午後6時 静寂
「みんな!?」
裏門で倒れている少女たちの元に駆け寄ったのは正苗率いる各部の部長たち。
「一体何があったの……?」
正苗が言葉を失っていると後ろから部長たちが少女を担いでいく。
「早く彼女たちを保健室へ!」
部長たちが迅速に対応し、少女たちは無事に保健室まで運び込まれた。
但し、その保健室はもうパンク状態だった。
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「雨まで降って来やがった!!」
グラウンドで戦う龍人たちには他の仲間たちに何が起こったのか予想もついていない。
「これを使え!!」
カケルは龍人に折り畳み傘を渡した。
「おお、ありがとな!」
龍人はすぐに傘を広げて、優燈が濡れないように傘を差した。
「こいつら雨で壊れないかな?」
マモルが竹刀で敵を串刺しにしていく。
「いや、そんなんで壊れるわけ……。」
ギギギ!!
敵の一体が歯車の噛み合わなくなったような変な音を出した。
「おい、もしかしてこれって……。」
カケルが言いかけた途端、敵が全てぶっ壊れた。
「あ、あいつら水に弱かったのか!?」
「俺たちの苦労って一体何だったんだ!?」
「てか俺たちの出番が!!」
敵が居なくなり、三銃士が混沌とする中、龍人は保健室に向かおうとした。しかし。
「違うよ。私が壊したの。」
そこに居たのはデゥエスだった。
「あ、新戦力化何かか?」
「また俺たちの活躍の場が……。」
「しかもこの学校では珍しい美少女系だな。」
三銃士が口々に話す。彼らは彼女の事を何も知らないのだ。
「ほんとバカね。」
「つ、ツンデレだと!?」
マモルは歓喜した。それも束の間だった。
「その剣を持ってたのが運の尽きだよ?」
!?
「龍人、早く行け。」
アタルが涼し気に声を張り上げた。背後には敵の攻撃を防ぐマモルの姿があった。
「な、なんて奴なの!!」
「お前らを、ほっとけるかよ!!」
「いいから。優燈をちゃんと保健室に連れて行けよ。」
カケルが戻ってこようとする龍人の肩を叩いた。
「ここは俺たちが活躍する場所だ。」
龍人は少し黙ったが、最後はうなずいた。
「すまねぇ。頼んだ。」
彼は優燈を抱えて保健室に向かった。
「さて、あいつを倒すとするか。」
カケルは振り向いて竹刀を構える。ほとんど同時にデゥエスの掌底が飛んできた。
「化け物が!!」
カケルはそれを受け流して、間合いを取る。
「どっちが化け物よ?!」
デゥエスは身を翻してカケルに殴りかかる。カケルは紙一重でかわしていく。
「何焦ってんだよ?」
「何がよ?!」
「お前の攻撃、一発も力がこもってない。」
「はぁ!? 意味わかんないんだけど!!」
「要するにこう言うこった。」
カケルは切先でちょんとデゥエスの拳を弾いた。
「何!?」
デゥエスは急いで間合いを取った。だが、すでに三銃士に包囲されていた。
丁度そこで午後6時を告げる鐘がなった。
「く、しまった……!」
先程までと違って、デゥエスは完全に戦意を失ってしまったようだ。
「あれ、大丈夫か?」
カケルが竹刀を逸らせて覗き込むように様子を見た。デゥエスは雨に濡れ、その場に崩れるように座り込んだ。カケルが心配して駆け寄る。
「おい、どうした? そんな痛かったか?」
「……。」
デゥエスは何も言わず、地面に視線を向けている。
「急に襲い掛かって来るかもよ?」
「あ!? そん時はそん時だよ!」
「カケルのやつ、もしや……。」 「マモル、止めとけ」
「あ!? オタクは引っ込んでろ!!」 「カケルまで止めろよ」
「ちがう!! 俺はオタクじゃない!!」 「二人ともやめろって」
「じゃあなんだ!?」
「俺はヲタクだ!!」 「はぁ!?」
マモルが自慢げに言うのをカケルは呆れて物も言えなくなった。アタルは喧嘩にならずに済んだと思ってホッとした。
「……時間切れよ。」
デゥエスが呟くと同時に、彼女に向かって刃が伸びる。
カンッ!! キンッ!!
