午後7時 わかいって、いいなぁ~
「大丈夫よ~! きっとよくなるからね!」
保健室では、保健野先生とマネージャーたち、各部の部長たちが動けなくなった仲間を手当していた。保健室だけでは足りないため、他にもいくつか教室を開けて比較的症状の軽いものを寝かせていた。みのるとサキが手当をしている部屋には、美菜と穂乃佳、時音がいた。
「みのる君……。ごめんね……。」
美菜は僅かに発せられる声でみのるに謝った。
「私がもっとしっかりしていたら、きっとみんなも……。」
「美菜の責任じゃないよ。これは。僕がもっと気を付けておくべきだった。」
みのるは美菜に微笑んで、しかし、その笑みはすぐに消えていった。
「雨が降っただけで崩れてるんじゃ、この先もどうなるか……。」
「大丈夫ですよ。みのる君。」
暗いみのるを励ますようにサキが言った。
「このサキ、同じ失態はいたしません!!」
サキは敬礼して、斜め九十度高高度急降下型の前方伸身宙返り3回ひねりを発動した。それを見て、みのるの表情も少し柔らかくなった。
「ありがとう。サキさん。」
みのるがサキの目を見てお礼を言った。それはサキにとってとんでもない破壊力を持っていた。
「は、はははーいぃぃ!!!」
サキは興奮のあまり喜びの舞を舞った。みのると美菜と穂乃佳と時音のHPが50回復した。
「あれー、ちょっと体が楽になった気がする~?」
穂乃佳がひょこっと起き上がった。
「え、何が起こったの? まさか、サキちゃん?」
美菜も難無く起き上がる。
「はーいぃ!? そんな、サキは魔法使いではありますまい!」
サキは直下型ライトニングストーム風のトリプルアクセルを三度執り行い否定したが、みのるが首を傾げる。
「でも、みんな元気になってるみたいだよ?」
「そ、そのようでごじゃりまするね……。」
サキはもう一度喜びの舞を踊った。みんなのHPが50回復した。
「パッ!!」
時音が飛び起きた。それを見て美菜と穂乃佳が時音に抱き付く。
「時音~~っ!!」
「シュンッ!!」
時音はまず穂乃佳をかわす。これはいつも見慣れているので、問題ない。次は普段はこんなことしてこない美菜だ。美菜は穂乃佳と違って全力で時音をぎゅーっとしに来るので厄介だ。
「ちょっとぎゅーさせて!!」
美菜の俊敏な移動が時音を惑わす。だが、時音もこの一日でかなりの洞察力を得たのだ。
美菜は右利きの剣士。その戦闘態勢は走っていても毎日竹刀を持ち続けた結果、右足の方が前に出やすくなっている。ということは、美菜の右側を突けば回避しやすくなる。
「掛かった!!」
しかし、それは美菜の考えも同じ、彼女は自分の右側に最大限の注意を払った。
二人の距離がさらに詰まる。時音は床を踏み込み、美菜の右側へ……!
「貰った!!」
美菜の体が右へ動く。だが、彼女が抱いたのは教室の空気だった。
「な、なんで!?」
「み、美菜ちゃん!?」
ドンッ!!
美菜は止まりきれず穂乃佳に追突した。
「いった~い!」
「いたた……。何でかわされたの?」
そう、美菜が右へ動いた瞬間、時音はその反対側へ動いたのだ。時音の身体能力は、高くても美菜と同じくらいか、それより低いため、美菜の動きを見てから判断して、体勢を変えて動くことはできないはず。にもかかわらずかわされた。それはなぜか。それは、初めからそうするつもりだったからだ。
「ふふふ。」
時音は可笑しくなって微笑んでいる。それをみて穂乃佳と美菜は……。
「キャー!! そんな小悪魔みたいな時音ちゃんも素敵!!」
「時音可愛い!!」
と、相変わらずであった。そこにみのるが声を掛ける。
「ねぇ、僕もいいかな?」
「ドキッ!!」
時音が振り返ると、そこにはみのるが居た。
「え、まさか……!」「そんな……!」「ピぇ==!」
みのるは時音に手を伸ばし……!
