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第八話 戦場の華 (フクロウ視点)

フクロウ視点、彼から見たaちゃんのお話です


読まなくても本筋に影響はありませんが

aちゃん視点だけだと不足してしまう部分を盛り込んであるので

気が向いたらお読み下さいませ

 

 

 

 J-2960番。それが俺の名前だ。機械化戦争奴隷として付けられた、謂わば製品番号みたいなもの。浮浪児として生きてた頃は名前なんてなかったから、俺を表せる個の名前はそれだけだ。

 なかったのは、名前だけじゃない。親を知らず、家族もなく、庇護してくれる大人もいなかった。同じような境遇の奴らで寄り集まって、野良犬みたいにその日暮らししてた。

 

 ある日捕まって、機械化なんてされて、でもやっぱり周りにいるのは似たような奴らばっかりだった。機械化されたって、奴隷は奴隷。訓練で関わりを持つような戦争奴隷は、大抵が孤児出身の奴隷だったし、俺を機械化した技師は馬鹿みたいに大勢を機械化していたから、同類は山ほどいたんだ。その時周りにいた奴らは、今じゃもうみんな死んじまったけど。

 

 そんな機械化奴隷が氾濫してた最盛期でも、アトの存在は異質だった。


 ハッター、千年にひとりとすら言われるような天才科学者が手掛けた、唯一の機械化人間、と言うだけでも十分目立つのに、俺たちみたいな番号じゃなくて名前を付けられて。ハッターが機械化するのは犬やら馬やらばっかりだったから、人間を機械化したってだけで、大騒ぎだったみたいだ。


 そうでなくても目立つ理由には事欠かない。


 aは女だから。

 しかも、ハッターじきじきに連れて来られた時のaは、血まみれの瀕死状態だった。大抵の場合、兵として機械化されるのは健康な若い男だってのに、ハッターは死にかけの痩せこけた少女を拾って機械化したんだ。


 訓練場でも戦場でも、風になびく長い髪は目立った。

 

 目立つだけなら俺でも出来る。当時はまだ珍しかった飛行能力者だったから。機械化兵にいないってだけで、技師でも奴隷でも一般兵でも、女はいたし。

 でも、aは目立って、周囲の目を惹き続けてた。本人は気付いてなかったみたいだけど。


 なんでって、そりゃ、まあ、美人だったから。


 aも元浮浪児だったし、まともな生活してなかったから、手入れされた美しさじゃなく素の造りなんだろうけど、愛嬌のある綺麗な顔してた。初めて見た時は、暫く見惚てれたくらいだ。

 

 そしてaを更に注目させたのが、あいつの初陣、俺の初戦でもある第二次ベルヴィストク会戦だ。

 敵国が大火力の新兵器を投入したことでこちらの戦線は壊滅。前線にいた兵は全滅した。aだけを、残して。

 ハッター力作の防御装置で持ち堪えたaは、ひとり残された前線に踏み留まり敵の新兵器を破壊してから戻った。そのお蔭で俺を含む後陣にいた奴らの多くが助かったのは、明らかだ。


 味方も、恐らく敵も、信じられない気持ちで見詰める中、伸びっぱなしの真っ赤な髪を風に散らして帰還したaは、まるで戦場に咲く華だった。

 

 それから数日後に、境遇が似ているからと理由を付けて話し掛けた。

 その時の会話をきっとaは忘れてるけど、俺にとっては大切な会話だ。

 

 「J-2960番?それが、名前なのか?」

 

 その時は機械化奴隷の名付けられ方なんてまだ知らなかったらしいaが首を傾げたから、俺は名前の意味を説明してやった。

 遠巻きに見て勝手に抱いていた想像を裏切り、aは気さくで、話し易い相手だった。

 話を聞いたaは頷き、呟いた。

 

 「なるほどね。じゃあ、J-2959番やJ-2961番、K-2960番もいるわけだ」

 「K番台は知らないけど、J番台はいるな」

 「ふーん」

 

 aは少し考えるように俺を見上げると、二三頷いて宣言した。

 

 「じゃあ、フクロウな、あんた」

 「は?」

 「あんたの呼び名だよ。番号とか、わかり難いから。2960番で飛べるんだから、丁度好いだろ」

 

 にっと笑って言うaは、自分の言った意味なんか理解してなかったと思う。今まで自分だけの名で呼ばれたことなんかなかった俺に、渾名だろうと名前を与える意味なんて。

 

 「よろしくな、フクロウ」

 「あ、ああ、よろしくa」

 

 差し出されて掴んだ手は、恐ろしいほど繊細に造り込まれた義手だった。天才と呼ばれる存在の能力を、垣間見た瞬間だ。知らずに掴めば、義手とは気付かなかったかも知れない。

 

 aの付けた渾名は会話に聞き耳を立ててた奴らによりたちまち広まって、その会話の記憶とともに、俺にとって掛け替えのない宝物になった。


 その後親しく付き合ってみれば、aは普通の女の子で、でもこんな荒んだ場所にいるのが不思議なくらい真っ直ぐで優しい奴だった。

 ま、素直じゃなかったり、ちょっと頭が固いところもあったけど。

 

 aの手前、兄貴面して上手く隠してはいたと思うけど、特別をくれた相手に特別な感情を抱くなんて、極々自然な流れだった。

 

 飛べる鳥は落とされて、飛べない華は生き残った。

 俺たちには少しも優しくない世界だけど、優しいあの華には、少しは優しくしてくれると良い。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


お花の作者的イメージは彼岸花です

有毒植物ですし不吉なイメージもあるお花ですが

わたしはとても好きなお花です

花と言うより華なイメージがあります


深刻な会話不足が起きていますが

次話ではちゃんと会話していますので

続きも読んで頂けると嬉しいです

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