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学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
最終章 明けの明星
31/42

五 時間稼ぎの壁

 マモルが言った。


 「時間の事なら気にするな。いくらでも稼いでやるよ。」


 嘘では無かった。あれから長い戦いが続いている。


 デオムの持久力は恐ろしいところであったが、それでもマモルの守りは固く、未だに崩せそうにない。マモルには常に気を付けていることがあった。まさに守りの理念である。


 「守りを固めるとき、相手より有利に戦ってはならない。」


 マモルが時間を稼いでる間、優燈とサキとアタルは時音の為に舞い、龍人とデゥエスとみのるは穂乃佳や美菜の目が覚めるのを待つ一方で、今後の順番について再考していた。


 以前の順番は以下の通りだった。


             1.龍人

             2.カケル

             3.アタル

             4.穂乃佳

             5.時音

             6.優燈

             7.サキ

             8.マモル

             9.みのる

             10.デゥエス

             11.美菜


 ただこの順番では、優燈が魔法を使える事、カケルが不在である事、などが考慮されておらず、現状ほとんど役に立っていないのであった。


 先ず、これまでの実際の順番を見ていく。


              1.龍人

             2.アタル

             3.穂乃佳

             4.時音

              5.マモル


 この後に続く人を考える時、重要になる事柄があった。


 「サキと優燈は順番を離すか、後ろにした方が良いよな。」


 龍人が言った。サキと優燈は回復係、しかし、このサバイバルマッチでは『敗者』になってしまうと魔法が使えないことから、二人を後ろの方に持ってくるべきであった。それでいて順番を離すのは、先に敗北して傷ついた方を後ろの順番の者が回復すると、泥沼の持久戦に入っても戦い続けることが出来るからである。優燈の力があれば、デオムとファテゥに勝つことは簡単だと思われたが、しかし、サキの舞の効果が舞台上で戦っている者に現れていなかったから、舞台上では魔法が使えない、あるいは効果が薄いのかもしれない。


 「あと、美菜の事も考えないとね。いつ起きるか分からないし。起きてすぐ戦えるかも分からないし。」


 デゥエスが言った。穂乃佳はともかく、美菜はまだ正式に『身代わり』になったわけでは無かったので、順番に入れることが出来る。デゥエスの言う通りで、恐らく、順番の最後か、後発の回復係の前に入ることになるだろう。


 「それよりも、一番心配なのは、残りのメンツで勝てるかどうかだ。」


 みのるが言った。確かにそうだ。今までは全員でデオムを弱らせて、美菜が止めを差し、龍人とファテゥの戦いに持ち込むといった作戦を主軸にたてられていたが、デオムと全員の様子を見ていれば、今から勝負に出て余計な犠牲を払う必要もないのではないかとみのるは考えていた。


 「時音にこれ以上ケガさせられないもんね。」「出来るだけ早いサイクルで、敵を倒して『再臨』を狙う。こうすれば回復が途切れることもないしね。」「冷静だな……。」「ケガ人が少ないにこした事は無いしね。」

 「ほろほろ……。」「し、時音?」「はーいぃ!?」「時音ちゃんまだ痛いのー?」「……青春だなぁ。」「どうしたの?」「ま、早いとこ考えようぜ。」


 そんなこんなで会議は進み……。


 「こんな感じかな?」


     古い順番           新しい順番


    1.龍人           1.龍人

    2.カケル          2.アタル

    3.アタル          3.穂乃佳

    4.穂乃佳          4.時音

    5.時音           5.マモル

    6.優燈           6.デゥエス

    7.サキ           7.サキ

    8.マモル          8.みのる

    9.みのる          9.美菜

    10.デゥエス         10.優燈

    11.美菜       補欠 カケル(役立たず)



 「これでいいか?」


 龍人は出来たリストをみんなに見せて行った。


 「私はいいよー。」「コク。」「いいんじゃね? 俺の出番終わったけどな!」「あたしもそれでいいと思うよ。」「はーいぃ!」「じゃあ、これで行こう。結局、みんなで戦うことになったけど。」


 みのるは少し落ち込んでいたが、みんなは大丈夫だと言った。


 「ここに来たみんな。始めから戦うことを胸に決めた仲間たちです。なにとぞ、ご理解の程を。」


 サキはみのるの目をしっかりと見て言った。みんなサキの言った事を聞いてうなずいた。


 「そうだぜ。俺たちの事は気にすんなよ、みのる!」


 「ああ、ありがとう……。」


 みのるはいくらか救われて、表情が柔らくなっていた。


 「さて、マモルの次は、デゥエスか……。」


 「天空の舞だ~!!」「はーいぃ!!」


 優燈とサキは天空の舞を舞った!