ぽすっ……
「え」「あ」「ほえ!」
三人が唖然とする中、時音の頭にはみのるの手が乗せられていた。
「ぽえぇぇぇ……。」
時音は顔が真っ赤になってほとんど意識が飛んでしまっているようだ。心臓の鼓動が今まで生きてきた中で一番高くなっていると理解できるほどに高鳴る。時音の小さな体が鼓動の度に揺れて、今にも張り裂けそうになるほど、彼女はドキドキしていた。大きな瞳が徐々に赤みを帯び、時音は目を逸らした。
「辛い思いをさせてごめんね……。」
みのるは子供に話しかけるように、優しく、そう言った。
「コク……。」
時音は目線を逸らしたまま、うなずいた。
「僕に、みんなを守れる力があれば……。」
「……あるよ。」
「え?」
「みのるがいてくれたら、私はそれでいい。」
「……時音。」
「みのるは頑張ってる。だから大丈夫。」
「だけど、僕……。」
みのるがうつむく。
「この一日で、いや、この一週間で、何度も失敗して、間違いをしてきた。だから、自分が信じられないんだ。みんなもきっと……。」
「信じてる。」
うつむく彼に飛び込んできたのは、その言葉と、しっかり目線を合わせる時音の瞳だった。時音はそのまま続ける。
「私はみのるを信じてる。」
「でも……。」
「みのるだけじゃないよ。みんなだって、みのるだって人だから、時には失敗することも、間違うこともある。わざとじゃなくたって、知らないうちにだって。」
「……。」
「失敗したって、また元気を出して、頑張っていけばいい。私はずっと、みのるの味方だから。」
「……うん。」
みのるは顔を上げて、時音を見つめた。
「……ありがとう、時音。」
「……。」
時音はしばらく黙ったままだった。
「え、え、え、じょ、状況が、わ、わわかんらに!?」
「ほ、穂乃佳どうしたの!?」
「アベシ!!」
「え、サキちゃんまで!? な、どうなってんのよ!?」
脇で見ていた三人の様子がおかしい。何が起こっているのだろうか。
「ふわ~~……。」
「し、時音!?」
一方、時音は精神力が限界だったらしい。半分昇天してしまっている。みのるが普段からは考えられないくらいに焦っている。
美菜がみのるに言う。
「みのる君、手!!」
「あ!!」
みのるはずっと時音の頭に手を置いたままだった。急いでその手をどけると、時音が絵空事を言っていた。
「ぽえぽえぽえ~~……!!」
「時音!! 戻って来て!!」
「ぽえ~……!!」
当分戻って来そうにない。
「穂乃佳! サキちゃん!」
「どどどどどど!!」
「ふぎゃ!!」
こちらもそのようだ。
「み、みんな大丈夫か!?」
そこに駆け付けたのは三銃士のアタルだった。
「だ、誰がこんなひどいことを……。」
「……。」
みのると美菜は何も言えなかった。
アタルは事情を聞けるような空気ではないことを悟り、口を開く。
「そうだ、みんなに伝えたいことがあるんだ。」
と、始めてみた。すると、美菜が忙しそうに一言。
「何?」
「実は……。」
アタルは少し怯えながら、グラウンドであったことを伝えていく。
優燈と龍人の事、謎の男に言われた決戦の事、そして、みんなを襲った少女の事を。
話しながら、アタルは思った。
こんなひどいことされたんなら、カケルの思いも無駄になるかもしれない、と。
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一方その頃、保健室では特に症状の重かった者の手当を終えて、様子を見ていた。
そこに残っていたのはラグビー部の幸田とESS部の筈木さん、そして、優燈だった。
今、保健室に居るのは先生とその三人だけ、あとは他の教室に移されていた。保健野先生がそうさせたということは、三人の症状が相当重いということだろう。
