小話4 たこを食べる
たこ技師(ギム)視点
…題名で明白ですね
ほっこりして頂けると嬉しいお話です
「aって、実物のたこを見たことはあるのかい?」
aが常に私をたこ呼ばわりするので、ふと気になって聞いてみた。
「んー?」
寝る直前だったらしく迷惑そうに目を開いたaが、首を傾げる。
聞いていなかったらしい。
「たこだよたこ。見たことはあるのかい?」
「あるわけないだろ」
当然のように答えられて、まあ当然なのは理解出来るのだが、ならなんできみは私をたこと呼ぶんだいと、真剣に問い詰めたくなった。
だが、きっと大した理由なんてないのはわかっているから、違う言葉を発する。
「当然、食べたこともないんだね」
「ん…」
寝たいのに雑談を持ち掛ける私に、aが半分寝かけながら頷く。
「ああごめん眠って良いよ。ちょっと気になっただけだから。今度手に入ったら、食べてみるかい?たこ」
「んー…」
頷いたのか寝息なのか、微妙な返答を最後にその会話は終了した。
内地にあるこの国で、しかも戦争中だ。平民の私がたこを手に入れられる機会なんてそうそうない。
aとたこを食べる機会は来ないだろうと、思いつつの会話だった。
眠りかけで会話していたaはもちろん、私もすぐ忘れてしまう下らない会話。その、はずだったのだが。
「あんた、aにたこって呼ばれてんだろー?偶然手に入ったから、やるよ、これー」
突然メンテナンスルームを訪れたホフマン中尉に押し付けられたのは、
「…たこ、ですか」
まるまるいっぴきボイルされたたこだった。
困惑する私をホフマン中尉が笑う。
「そーそー。茹でだこー。なんか貰ったんだけどなー、貰った瞬間あんたの顔が浮かんで離れなくなっちまってー、これはあんたに渡すしかないなーってさー」
「いやでも、高価なのでは…」
ぶつ切りの冷凍品ではなく、丸ごといっぴきボイルした生ものだ。
下手すれば、私の一週間分の食費を超える値段ではないだろうか。
遠慮しようとした私に、ホフマン中尉が首を振って答えた。
「貰いもんだし、構わねーよ。つーか、ほら、たこたこ言ってるわりにaってどーせ、実物は見たことねーだろー?せっかくだからー、見せて食わせてやってくれよ。あんたなら知ってるだろ、たこの食い方ー」
「知っていることには知っていますが…」
「なら決まりなー。じゃー、よろしくー」
ひらひらと手を振って、ホフマン中尉は立ち去った。
私の手元に残る、たこ。
「似ている…か?」
ぼそりと問い掛けてみても、すでに人生を終えたたこが答えることはなかった。
「…なんだ、それ」
訓練後に親しい戦争奴隷を連れておいでと呼んだaは、眉を寄せて目の前のたこを見下ろした。
aに連れられて来た少年たちも、一様に不可解なものを見る目をたこに向けている。
やはり、浮浪児にたこを見る機会なんてないらしい。
これがたこだと知ったら、aはなんて言うのだろう。
想像も付かないならば、実践してみれば良い。
「これがたこだよ。生きているものじゃなく、ボイルされたものだけど」
「たこ…?」
ぽかんとしたaが首を傾げてたこを指差し、次いで私を見た。
何度か私とたこを見比べたあとで、私に目を向けて言う。
「そっくりだな」
「そうかい?」
たことそっくりと言われるのは、ひととしてどうかと思うのだけどね。
「どうしたんだ?このたこ」
「ホフマン中尉から貰ったんだよ。きみに食べさせてやれってね」
「ほふまん…?」
「マーティだよ、a」
ホフマン中尉の名前を聞いて首を傾げたaに、後ろにいた少年のひとり−aがフクロウと呼んでいる子だったはずだ−が、呆れたように言う。
aに名前を覚えて貰えないのはどうやら私だけではないようだ。
ああ、マーティかと頷いて、aがたこに視線を戻した。
「どうやって食べるんだ?」
ホフマン中尉がくれたものであることは、気にしないらしい。
「これはもう茹でてあるから、そのままでも食べられるよ」
「そのままって、このままか?」
「いや、固いし味も付いてないから、食べやすい大きさに切って、調味料をかけてかな」
ふうん、と呟いたaが、手を伸ばしてたこの足を一本、ぶちりとちぎり取る。
そのままぱくりと、躊躇いもなく口に入れた。
後ろの少年たちが、ぎょっとしている。
「…なんだ、塩味が付いてるじゃないか。変わった食感だな」
周囲をぎょっとさせた張本人は、のんびりと感想を述べている。
木の枝すら噛み潰す顎と歯は、たこの固さくらいものともしないらしい。
「お、まえ、よくそんなわけわからないもん食えるな…」
フクロウが苦笑して言う。
aはたこの足をかじりながら、肩をすくめた。
「マーティが持って来てたこ技師がくれるもんなんだから、食べられないもんじゃないだろ。美味いぞ。食べないのか?」
「食うよ。最近出される食事が藁ばっかりで、うんざりしてたんだ」
溜め息を吐きながらフクロウもたこの足をちぎり取る。
「あ、ほんとだ、意外に美味い」
「だろ?見た目で損してるよな」
ふたりが平気な顔で口にしたからか、他の少年たちも次々とたこの足をちぎって食べ始める。
さすがは元浮浪児たちか、得体の知れないものを口に出来る勇気は称えたいが、なにぶん食べ方がワイルド過ぎる。
横に包丁と調味料があるのに、なんで誰も使わないんだ。
全員がたこの足を手にして、おかわりに手を伸ばすまでの隙を突いて、無惨な姿になったたこを救い出す。
残った部分を、一口大にスライスして皿に並べ、ついでに調味料も添えた。
食べ尽くされる前にと私も口に運び、
「…共食いか」
「っ、ごっほっ」
aがぽつりと呟いた言葉に思いっきり咽せ、しばらく苦しい思いをした。
その間に食欲旺盛な戦争奴隷たちにたこを食べ尽くされたことと、それからもaが私をたこと呼び続けたことは、言うまでもない。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
一時間後に某ストーk…けふっ
某お兄さん視点を投下…予定です…たぶん←
一時間後が無理でも今日中には行けるように頑張ります<(_ _)>