 みんなのHPが少し回復した!!

 みんなの疲れが少しとれた!!

 みんながやさしくなった!!!


 「で、お前らまだなんかやってたのかよ?」


 龍人は呆れた眼差しを彼女らに向けた。優燈は天使のコスプレをしていた。優燈は純白のドレスと翼を見せびらかす。


 「どう? ねぇ、似合ってるー?」


 優燈は眩い笑顔であったが、龍人はため息……改め深呼吸をして、言い放った。


 「似合ってない。」


              ガーン!!


 「ひどいー!!」「いや、んなもん似合ってねぇよ!」「ぎゃー!」


 「龍人全然優しくないー!! 天界の舞しっぱーい!! もいっかい!」「は^-^いぃ!」


 「もう全くこいつらは……。」


 龍人はため息……改め深呼吸をした。「気にしてるのね……。」


 「あれ、時音は?」


 龍人はふと思いついて優燈に聞いた。優燈は舞いながら、


 「美菜ちゃんの抱き枕になってるよー。」


 と、答えた。「この蒸しあっつい中よくやるなー、じゃねえよ!」


 「さむーい!!」「さぁ>~<みぃ!!」


 「……お前らもほどほどにな。」


 龍人はそう言って彼女らと少し距離を置いた。デゥエスは相変わらず穂乃佳の膝枕になっていた。


 「……。」


 黙っているが、何だか嬉しそうだった。声を掛けるのも申し訳なかったので、美菜の様子を見た。


 美菜はムフムフ言いながら時音を抱きかかえていた。


 「ほんとに抱き枕になってんのかよ……。」


 「コク。」


 時音は龍人の方をじーっと見ながら、美菜にムフムフ言われていた。龍人はその異様な光景から目を離そうとしたが、時音の事を見て思い出した。


 「腕はもう痛くないか?」


 「もう大丈夫。」


 龍人に聞かれて、時音は答えた。


 「ふーん。そっか……って喋った!?」


 龍人は今更ながら仰天した。時音は首を傾げる。


 「そんなにビックリする?」「いや、だだだだって、時音だろ?」

「うん。」「時音は喋らねぇやつだって思ってたから。」「喋るよ?」「ああ今はな。なんで普段喋らねぇんだ?」「何となく、喋らなくても通じてくれる人がいるのって、今だけだから。」「はぁ、なるほど。」


 龍人は時音の不思議な考え方について過去を振り返って考えていた。美菜と穂乃佳、下手すれば自分も、言われてみれば、何やかんやである程度は分かっていたな、と。今更ながら時音の事が少しわかった。


 「別に喋りたくねぇ訳じゃねぇんだ?」「ちょっと、苦手。」「そっか。」「うん。でも、今いるみんなとは、もっと話してみたい。」「へぇ。まあ、まだ新学年始まったばっかりだからな、これからみんなで喋ったり、休みになりゃ遊びに行ったりできるし、世界が平和になればな!」


 龍人は笑顔で時音に言った。時音も笑顔になってうなずいた。こんな時でも、彼らは笑顔でいたのだ。美菜が目覚めるのを待ちながら、少しの間話していた。


 「て言うか、暑くないのか?」


 「暑い……。」


 美菜は幸せそうにムフムフ言っている。


 幸せそうな彼女に反して、舞台の上では激闘が繰り広げられていた。


 「まずいな……。」


 アタルとみのるは観戦していたが、それが芳しくない状況と踏んでいた。先程から、マモルの防御が薄くなってきたのだ。それは傍から見れば決して悪くは無かった。マモルにも攻めることが出来ているということ。ただしマモルの守りの理念を思い出してほしい。


 「守りを固めるとき、相手より有利に戦ってはならない。」


 マモルはこれとは反する事をしていた。いや、させられていたのだ。デオムはマモルの防御を見抜き、その弱点に付け込んだのだった。マモルは徐々に疲労し始め、隙が出来るようになっていた。


 「デゥエスを呼んで来ようか。」


 アタルが聞くと、みのるは首を横に振った。


 「まだ、まだマモルには切り札があるはずだよ。」


 二人は再び舞台上に視線をやった。




 「天空の舞!!」「はーいぃ!!」


 優燈とサキは天空の舞を舞った!

 みんなのHPが少し回復した!!

 みんなの疲れが少しとれた!!

 『???1』が解除された!!


 「やった!!」「はーいぃ!」



     「ムニャムニャ……!!」「ムフムフ……!!!」


             「は!?」


 その瞬間、眠っていた二人が跳び起きた!!