龍人は、ラグビー部部長の油木田と共に廊下に居た。
油木田は幸田の事が心配で、龍人は優燈の事が心配で。ESS部は二人しかいないので、誰もここにはいなかった。
「あんた、二年生なのに凄いな。」
不意に油木田に声を掛けられる。龍人は黙ったままだった。
「こんな時に人を集めて、立ち向かおうと思えるやつなんてそうそう居ないぞ。うちの二年のやつらはほんとに度胸が無くて……。」
「……凄かねぇよ。」
気付けば、そう口走っている。
「別に、何も凄かねぇ。大切な仲間も、たった一人の事も救ってやれなかった……。」
「そうか……。」
油木田はしばらく黙った。その後。
「始めることには勇気がいる。初めの一歩を踏み出せるかどうかだ。その後の事は抜きにしてな。」
油木田の言葉に龍人は何も答えなかった。油木田は少し間をおいて、こう聞いてきた。
「あいつは、幸田は、どうだった。」
「誰かを守りつつ、自分も守れる凄いやつだ。」
二人の会話はそこで終わった。彼らの元に正苗がやって来たのだ。
「どうした?」
油木田が聞くと正苗は焦りながら言った。
「また、敵がやって来てるの!!」
「こんな時に……。俺が行こう。」
油木田はそばに置いてあった装備を着けだした。
「龍人君。ここは俺たちに任せて貰おうか。」
「何でだよ!? 俺は行く!!」
龍人は反論して立ち上がる。それを油木田は止める。
「君はここで、滋風さんと先生たちを守るんだ。」
「龍人君、私からもお願いするわ。校内は私たちの最後の砦、特に保健室には動けない人がいるから。だから、一番信頼できるあなたに……。」
「嘘だろ?」
龍人は正苗の言葉を遮る。
「ホントの事を言えよ。」
「龍人君……。」
正苗は少し戸惑ったが、決断した。
「分かった。あなたは優燈ちゃんの側に居なさい。もし今戦っても、優燈ちゃんの事が心配で満足に戦えないでしょ。」
「……。」
龍人は黙ったまま廊下に座り込んだ。
「龍人君。私たちに任せて貰えるかしら。」
正苗の問いに、龍人は応じた。
「ああ、頼んだ。」
「ありがとう。」
そう言って、正苗と油木田はグラウンドに向かった。
龍人は一人、廊下に座って待ち続けた。
外はすっかり暗くなって、グラウンドの明かりが廊下の窓から微かに差し込んでいた。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
「なに考えてんの?」
彼らは屋上に居た。投球マシーンがしまわれて、すっかり広くなった屋上には、カケルとデゥエスの姿があった。デゥエスはカケルに問いかける。
「あたしはあんたたちの敵だったのよ? 受け入れて貰えるわけないでしょ? だからここで、早く始末しなさいよ! さもなくば……。」
デゥエスが拳を作ってカケルに向き合う。
「ここであんたを殺す。」
「おいおい……。そんなやる気のない構えで俺に勝てるってか?」
デゥエスの構えを見たカケルは呆れて、ため息をつき、頭を掻く。
「あんたはもう戦う気すら失せてんじゃねぇか。強さとか、さっきまでの立場は別だけどさ、そんな拍子抜けのやつと戦おうなんざ、俺たちは思わねぇよ。」
「……そうよ。戦う気はない。でも、仲間にもならない。」
デゥエスはそう言って、屋上の柵に寄りかかる。屋上に一本ある照明の下で、彼女は照らされている。
「そんな恐ろしいのか? 奴らって。」
カケルはデゥエスから少し距離を置いたところにもたれかかる。デゥエスは虚ろな眼差しだった。
「運命だから……。失敗した私は、もう、どうしようもないって決まってるの。」
