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学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
最終章 明けの明星
30/42

四 音の無い時間

 時は流れる。


 その流れは自然の中に息づいている。


 その自然は、例えば風の流れや、大地の鼓動、水の脈動であるかもしれない。


ただ、それらを越えたところにあるのは彼女だけが見える景色。


過去、現在、未来の三つの視点が常にある。


この三つから最適な時間を今に引き寄せる。これこそが時音の能力だった。


 「違う」


 「ナニ!?」


 デオムも驚いたであろう。


 当たったはずの攻撃が、次の瞬間にはかわされていたのだから。


 この、過去、現在、未来の三つの視点は、ある条件の下にある時、さらにそれぞれ過去、現在、未来の三つに分岐する。これはすなわち、時音には最大九つの選択肢があり、そこから最適な選択をする。それが、今になり、未来と過去を形作っていく。


 到底理解できない能力を時音は手足のように操り、デオムを圧倒していた。


 だが、このような能力にはある条件が必要であった。


 先ず、時間を操る能力によって変化が生じるのが自分一人だけである事。これは他人の時間を変化させることは出来ないということだ。当然ながら、ずいぶん昔に起こったことを変化させることも出来ない。時間の変更によって変化するのは自分だけ。元いた場所か、今いる場所か、次に行く場所。この三つの内から選択するのである。


 次に、常に集中すること。これだけの能力なのだからそれにふさわしい集中力が必要である。普段なら一日に数分が限度だが、時音はこの能力を発動したり、気を休めたりしながら戦っていた。常に全開にするのではなく、使い分けていた。


 そんな事とは露知らず、仲間たちは時音を全力で応援していた。


 「フレー!! フレー!! しーおーん!!」


 「頑張れ頑張れ時音……ってお前たちなぁ!! 別の応援方法はねぇのかよ!!」


 龍人がツッコんだ。それもそのはず、優燈とサキは学ランを着て、マモルは太鼓を叩いていた。


 「だって、これが応援の舞だもん。ねぇ、サキちゃん?」


 「はーいぃ! こうしないと応援の舞の意味がありませぬ!!」


 「ね?」 「……そうか。」


 龍人は呆れて、時音の方に目をやった。時音から物凄い力を感じたら、今度は何も感じなくなる。それは波が打って返すような感覚だった。仲間たちは相変わらず応援しているが、時音が効果を得られている感じはない。