 「ほ、穂乃佳!!」


 デゥエスは穂乃佳に抱き付いて喜んだ。


 「へ、どうなってるのー?」


 穂乃佳は困惑しつつも、あまりに嬉しそうにしているデゥエスの頭を撫でていた。


 一方こちらでは、


 「しおんー!!」


 「イギャー!!」


 抱き付かれている時音が必死にもがいて脱出しようとしていた。美菜はさらに強く抱きしめて離そうとしないでいた。


 「まぁ、元気で良かった……のか?」


 龍人はぽかんとしていたが、まあ、元気で良かったということにしておこう。美菜は時音に逃げられたようでシュン……、としていたが、すぐに気を取り直し、龍人に声を掛けた。


 「ねぇ、今誰? マモルが戦ってるの!?」


 聞くより見た方が早かった。美菜は一瞬で舞台上の状況を理解した。そして竹刀を持って、デゥエスの所に行った。


 「あいつ、何する気だ?」「?」


 龍人は疑問に思い、時音と共に美菜の後を追った。




 〇============================〇




 「ねぇ、私と順番代わってよ!」


 穂乃佳と戯れているデゥエスに、美菜はいきなり言い放った。


 「え、なんでよ?」


 デゥエスは穂乃佳から離れて、美菜と向き合った。この二人、ものの言い方とかのせいだろうか、この雰囲気ですごく険悪に見える。


 「お願い。あいつは私が倒す。それに、この子たちの借りもあるし。」


 美菜がうつむき加減にそう言った。デゥエスも少し疑問に思ったこともあるが、それについては言及しなかった。


 「いいわよ。ま、あんたが負けても勝っても、あたしがいるから大船に乗ったつもりでいるのね。」


 デゥエスは腕を組み胸を張って言った。美菜は笑顔でありがとうと言って舞台そでに赴いた。美菜のそんな後姿を見ながら、デゥエスは呟いた。


 「なんか、気が狂うわね。」


 「ねぇ、マモル君の応援に行こー?」「行こー。」「そうするか。」


 こうして龍人と穂乃佳、時音にデゥエスは舞台に近付いて行った。




 〇============================〇




 舞台上では、なんと、マモルが怒涛の攻めを見せていた。時音の落とした竹刀を使い、二刀流で戦っていたのだ。しかも、相手に一瞬の反撃の隙を与えずにいたのだ。


 「でりゃっ!!」


 マモルが気迫と両刀でデオムを圧倒していたが、すぐにその攻めは終わってしまう。それは、明るく光り輝く程早く消えてしまう花火のようであった。


 マモルは終には疲労のために舞台に膝をつき、声を枯らしていた。


 「ここまでか……。」


 そこに、一筋の凛とした声が届いた。


 「マモル!! 私に代わりなさい!!」


 その声は、聞き覚えのあるもの、ずっと待っていたその声の主は。


 「美菜か!?」


 マモルは立ち上がり、竹刀を納刀した。


 「……。」


 彼は対戦者に一礼して、舞台を降りて行った。


 「俺の役目は、これで果たした。」


 マモルと美菜は入れ替わるように舞台そでで交差する。


 「最後はやっぱり『攻撃は最大の防御』なのね。ただ、最後のは攻撃と言うより、ただの滅多打ちだったわよ?」


 「良く言うぜ!」


 マモルは笑顔で美菜を送り出した。美菜は真剣な表情で舞台に上がり、対戦者に向かった。


 「サッキハヨクモ……!」


 デオムはあの事を未だに根に持っていた。何ともねちっこいやつである。


 「……。」


 美菜は静かに竹刀を構えた。これにはアタルやマモル、穂乃佳と時音も驚いた。普段の試合であれば、相手に必ず一礼する美菜であるが、ここではこれをしなかった。舞台に上がった途端に、これは試合ではなく、他の何かだと本能的に感じ取ってしまったのだ。彼女は切先を相手に向け、いつでも攻めにまわれるような、そんな間合いを取っていた。


 「ケ! ココデコロシテヤル……!!」


 デオムの殺気も先程までとは比にならない。ただ、一番初めの時のような力強さは感じなかった。


 アタルの執念の突き、美菜様の悪魔のような力、穂乃佳の怒涛の攻め、龍人の一撃、時音の能力による圧倒、マモルの執念の守りと火のような攻撃……。


 これまで、何人もの戦士が戦ってきたのだ。デオムに疲労が溜まっていてもおかしくない。


 そして、今、女子最強と名高い美菜がその舞台上に立った。


 相手は一度は完封している相手。それでもあの時とは状況が違う、この舞台に立ち、仲間を次々と打ち取って来たデオムと向かい合い。彼女は、自らの力と、仲間たちのみを信じるのだった。

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