三日目 眩しいたいよう その1
「おはよー。みんなはやいねー。」
のほほん穂乃佳がやって来た。穂乃佳と時音以外はもう集まっているのだが、穂乃佳は時音と一緒じゃなかったらしい。
「あれー? 時音ちゃんはー?」
優燈が訊くと穂乃佳は首を傾げた。
「時音は『今日は一人で行く』って言ってたんだけど……。まだ学校に着いてないのかなー?」
時音の事が気になってきた穂乃佳は一人で様子を見に行くと言い出した。一人は危ないので、一応三銃士を護衛につけて教室を後にした。文面からするとすごい安心できる。
穂乃佳と三銃士がいなくなって、残ったのは龍人と優燈とみのると美菜の四人。彼らは作戦を練る傍ら、警察が全然来ないことを不審に思っていた。
「なんでこんなに来るのが遅いんだろうな。」
龍人は腕を組んで、険しい表情をしている。優燈はいつもと変わらず訳もなく歌を歌っている。みのるには一つの考えがあった。それは
「もう、世界は奴らの手に落ちているのかも。」
というものだった。言葉にしてみると恐ろしいことであった。教室の空気は一気に重たくなった。変わらないのは優燈の歌声だけだった。
「でも、それはさすがに無いんじゃないかな……?」
美菜が弱弱しく反論する。龍人は黙ったままみのるの方を見ている。優燈は一曲歌い終わって休憩中。物音がしなくなった。
机を全部前の黒板の方にやって、ほうきでサッと掃いた床に座り込んだ彼ら。世界がすでに征服された、そのことに思い当たる節がある。
初めに沈黙を破ったのはみのるだった。
「僕がこんな風に思ったのは、今朝、家に誰も居なかったからなんだ。学校に来てみれば何かわかるかもしれないって思ったけど、こんなことしか思いつかなかった。」
話し終わると、しばらく誰も何も言わなかった。
「みんなが元気を失くすようなこと言って、ごめん。」
みのるが謝ると、龍人と美菜は
「大丈夫。」
「私も気にしないよ!」
と、励ますのだった。二人とも努めて明るく振る舞ってはいたものの、本当は苦しかった。みのる自身が体験したことは、ほかの二人にも当てはまっていたからだ。
龍人は家に帰って家族がいないことに気が付いた。どこかに行っているのだろうとも考えていたが、何となく心配になった。それでも、今日学校に来るために眠ってしまったのだった。
美菜も同様にして、家族がいないことを気にかけながらもここに来た。本当は彼女自身も辛いのだが、仲間を裏切ってしまうような思いから学校に来たのだった。
それがこんな形で分かってしまったのだから、彼らの士気は下がる一方。ただし、優燈だけは違う。本心から悲しんでいないのは彼女だけだった。
「大丈夫。これが終わればきっと元通りだよー!」
優燈は好きな替え歌を歌った。塞がろうとした扉に差し込む光のようであった。今まで気にしていなかった優燈の歌声が、三人を勇気付けてしまう。彼女が空気を読まない少女であるからこその歌はしばらく流れ続けた。
lalala... lalala... lalala... lalala... lalala...
「でも、なんで人がいなくなったんだろうー?」
優燈が不意に口走った。三人は度肝を抜かれたが、みのるはうなずいて思考を巡らす。
「人を一斉に消してしまう技術……。そんなものあるか……?」
「キランってなって、びゅうぅぅんなのかなー?」
「意味が分からん!」
「優燈も一回なったことあるよー!!」
「どんなんだよ、それ。」
みのるの目の前で優燈と龍人が漫才を繰り広げる。その様子を見て、みのるは閃いた。
「分かった、テレビだ!」
みのるが珍しく大声を出す。そして楽しそうに説明していく。これまた珍しい。龍人も美菜もぽかんとしているが、みのるはかまわず説明していく。
「僕らも体験したはずだ。半年前の秋の日、僕らは学校の体育館に避難して、そこでテレビを見ていた。その時、急に怪しい光が画面に映りだして、気が付くと、牢屋の中にいた。そのあと何とか助かってここにいるけど、奴らにはそんな技術があるんだ。もしかしたらテレビだけではなくて、モニターがあればどんなものででもできるんじゃないかな?だから、モニターなんかみない学校にいた僕たちはここにいて、ほかの人たちは、何かしらの画面を見ていた人たちは、奴らに連れていかれたんだと、思う。」
みのるがここまで喋るのも珍しいが、あの面倒見のいい美菜が反応に困っている方が珍しい。それはともかく、みのるの推測が正しければ、自分たち以外にもここにいる人たちは考えてたよりも多いのではないかという希望も見えてきた。特に、
「部活動で遅くまで残っていた人とかが多いかもしれない。」
そうなので、彼らは学校に残って、そんな人たちを待つことにするのだった。