デゥエスがボソッと呟く。カケルはそれを聞いて、思わず力が抜けた。そしてすぐに立ち上がり声を張る。
「運命って、あんたそれ本気で言ってんのか!?」
「なによ。本気に決まってるじゃない……。」
デゥエスは少しムッとしてカケルを睨みつけた。カケルはため息をついて、もう一度柵にもたれた。
「運命の前では、私たち人間は無力。だって運命には神も逆らえないんだから……。」
「ハッグシュン!!」
デゥエスの話の途中でカケルのくしゃみが出る。
「あ、わりぃわりぃ。んで?」
「今ので終わり。」
デゥエスは呆れて話を切り上げた。カケルは頭を掻いて答えた。
「ふーん。そっか。」
「え、それだけ?」
デゥエスは思わず聞き返した。絶対何か文句でも言ってくるだろうと踏んでいたからだ。以外にもカケルはこういう時は空気を読むのかもしれない。
「ああ、呆れてものも言えねぇや。」
前言撤回。
「バカ……!!」
デゥエスはどうしようもなく不機嫌になり、そっぽ向いた。カケルは気にも留めずに続ける。
「神も運命に逆らえないとか、お前神様に会ったことあんのかよ?」
「無いけど! 神話とかで!」
「神話って、それ人間が作った話だろ?」
「そうだけど……」
「運命なんて強くもないのさ。決まりきった世界じゃないと何にもできない。それが運命、ってそう思わねぇか?」
「思わないわよ……。」
デゥエスはそう言って屋上を後にしようとする。それをカケルの言葉が止めた。
「あんたに一つ、良い事を教えといてやる。」
「何よ。」
「俺らの中であんたの事が好きな奴は誰も居ない。」
「……知ってるわよ。何よ今更……。」
「それは何でか知ってるか?」
「敵だったからでしょ?」
「ちげぇよ。あんたが歩み寄ろうとしないからだ。だからだれもあんたの元に来ない。」
「……だから何よ! 私があんたたちにしっぽ振れって事!? ふざけないでよ! そんなこと私がすると思う!?」
「しないだろうな。だから変えられないんだ。」
「はぁ!?」
「自分の運命ぐらい自分でどうにかしろよ。ずっと運命なんて言い訳に甘えてんな。」
「……。」
デゥエスは黙り込んでしまった。そしてそのまま立ち去ろうとした時、聞き覚えのある声がした。
「その通りよ。」
「!!」
デゥエスは顔を上げた。そこに居たのは、美菜だった。
「あ、あんた!」
一旦驚いたデゥエスだったが、すぐに睨みつける。それに対し美菜は軽蔑するような視線を見せる。
「ずっと運命なんて言い訳に頼って来たから一人になった途端何にもできなくなるのね。」
なんだか腹立たしい口調で美菜が言う。それでデゥエスもムキになった。
「あんた私に負けたくせに何言ってんの?!」
「はぁ。やっぱり、ずっと昔の事にこだわるから精神力が低いのね。」
美菜は頭を押さえてため息をついた。いつもの美菜ではない気がする。
「うるさいわね! ていうか何なのその喋り方? 自分がどこかのお嬢様のつもり!?」
「そうよ。私はお嬢様。剣道の有名な先生のお家柄なのよ? あら、無知なあなたはご存じなかったかしら?」
「へ、しらないよあんたみたいなへなちょこがいる家の先生なんて!」
このデゥエスの言葉を受け、今まで冷静だった美菜の表情が歪み……、というか完全におキレになられたようで……。
「な、何ですって!? あなたみたいな腕力バカに言われたくないんですけど!?」
「腕力バカって、聞いたことないんですどどこの国の言葉か行ってみなよ!?」
「あら、バカには新しい言葉は通じないんでしたっけ?!」
「だからあたしはバカじゃないって!! このザコ!!」
「雑魚って書けないのかしら!? このおバカさん?!」
デゥエスはともかく、こんなの美菜じゃない!!
