


 優燈とサキは天空の舞を舞った!

 みんなのHPが少し回復した!!

 みんなの疲れが少しとれた!!

 『???2』が解除された!!


 「よし!!」「はーいぃ!!」


 そして時は来た。


 「美菜ちゃーん!!」


 優燈が舞台上に向けて大声で呼びかける。


 「魔法はまだダメだけど。それ以外はダイジョーブだよー!!」


 今まで動かなかった美菜の口元が僅かに動いた。


 「……ありがと。」


 そして美菜は手の甲で血を拭い、竹刀と共に振り払った。


 鮮血が舞台に飛び散り、真紅の斑点を作る。


 デオムはその斑点の出来るのを見ていたが、やがて視線を戻した。戻した先の美菜の顔は、笑みを浮かべていたのだ。


 「ナ、ナニヲ……。」


 デオムにも、仲間にすらも分からなかったその笑顔の理由を、美菜は口を開いた。


 「あなたは知ってるかしら。」


 その声は、どこか普段の美菜と違う。落ち着いていて、それでいてどこかに高揚感が潜んでいる。


 「この世に生きてるのは人だけでないと。」


 静かの空間を切り裂くように、美菜の周囲に異様な空間が出来ていくように。


 「天使や、悪魔、時には神でさえ。この世に在る事を。」


 彼女はそこまで言い終えると、自らの目に手をやった。その瞳から一つの黒いレンズが取れる。


 彼女はそのレンズを地面に落とし、自らの足で踏みつけた。足を上げ元の位置に戻すと、黒い粉末が白い舞台を汚していた。


 「他人にいう事は無かった。それがたとえ仲間でも。」


 「!?」


 舞台に居る者、そばで見守るもの、彼女の為に舞って居る者。


 誰もが衝撃のあまり絶句した。


 彼女の瞳は斜陽が海へ落ちる寸前の輝きを掬って固めた色をしていた。




            「喜びなさい。」




 美菜のその一言一句が、この空間の静寂を破壊していく。




          「私と本気で戦える事。」




 デオムは仰け反り、さらに距離を稼いだ。美菜の周囲からはあの時の灼熱の炎のような殺気が溢れだしていた。




        「あなたがきっと、最初で最後よ。」




 美菜は竹刀を構える。それだけで、彼女の視線の無いところにすら、悪寒のするような圧迫感が立ち込める。静かでありながら落ち着かない、今にも虫唾の走るような蠢く構え。富士の樹海にいるような感覚を与えてくる。山のように動かず、林のように静かでありながら、風のように速く、いつ噴火するかも分からないように鼓動する。


 そんな中、デオムは突如として笑い出した。


 「ソノテイドデ、カッタツモリカ?」


 それに疑念を抱くことも無く、美菜は笑顔でいた。無邪気でいながら、紅玉の美しく輝くような瞳が相手を捉えながら。敵の質問に、彼女は答えた。




         「ここが、あなたの墓場よ。」

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