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学校を守り隊!! でぃふぇんす おぶ すくーる   作者: 時 とこね
別二章 七日目の鐘
20/42

午後3時 無意味な事の意味

 彼は何も知らない。


 敵の第三波に対して、右翼と左翼は前方へ展開し、中央は少し下がって地点で、敵を迎え撃っていた。砲撃によって敵の数は減少しているにも関わらず、敵の勢いは衰えを知らない。


 「あと、どん位いるんだよ!!」


 龍人たちは必死で戦い抜いた。野球部もアメフト部も、十勇士も何とか戦い抜いた。


 しかし、前線でずっと戦った味方の疲労は想像を絶するものだった。


 荒い呼吸で下足室に帰って来た彼らは、ほとんど言葉を交わすことなく、廊下に寝そべる。


 疲れ果てた彼らに届くのは、みのるからの作戦命令。


 さすがに龍人も苛立ちを覚えた。それでもここはグッとこらえる。みのるからの指示が無ければ、というより、ここで自分たちが食い止めねば、学校が乗っ取られる、もしくは、世界が征服されてしまう。


 龍人は了解と言って電話を切った。


 倒れた仲間の中で、龍人は一人立ち上がった。


 「俺が止めないと、な。」


 ふらつく足元、もうろうとする意識、彼は窓の外を眺めた。


 尋箭たちも、頑張ってるんだよな。




 「もう、持ちそうにないか。」


 屋上のみのるは深刻な表情をしていた。自分はここから味方の抗戦を見て、指示を出してるだけで、何もしていないという考えが、今日ずっと彼の脳裏に焼き付いている。


 「僕は、これでいいんだろうか。」


 そこに、マネージャーたちがやって来る。アメフト部のマネージャーが言う。


 「大丈夫だよ。青山君は、青山君にしか出来ないことをやって。」


 また、あるマネージャーが言う。


 「みんなが元気ないのは気合が足りないからだよ!」


 「うわあぁ。」


 さすがのみのるもこれには驚いた。その驚きで、急に緊張の糸が解けたような。野球部の鬼のマネージャーと言われる所以だ。


 緊張しなくなったとはいえ、やはり疲労が溜まっている前線の部隊。みのるはマネージャーたちに、彼らを元気にしてきて、とだけ伝えた。具体的な方法は特に言わなかった。とりあえず任せてみる。今日一日でみのるが学んだことだった。


 「はーい!」


 マネージャーたちは急いで下足室に向かった。


 「頼んだよ。」


 みのるは座り込んで空を見上げた。


 傾き始める、金色に輝く太陽が見えた。


 風が確かに吹き付ける。春の風、優しくみのるを包み込んだ。




 「ほいさー!!」


 「みんな、はちみつレモンをつくって来たよ!!」


 マネージャーたちが用意したのは、はちみつレモン。甘さと酸っぱさで、疲労を回復してくれる食べものなのだが、倒れている部員たちは起き上がる事すら出来ないでいた。マネージャーたちはしょうがないから食べさせてあげることにした。男子部員たちは歓喜した。


 はい、と言ってマネージャーが割りばしではちみつレモンを無理やり口に押し付けてくる。ある意味地獄絵図だった。


 龍人は自分でとって食べるが、その他は口に二、三個押し込まれる。龍人はその光景に笑いをこらえきれなくなった。


 優燈に至ってはレモンの入れもんを連呼する始末。普段なら誰も笑わないが、今は全員にウケた。調子に乗って次々と親父ギャグを言っていくが、どれもこれもウケる。どんどん雑になっていってもなおウケる。彼らにとってもさほど面白くないのだが、こんな時だからこそ、いつもの何気ないことが面白くなってくる。優燈がこんなに良いやつだったなんて、今まで誰が思っただろう。優燈とはちみつレモンのおかげで元気の出てきた龍人たちは、次の戦闘に向けて、士気を高めることにした。


 具体的な方法は分からないが、たぶん本当にしょうもないことだろう。


 辛い戦い、その中でのどうでもいいこととは、それだけの意味を持っているのだ。箸が転げただけで笑う彼らの、心のよりどころなのだった。

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