一 鐘の鳴る世界
「その時、何があったのか、僕ではあなたたちに上手く伝えることが出来ない。ただ、一人遅れて来る。」
みのるが話をしているのは、宿敵ファテゥ。
「ま、まぁ、事情はともあれ、その一人もその内、こちらに来るだろう。」
ファテゥがそう言った。カケルの事については若干動揺しているようだが、それ以降は予定通りと言ったところだ。
「では、今からこの戦いのルールを教えてやろう。」
ファテゥと向き合う十人の姿。彼らは身構えた。これから始まる激闘に備えて。
「この戦いは、己の命を賭けて行う。所謂サバイバルマッチだ。」
「そうか。」
怖気づくことなく、みのるは言った。このことはすでにデゥエスから聞いていたからだ。
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それは、まだ教室で会議をしていた頃だ。
「サバイバルマッチ……。」
「そう。各チームから代表を出し、一対一で試合をして、負けた者がその命を捧げる。命を捧げたら次の試合に移行。先に全滅した方が負けよ。」
みのるは言葉を失った。そんなゲームみたいなもので人の命を奪ってしまうのかと考えたからだ。
「そう。でもこれはゲームなんかじゃない。そうしないと、目的が達成できないから。」
「目的? それは一体……。」
この世界を異空間に飲み込ませること
「く、そんな事……。」
「させねぇよ! 俺が、俺たちが!!」
龍人は声を上げた。
「難しい話は置いといて、取り敢えず勝てばいいんだろ?」
「まぁ、それが一番ね。」
デゥエスも納得した。みんなはちょっと引いてたけど。
「難しいルールをまとめるなら、こんな感じかしら……。」
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1.『身代わり』
・このサバイバルマッチでは『身代わり』を扱う。
・試合の敗者は、自分の味方一名を『身代わり』にする事が出来る。『身代わり』はその試合に強制的に出場し、勝敗を喫する。その『身代わり』が敗北した場合も、他の『身代わり』を選択することが出来る。ただし、その試合中に、敗者、又は一度『身代わり』になったものを再度『身代わり』にする事は出来ない。
2.『再臨』
・このサバイバルマッチでは『再臨』を扱う。
・『身代わり』が敵を倒した場合、敗者、ないしそれまでの『身代わり』に課せられた義務は無かったものとすることができる。すなわち『再臨』する。
・『再臨』する場合、次の試合に臨むのは、敗者である。
3.『破滅』
・このサバイバルマッチでは『破滅』を扱う。
・『破滅』する者は以下の通りである。
ー、試合を阻害する者
ー、課せられた義務を放棄するもの
・破滅の執行者は敵が行うものとする。その際、時空の歪みがその者を護衛する。
・ただし、次の者は『破滅』を免れる。
-、『破滅』を知らない者。
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「なんか細けぇな……。」
龍人は欠伸をした。
「まぁ、簡単に言うなら……。」
1.もし自分が負けたら、味方に戦ってもらえる。ただ、その人も負けたら、自分はその人の代わりになることが出来ない。
「これは、負けたら次の人にどんどん代わって行くって事でいいのかな?」
「まぁ、ほとんどそうね。たまに意地張って命を捧げる人がいるけど。」
「ただ、もし相手一人に対して全員が負けると、必ず一人失うってことか?」
龍人が聞くとみのるはうなずいた。
「んじゃ、最後は俺に任せろ。」
「いや、それは後で決めよう。今はルールの理解の方が先だ。」
「はいよ!」
「次は、『再臨』か。」
2.相手を倒したら、みんな復活する。
復活したら、さっきまでの敗者が次の試合に出る。
「これって……。」
みのるは言葉に詰まった。彼はすでに気付いていたのだ。
「そうよ。かなり過酷なルール。」
「なんでだ? 一人倒したらみんな復活して、また『身代わり』とかになれんだろ?」
龍人が言うと、みのるはうなずいた。
「確かに、こちらにも利点はある。だけど……。」
これは、相手を一人倒しても、こちらが負ければまた相手が復活してしまう、ということ。
つまり、戦いを終わらせるには、一人が相手全員を倒すか……。
「じゃあ、俺はやっぱり最初か?」
こちらが敗者を『再臨』させて、次の試合に挑むか。
「そうだな。まあ、順番の事は後回しで。」
「まじかよ。最後のルールなんてどうせあれだろ?」
3.ルール破った奴はぶっころ!!
一、試合の邪魔はするな!!
一、約束は守れ!!
でも、知らねぇ奴の事なんて知らねぇ!!
「そ、ホントにそんな感じか……?」
「あ、間違ってたか?」
「いや、間違ってはないと思うけど……。」
「あ、言い忘れてた。」
「何を!?」
「課せられた義務って『敗者』は魔法禁止。『身代わり』は、逃亡禁止よ。」
「ふーん。じゃあ、これでおしまい!! さ、順番決めようぜ!!」
「そうだな。時間もそろそろだし。」
こうして彼らは順番を決めていった。
そして順番はこうなった
1.龍人
2.カケル
3.アタル
4.穂乃佳
5.時音
6.優燈
7.サキ
8.マモル
9.みのる
10.デゥエス
11.美菜
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未だあの時は、敵が二人いるという想定だった。だが、今は違う。みのるはファテゥに尋ねた。
「本当にそのルールでいいのか? お前は一人のようだが。」
「おーい、ファテゥ。」
遠くから聞き覚えのある声が飛んで来る。
「ま、まさか!!」
彼らの表情が凍りつく。そこに居たのは……。
「一人くラいナラ俺ガ引っパりアげてこようカ?」
「放っておけ、それに奴らもお前の事をそのまま通す気はないからな。」
「せっカく、タすけてヤろうとしタのに。うん?」
「あ、あんた……。」
デゥエスでさえ言葉を失った。
「おヤ? ゆうれいでも見タ様ナ、カおダナ!」
デオム。確かに優燈に倒されたはずなのに……。
「マァ、こマカい事ハ気にしナい方ガ身のタめサ。」
「なんだよあいつ……!」
アタルたちは気が動転している。
「もう一回ぶっ飛ばせばいいだけだろ。」
龍人は全く動じていなかった。人が蘇る事なんて日常茶飯事ぐらいにしか思ってないようにふるまっている。特に考えがあるわけでもなさそうだが。
「さぁ。さっさと始めようぜ。後がつっかえてるからな。」
龍人はひょいっと試合の舞台に上がった。
「おいおい。タダでサえ、みじカい人生ガ、サラに縮むぞ?」
デオムが嘲笑するのを龍人は特に気にしなかった。
「人生? 鶏の一生の方が短いと思うけどな。」
「く、言わせておけば!!」
敵がひょいっと上がって来る。
「ナいても知ラナいぞ?」
敵は隠していた殺気を全開にして龍人の周囲を覆う。
「死ねぇ!!」
デオムが襲い掛かった時、龍人はひょいっと何食わぬ顔で右手を上げた。
「ナんダ降サん、カァ!?」
敵があざ笑うように訊いて来て、龍人は
「おう。参った。」
とあっけなく答えてしまったのだ。