はやく止めないと、とカケルが二人の間に割って入る。
「あいあい。そこまでそこまで。続きは平和になった世界でお願いしますぜ。」
「いいわ!! 平和になった世界であんたの墓を建ててやるよ!!」
「何言ってるの? 世界が平和になって、私に敗北するのがあなたの運命なのよ!!」
「はぁ!? 運命なんてこの手で変えてやるわ!!」
また始まりそうなので、もう一度カケルが二人の間に入る。
「だからもうおしまい。こんなところで体力使うんじゃねぇよ。」
美菜とデゥエスは睨み合い、ジリジリ火花を散らしながら屋上を後にした。
「ったく。面倒な奴らだ。」
カケルはため息をつきながら、気怠そうに二人の後をついて行った。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
保健室から廊下に、保健野先生が出てきた。
「先生……!」
座っていた龍人はすぐに立ち会がり、保健野先生に声を掛けた。
「優燈は?」
「大丈夫よ。多分ね。」
「多分ねって。それじゃ……。」
龍人はうつむいて、拳を握りしめる。保健野先生はそんな龍人を見たことが無かったので、少し驚いてはいたが、彼に優しくこう言った。
「もう、入ってもいいわよ。」
龍人は何も言わず一目散に保健室に入っていった。
「わかいって、いいわねぇ~。」
保健野先生は年寄りじみた事を言いながら保健室に戻って行った。
「優燈!!」
龍人は優燈の元に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
すぐに優燈の顔を覗き込む。優燈はゆっくり首を動かし、龍人の方を見て、にっこりと笑いかける。
「ひひひ……。」
「ひひひって、なんだよそれ……。」
優燈の笑顔を見て龍人は全身の力が抜けたようにベッドに顔うずめた。
「あらあら、心配して疲れちゃうなんてねぇ。」
コーヒー片手に保健野先生が龍人をからかっている。
「だってさぁ、もしも俺のせいで優燈になんかあったらって考えてたらさぁ、すっげぇ疲れてさぁ……。」
龍人にはもう保健野先生に反論する元気も無かったようだ。
「うふふ! こんな龍人君見たこと無いわね。ねぇ、優燈ちゃん?」
「うん……。先生もありがとう……。ひひひ……。」
優燈はゆっくりと答え、笑いかけた。先生も優燈に微笑み返した。
「早く、元気になれよ。じゃないと俺……。」
「じゃないと俺……?」
龍人の台詞を優燈が繰り返す。龍人はベッドから顔を持ち上げた。その目が潤みを帯びている。優燈はその目をじっと見ていた。彼の目から視線を離せなくなっていたのだ。
龍人の事、ずっと見てたけど、こんな顔するの初めて……。
優燈はずっと見ていた。龍人が何か口を動かしたような気がしたが、彼は突然立ち上がって、優燈に背中を見せていた。
「な、なんもねぇよ! ちょっと敵を倒して来る!!」
「ひひひ、照れちゃって……。」
「て、照れてなんかねぇよ!! んじゃな!!」
龍人はそう言って、保健室を後にした。
「あ!」
ここで保健野先生が思いついたように言う。
「今日のお昼にあった事、龍人君に言えばよかったぁ。」
「それって、まさか、先生……?」
優燈ははにかんだ。それに、ちょっと顔が赤くなっていた。それを見て保健野先生はからかうように笑った。
「うふふ。やっぱり、若いっていいわねぇ~。」
「……。」
優燈は何も言わず、布団の中にもぐりこんだ。
ー=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
グラウンドでは部長たちが敵の侵攻を食い止めている。あの時見た正苗の凄まじい一撃。それを敵軍に叩きこんでいた。この機会に、龍人たち十人は敵軍のボスの所に乗り込む計画を立てることにした。
「待たせたな。」
龍人が入ってくると、突然ブーイングの嵐が起きた!
