第九話 戦場に響く歌
味方の負傷はありませんが戦闘描写です
苦手な方はご注意下さいませ
高らかに歌いながら突進して来た兵士たちを、無慈悲な機械の鉄槌が薙ぎ倒している。
目に見える発射装置なしに打ち出された電磁砲に、唖然とした顔のまま兵士たちが、彼らの操る兵器ごと吹き飛ばされる。
空中には、一見ひとに見えるであろう機械人形が数体浮いていて、絶え間なく火炎弾を振り撒いていた。
赤く輝く炎を散らし、空を舞う人形。場所が違えば天使にも見えたかも知れない。戦場にいたら、悪魔にしか見えないけど。
電磁砲で武器を破壊され、火炎弾で生きたまま丸焼きにされる。わたしならそんな末路は御免だ。
それならどんな死に方なら良いのかと訊かれても、答えに困るけど。考えなくてもわかるのは、どんな死に方にしろ、このまま戦争が続く限りろくな死に方はしないってことだけだ。
やってくる兵士たちを本陣の敷かれた高台から見下ろして、少しでも苦しみを減らしてやろうと心臓や頭を狙って狙撃する。
火炎弾の雨が降っている場所より向こうで死んだなら、生きたまま火炙りと言う状況は免れるだろう。
「彼ラハ何ヲ歌ッテイルノデスカ?」
隣で絶え間なく電磁砲を乱射していたφが問うて来た。
「あん?」
命令を忠実にこなすだけのはずの機械人形が、作戦中に雑談とは珍しい。
怪訝げに見返せば、凄惨な光景を無感情に眺めつつ凄惨さを足しているφが、再び口を開いた。
「聞コエマセンカ?歌ッテイルデショウ」
「聞こえるけど」
みんなで歌うことで仲間を、己を鼓舞し、一団となって敵に立ち向かう。
死地に向う兵士としてなんらおかしくない行動だ。感傷を誘うことはあれど、疑問を抱くような異様な行動ではない。
首を傾げつつ曲名でも知りたいのかと考え、答えを投げる。
「国歌だろ、あっちの」
国の美しさ清らかさを讃え、大地と海の栄と恵みをことほぎ、大切なひとの平和と繁栄を願う、繊細で美しい歌だ。
戦場で高らかに歌うには似つかわしいと言えないが、彼らの奮闘で美しい国が守られるならば歌うに値する曲だろう。命懸けで戦う彼らに、相応しい歌だ。
その犠牲は今の所、なんの役にも立っていなさそうだが。
「国歌?ナゼ、国歌ヲ?」
「さぁ。死ぬ理由が欲しいからじゃないか?」
我ながら夢のないと思いながらも、わたしは言った。
「自分が死ぬことで国が守られると信じたいんだ。こうやってわたしらに惨めに蹴散らされることは無駄じゃないって、自分は国のために死ぬんだって信じたいんだよ」
命を懸けてでも守りたいものがあるなんて、なんて幸せなことだろう。
奴隷は国歌なんか歌わない。
奴隷が戦うのは国のためなんかじゃなく、そう命じられたからだからだ。命令に逆らえば殺されるから死地に向かうんだ。
敵国はとうとう、一般兵まで前線の捨て駒にしなければならなくなったんだろうか。
「歌ウト死ヌ理由ガ得ラレルノデスカ?」
「さぁ、知らないけど。得られるのかもな」
肩を竦めて言った。いくら言葉を尽しても、φに完全には理解して貰えないだろうなと思いながら。
そもそもわたしだって志願兵の気持ちなんざわからないんだから、わたしの説明じゃ理解出来なくて当然なのかも知れないけど。
「命を賭した愛国心なんて、宗教と変わんないよ。間違いなく狂ってる。国のために死ぬなんて馬鹿げてる。命投げ出すくらいなら、上手い和平の方法でも考えてた方が、よっぽど有意義だし美しい国を守ることになるだろ。おんなじ命懸けなら戦争止めて見せろっつの」
やって来る彼らはわたしより十は年嵩だ。
歌なんか歌ってなくても奴隷との見分けは明らかで、戦争奴隷ならば普通あそこまで育てない。彼らは市民権を持った志願兵のはずだ。
志願兵全員が一丸となって戦争回避に動けば、このふざけた戦争も終るかも知れないのに。
わからない。国一丸となって殺し合いをしようと考える人間の思考なんて。
富?栄誉?誇り?
そんなものの価値なんてわからない。戦争なんかしない方が、明らかに国力は上がるような気がするけど。
歌う喉を潰すために、わたしは銃をぶっ放した。
乱発される銃弾が、向かい来る兵の命を刈り取って行く。
「a?」
狙撃が荒くなったわたしを、φが疑問の目で見つめた。
「ドウカシタノデスカ?」
「別に」
戦争が終わって欲しいと思ってるわけじゃない。自由な発言と行動を許されている人間が思考を放棄していることが許せないだけだ。
彼らには自由意志があるはずなのに。なぜ機械のように、兵として奴隷と変わらぬ行動を取っているのか。
歌声に耳を傾けるφの横で、わたしは歌声を掻き消さんと銃撃を続けた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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