 「うーん。やっぱり舞台上では魔法の効果が薄いのかな?」


 「そうでございましょうね。いや、きっとそうでしょう。」


 優燈とサキはお互いうなずき合い、舞うのをやめて、時音の応援をした。


 「フレー!! フレー!! しーおーん!!」


 「頑張れ頑張れしーおーん!!」


 この応援はずっと続いた。「さっきと変わってねぇじゃん!!」


 「全くあいつらは……。」


 龍人は大人しそうなデゥエスの方へ行った。デゥエスは穂乃佳と美菜の様子を見ていたのだが、ここで龍人が気付く。


 「そう言えば、優燈のやつ美菜に膝枕してたんじゃなかったのか?」


 「だから、こうなっているのよ……。」


 デゥエスが呟いた。見るとデゥエスの右股には美菜が、左股には穂乃佳がそれぞれを枕に眠っていた。


 「なんか、シュールだな。」「でしょ?」


 母性が溢れていると言いたいところだが、あいにくデゥエスは時音と年が近そうに見えるのだった。少女は二人の大きな赤ん坊の頭を撫でていた。


 「まさか、あたしがこんなことするなんてね。」


 「ああ、まさかだろうな。」


 龍人は同情してため息をついた。その時、デゥエスが注意した。


 「ため息つくと幸せが逃げていくのよ?」


 「なんだ、それ?」「知らないの?」


 「ああ、迷信とかあんま気にしねぇからな。」


 「でしょうね。あんたそんな感じの雰囲気だもん。」


 「ため息せずに幸せが溜まるんだったら誰もつかねぇよ。」


 「ちょっとは溜まるかもよ? こんな時だから、少しでも幸運を溜めときなさいね。」


 「なんでだ?」


 龍人が聞くと、デゥエスはふふふと笑って答えた。


 「そのちょっとの幸運が、運命をガラッと変えてしまうかもしれないから。」


 「へぇ。」


 龍人は無関心そうに言った。


 「あたしもだいぶ変わっちゃったわね。」


 デゥエスがそう小声で零した時、美菜が少しだけ動いた。デゥエスは優しく、美菜の頭を撫でていた。


 龍人は、舞台の上に視線を移した。そこでは時音が何とか戦っていたが、だんだん相手に圧倒され始めていた。


 デオムが振りかぶった爪を避け、時音は距離を取って竹刀を構え直す。そして時音は相手を眼力で威嚇する。


 「キッ!!」


 だが、相手がデオムでは意味を成さなかった。


 「ケ、ソノテイドカ?」


 時音は悔しさと闘争心を奮い立たせるためか、普段からは想像もつかないような表情をしていた。むき出しの犬歯、眉間の深い皺、敵を睨む眼光には潤みすら含まれていた。


 「ウグゥ……!!」


 まるで闘犬のように唸って、敵との距離を測る。こうでもしていないと彼女は恐怖で竹刀すら振れなくなってしまいそうだったのだ。彼女の胸の中にはその恐怖に対する理解があったから余計に悔しくなってしまう。今まであいつと戦ってきた仲間には勇気があったのに、自分にはそれが無い。そう考えると、もう引くに引けなくなってきた。


 その時、少女は叫んだ。悲痛に軋む胸の吐き出す、そんな悲鳴を。


 今まで自分に何が出来たのか、何をしてきたのか、何を思ってきたのか。日々の自問自答が知らず知らずのうちに彼女を蝕んでいた。いつも一緒に居た、あの二人の為に、美菜と穂乃佳があんなふうになったのに、自分には何も出来ないでいた。



   「みんなが苦しんでるのに何もできないなんてッ!!!」



 時音は竹刀を振り上げて、デオムの懐に突っ込んだ。しかし、時音の攻撃はあまりにも呆気なく弾かれてしまう。




      「時音っ!!」「時音ちゃんっ!!」「!!」




 時音と竹刀は空を舞い、舞台上に叩きつけられた。竹刀は時音から離れた所に落ちた。さらに時音はその時の衝撃の痛みで片腕が上手く動かせないでいた。


 「トドメヲサスカ。」


 デオムがゆっくりと少女に近付いて行く。恐ろしい爪をぎらぎらさせながら、蠢く。この世のものとは思えなかった。


 「早く交代して!!」


 みのるが必死に声を張り上げた。少女は張り合うように叫んだ。


 「ぃやだっっ!!」


 誰もが耳を疑ったが、少女は涙に喘ぎ這いつくばりながらも、決死に竹刀の元にたどり着こうとして。


 「私が……、私が……。」


 そして手を伸ばした。それすら踏み潰そうと影が迫る。身を守るように、最後の力を振り絞って叫んだ。




      「私が……みんな、を……、守る…んだ……っ!!」




               !?




 誰もが言葉を失った。少女のその手が、竹刀に届くことは無かったのだ。少年がしっかりと彼女の手を握っていたのだ。


 



           「その役目は、俺のだ。」




  少女の手を取り、彼は言った。




           「みんなを守るのは」




 少女は鋭く少年を睨んだが、それが最後の悪あがきになった。少年は動けなくなった少女を抱きかかえて舞台の端まで持ってくる。


 「後はよろしくな。」


 「はーいぃ! 後はお任せ管シャイ!!」


 少年は少女を預けて、舞台の中央までやって来る。丁度殴り飛ばされた怪人が立ち上がる頃だった。


 「キサマァア!!」


 「すまないな。」


 怒れる怪人に少年は笑いかけた。それは無邪気なようで、どこかに深い憤りを隠し持っていた。


 「俺の名前を呼ばれた気がしてね、そうだろ?」


 「おお~かっくいいー!」「さすがに肝を冷やしたよ。」

「さすがはみんなの『壁』ね。」


 「ったく。」


 龍人は腕組みをして安堵のため息をつきそうになったが途中で深呼吸に変えた。


 彼の名は『マモル』。そう、少女は確かに彼の名前を呼んでいた。そして、二人は手を握った。これでは『身代わり』としての証明が簡単に出来てしまう。『この世界』もそう判断したのだろう。怪人から禍々しいオーラを感じることは無かった。


 「さて、俺は突然やって来たからな。補欠やお寝坊さんの為の順番の事はよろしく頼むよ諸君。あ、時間の事なら気にするな。いくらでも稼いでやるよ。」


 「ああ、任せとけ!」


 龍人たちは、動けなくなった時音を地面に寝かせて、回復の舞を舞う者と順番について考える者に分かれた。


 舞台上では少年が体をほぐし、竹刀を握り、そして切先を敵に向けて構えた。


 「次の相手は俺だ!」


 「ソウカ。」


 こうして二人はお互いを見据え、そして火蓋を切る。

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