「てめぇ、愛する人から離れてんじゃねぇよ!!」「保健室に居ろって言われただろうが!!」「人の好意を踏みにじってんじゃねぇ!!」「サイテー!!」「ひどーい!!」「ぶーぶー!!」「後みてぃっくへるカイザー!!」
「俺の勝手だ!! 別にいいだろ!!」
龍人が焦って反論すると、今度は歓喜する声が上がる。
「おおー! 龍人が認めたぞ!」「これは完全に落ちたな。」「今のは録音させて貰った!!」「認めたわね?」「良かったー!」「うむうむ!」「トランザムッ!!」
「は、何のことだよ……!?」
龍人はこの状況を飲み込めなかった。そこでアタルがちょっと説明してやる。
「いいか、この影の薄い俺っちの言葉をよーく思い出してみるんだな。」
「お前いたのか?」
龍人は普通に驚いていた。
「始めっから居たよ!! てか早く思い出せ!!」
「いや、お前の言葉は聞いてないぞ?」
「なぬ!?」
龍人はナチュラルに言った。アタルはナチュラルに傷ついた。
「じゃあ、もう一回だけ言ってやるから、良く聞いとけよ。」
「おお。」
「てめぇ、愛する人から離れてんじゃねぇよ!!」
「……。」
龍人は黙った。みんなも黙った。
デゥエスがみのるに聞く
「いや、その、なんだ……。」 「これ、どういう状況?」
「僕にもさっぱり……」
龍人の様子がおかしい。 みのるはそう答えた
「変なの……」
「ち、ちがう! 断じて違うぞ!!」 「まぁ、いつもの事だよ」
「これが、仲間って事?」
「なにがー?」 「多分……。そうだね。」
みんなが同時に言った。そして懐疑の目で龍人を見る。美菜なんかは笑いがこらえきれてない。
「くっっそ!! なんだよてめぇら!!」
龍人は顔を真っ赤に何とかこの局面を脱しようとしているが、糸口がまったくつかめない。
「こんなことしてないで早く会議始めっぞ!!」
「ふぁーい!」
みんなもさすがに龍人が可哀そうになって来たので、これ以上はやめておいた。ただし、ずっと美菜って人と穂乃佳って人は笑い続けるのであった。
〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇=〇
「と、いう訳で、会議は終了!」
龍人は勢いよく会議を切り上げた。そして彼はすぐに立ち去った。
「愛する人の元へ……。」 「ちげぇよ!!」
アタルが言いかけたのを遮って、彼は階段を下りて行った。
「まぁ。心配なんだろうね。」
みのるが言った。
教室の中ではメンバーが思い思いに喋っていた。
時間は、まだ少しだけある。
次の鐘が鳴るのは、午後9時。その時に、グラウンドの先に見える『ワープホール』に突入する。
デゥエスの情報によると、デオムは強力な魔法を使い、ファテゥは武術の達人らしい。そしておそらく一対一の勝負を仕掛けてくるだろうと予測した。
今回はデゥエスの活躍が大きい。彼女が居なければ、敵の事なんて何一つ分からなかっただろう。こうして、味方につけたカケルと美菜の判断は良かった。
ただ、デゥエスはちょっとなじみ辛い……事も無かった。
←(時音とデゥエス) (三銃士)→
「つんつん。」 「なぁ、カケル?」
「なんだ?」
時音がデゥエスをつつく。 「あいつの事どう思ってる?」
「どうって、別に……。」
「え、どうしたの?」 「はっきりしやがれ!!」
「き、急にどうしたんだよ?」
「将棋。」 「俺は可愛いと思ってるぞ!」
「あ、そう。」
サッと将棋盤を取り出した。 「あ、そうってそれだけ!?」
「ああ、別にいいだろ?」
「え? いいけど…。」 「良くない!!」
マモルが入って来る。
「デゥエスちゃん将棋するのー?」 「カケル! これはな!
三銃士結成以来のチャンス
と隣から穂乃佳が入ってきた。 なんだぞ!?」
「そ、そうかー?」
「うん。どうかした?」 「そうに決まっている!!」
マモルの瞳が燃えている。
「時音ちゃんすっごく強いよー?」 「三銃士はな、ずっと一人で
いなければいけないしきたり
「うむうむ。」 が勝手につけられて来た!!
それを打ち破る時だっ!!」
時音は自慢げにうなずいた。 「いや、大丈夫か、マモル?」
「俺の事は心配すんな。俺は、
「へぇ。敵の情報ありがと!」 も一つの世界で生きて行く事
を誓ったのだからな。」
デゥエスが穂乃佳にお礼を言った。 「そう言う事じゃないんだが」
「ともかく! この不名誉な
「でも、あたしが勝つから!」 ジンクスを崩せるのは、
カケル、君だけだ!!」
「バチバチ……。」 「は、はぁ……。」
カケルに対し、今度はアタル
二人は向き合い、火花を散らす。 「俺たちの事は気にすんな!」
「いや、気にしては無いが。」
「じゃあ、はい。」 「じゃあ、何だよ!?」
マモルが聞くと、カケルは。
「パチィイン!」 「分かんねぇんだよ。何も。」
「分からないとは、何がだ?」
「ひゃ!! そ、そこ……?」 「あいつの事、好きかどうか
も、まだ分かって無いんだ」
「あーあー。そこには打てないよ?」 「決まってんだろ!!」
「そうだそうだ!!」
横からみのるが入って来る。 アタルとマモルは口を揃えて
「お前はあいつが好きなんだ」
「違うわよ。きっと。……?」 と叫んだ。
「オイバカ!聞こえんだろ!」
デゥエスがみのるに言う。 「気付かれたようだな!!」
「あなたに教わりたくてわざと、ね。」 バシィイン!!