「誰だお前?!」
「アハハ! ザマァナいナ! デゥエス。」
アタルがデオムを。
「急に何の用だよ……。」
「貴様に話すことは無い。」
カケルがファテゥを食い止めていた。
デオムとファテゥはそれぞれデゥエスから距離を取った。
「あ、あんたたち……。」
デゥエスは驚きを隠せずにいた。三銃士が敵であるはずの自分を守ったからだ。それも、かつての自分の仲間から。
「マっタく、おマえハつカえナいナ! デゥエスぅ?」
「くっ!!」
デオムがデゥエスをバカにするように笑う。それでもデゥエスは抵抗せずに視線を背けただけだった。アタルが竹刀を深く構えて彼らに問う。
「お前ら、一体何しにここに来た!!」
それに対しファテゥが答える。
「簡単なことだ。この場所を制圧するために来た。」
「そんなことさせるか!」
マモルがいきり立つのを見て、ファテゥは言う。
「だがこの作戦も、そこに居る者の油断のせいで失敗に終わった。我々には時間が無い。だから手短に済まそう。次に鐘の鳴る時、我々の下に来るがいい。」
「はぁ!? なんだそれ!」
マモルが反論した。だが、ファテゥは続ける。
「今ここで決戦をするには、貴様らにとっても都合が悪いはずだ。」
「まぁ、そうだな……。」
アタルが納得した。この学校には近所から避難してきた人も多くいるからだ。それに、優燈と龍人が居ないことでさらに不利になる。ただ、今ここで敵のボスらしい奴を逃すようなことをしてもいいのだろうか?
「おい。」
アタルが返答に困っていると、カケルがファテゥに言った。
「あんたら、なんでこいつの事狙った。」
ファテゥは答える。
「戦犯だからだ。」
「それだけか。」
カケルの語気が強くなった。
「それでも、仲間なんだろ?」
「いや、もう用済みだ。後は貴様らの好きなようにすればいい。」
ファテゥはそう冷酷に言うと、アタルに視線を戻した。
「先程も伝えたな。時間は……」
「次の鐘が鳴る時、だな。」
ファテゥの言葉を遮り、アタルが言った。
「ああ、そうだ。場所は、向こうだ。」
ファテゥはグラウンドの地平線の先を示した。
「なんだ、あれ……。」
アタルたちは驚愕した。
巨大な闇が渦巻いている謎の穴のようなものが、突如として地平線に現れたのだ。
「我々の空間に通ずる道だ。あそこを通ればすぐに着くだろう。」
ファテゥはそう言い残し、彼らは姿を消した。
「き、消えた!?」
アタルとマモルが急いで駆け寄るも、彼らの居た痕跡は無かった。
「ど、どうなってんだ!?」
二人は悩んでいたが、ふと、マモルがカケルに視線をやる。カケルは座り込んでる少女の元にいた。
「おい、あんた。大丈夫か?」
カケルが声を掛けると、少女は初めて口を利いた。
「どうして、助けたりしたの……。」
「さぁ、咄嗟にな。」
「邪魔しないでよ……。」
「はあ? 何言ってんだよ。」
カケルが彼女の方に視線をやると、彼女は拳を地面に力なく叩きつけていた。
「こんなの、ただの恥さらしじゃない……。
……死んだ方が、ましだよ……。」
「それは違うぞ。」
少女の言葉を耳にして、カケルが言った。
恥じて死すより、生きて汚名を注がん
「超有名な武人、張遼先生のお言葉だ!」
カケルは普段のクールで扱い辛そうな雰囲気ではなく、無邪気にはしゃいでる感じになってしまった。本人も気付いてか、すぐにいつもの感じに戻る。
「……肝に銘じておけよ。生きて、初めて何かが起きるんだ。」
それが、運命……。
「さ、立てるか?」
カケルが少女に手を伸ばす。いつの間にか雨も上がり、真紅の雲がいく筋も出来ていた。
雨の後の春の空気を、少し冷たい風が運んで来る。グラウンドには三人の勇姿と一人の少女。少女は、少年に手を差し伸ばされている。
「……うん。」
少女は小さくうなずき、カケルの手を借りずに立ち上がった。夕焼けも、もう終わりを迎えようとしていた。