「そうなの?」 アタルは頭を押さえながら
「お前は、あいつがみんなを襲
みのるが聞くと時音は った犯人って分かっても、そ
れでも、あいつを仲間にしよ
「コク。」 うって言ってただろ!?」
「でもそれは……。」
「そっか。じゃあ、まず歩兵はね……」「お前は男だろ!!!」
こうして、言われるがまま カケルは告白することになり
「パチィイン!!」 「待てぃ!!」
「じゃあ、私の番ね。はい。」 「なんだよ! 覚悟決めろ!」
「俺は告白するとは言って…」
「あの、そこには動けないよ?」 「今言ったぞ。告白する、と」
「な!?」
「え、でもナイトと一緒でしょ?」 「掛かったな! 俺たちは一言
も告白しろと言ってない!」
「桂馬は前にしか進めない。」 「そう、つまり……。」
「告白という言葉が自然に出た
「そ、そうだったの!?」 ということは、貴様の頭の中
では、告白という言葉が渦巻
「うむ。」 いているということだ!!」
「な、な、な……。」
「うむって偉そうにしてるけど……」 「認めろ! カケル!!」
「お前は、デゥエスの事が!」
「時音ちゃんだからね」 「好きなんだろっっ!!!!」
「く、くそぉっっ!!!!!」
穂乃佳が言うとデゥエスも納得した。 「おいどうした、反論は!?」
「く、ねぇよ!!」
「あ、なるほど」
「だからあんなことしてたのか」
デゥエスのその一言が、カケルの胸に突き刺さった。さっきのバカ二人が大声を出したあの時に、きっとバレたに違いない。カケルはそう思い、デゥエスの方に近付いた。
「な、なぁデゥエス。あのさ。」 「お、行ったぞ!?」
「なになにー?」
「どうしたの? カケル。」 穂乃佳が三銃士の元に来た。
「今からカケルが漢になる。」
「いや、大した事じゃねぇが。」 「ほえ?」時音とサキも来た。
「邪魔だったかな?」とみのる
「でもカケル顔色悪いよ?」 「まさか、あの二人が……。」
穂乃佳と美菜は盛り上がる。
「ぐ、これはだな、その、」 「どうしたんだよ、カケル!」
アタルがイラつく。
「あたしには隠し事しないでよ?」 「あの子がねぇ……。」と美菜
「ほえ~」と、時音とサキ。
「べ、別にしてねぇけど?」 「カケルのキャラがwww」
マモルがあざ笑う。
「絶対何か隠してるでしょ!?」 「美菜とそっくりだな。」
「なんて?」「は”? いや……
「は、え!? 何の事!?」 俺何も言ってないです……」
「とぼけないでよ! あたしを誰だと思ってるの?」
「あ!? 分かった、言うよ!」 「デゥエスと美菜の性格が似て
るって思っただけだよ!!」
「早く言いなさい!!」 「そう。それだけ?」
「それだけだよ!!」
「ああ、言ってやるよ!!」 「ならいいけど、あれ?」
「美菜は耳を疑った。」
「あたしを助けてくれたから、 「ちょっと、今の台詞誰の?」
あたしも、力になりたいの。」 「はーいぃ!」
「あ、サキちゃんか。」
「デゥエス……。ありがとな……!」 「ちょっと話に入り込めず」
「そっか、なら仕方ないね!」
「いいわよ別に。話聞くくらい!」 「おい! ついに言うぞ!!」
「デゥエス。俺は、あんたの事が……」
!?
その時、教室が静まり帰った。




