第五十九話(改) 平穏な拷問
(2016.02.07、本文にドッグタグについての記述を追加しました)
いったい何日、経ったんだろう。
解体されて、直されて、壊れて、直されて、調べられて、眠って。
捕虜としての日々は、今が戦時中だなんて信じられないくらい穏やかに過ぎていた。
きっと自国でも、平民や貴族の多くは、こんな穏やかな日々を送っているんだろう。
苦しむのも、辛いのも、奴隷や浮浪児だけだ。
わたしを憎む人間が襲いに来たのは一度きり、と言うか、一度で警戒が強まったらしくわたしがひとりで放置されることがなくなった。
腐ってもベルヴィストクの赤鬼だ。下手に襲わせて暴走させたら洒落にならない、と言う事情かも知れない。なにせここは、首都付属の研究施設らしいからな。
わたしを殺すついでとは言え、敵国の首都にテロを仕掛けろと言う辺り、あの国の気違い加減がよくわかると言うものだ。
わたしの元にはマッドサイエンティストとお兄さんの他、軍人らしいやつらも何人かやって来た。
わたしが要人を殺しまくった暗殺者だとばれて、話を聞きに来たらしい。
残念ながら、プロテクトのお陰でろくな情報は落とせなかったけどな。
そのせいでひとりがぶち切れてわたしに殴り掛かって、あわや惨事になりかけてからはマッドサイエンティストが門前払いするようになったそうだ。
どっかの狂人と言い、マッドサイエンティストと言い、狂った研究者に権力を渡すのはどうかと思う。
軍人に絡まれてもうざったいから、ありがたくマッドサイエンティストの権力を笠に着させて貰うけど。
「調子はどうだ」
ベッドに腰掛けてぼんやりしていると、入って来たマッドサイエンティストがそう声を掛けて来た。
捕虜なんだから当たり前だけど、わたしは出歩くことを許されてない。
やることもなくて、ひがないちにちベッドに腰掛けて、ぼんやりしている。
身体が鈍ると思ったりもするが、もう戦場に出ることはないんだから、鈍って困ることもない。
人形みたいに何もせず、座っているだけだ。
幸せに、と言ったθたちは、わたしがこんな生活を送ることを、望んでたんだろうか?
つい一昨日、お兄さんがθたちの部品とドッグタグを持って来てくれたから、わたしとφのドッグタグと一緒にして、ひとの来ないところに埋めて欲しいと頼んだ。
丁度遠出する用事があったらしいお兄さんは、この部屋の窓から遠く見える山に、埋めてくれるらしい。
昨日から三日間の用事、と言うことだから、今頃埋めてくれているかも知れない。
第18小隊全員が、ひとつの場所に埋められる。
そのことに安堵でもしたか、ドッグタグを渡してから、それまで以上にぼんやりとしていた。まるで、魂でも抜けてしまったようだ。
「…最悪だ」
思い浮かんだ言葉を、そのまま口にする。
人形になりたいなんて、思ったこともない。
人形になるくらいなら、戦場でのたれ死んだ方がマシだ。
与えられるものを享受するだけの生に、なんの意味があるんだろう。
仮初めの平穏とは言え、他人に頼りきりの生活は、反吐が出るほど苦痛だった。
もしもそう言う拷問なら、大成功だろう。
痛みや死より、よほど苦痛だ。
だって、わたしがこうしてる間にも、前線で兵が使い棄てられてるんだろう?
「どこか不具合でもあるか?」
「とりあえず駆動音がでか過ぎるな。もっと精密に造れよ」
「そりゃ済まん。技術力の差だな」
マッドサイエンティストが肩を竦め、わたしは自分の手を見下ろした。
明らかな義手。でも、所詮戦争奴隷なんだから、見た目が明らかに義手でも問題はないんじゃないか?
機械人形にも戦争奴隷にも、本物そっくりの人工皮膚をあてがって、我が母国ながら、なかなかに変態の集まりのようだ。パーツだって、工場品をいちいち個々に調整していた。あの狂人に至っては、いちいち鋳型を作ったり、金属を削り出してたりもしてたらしし。
…狂ってるな。
その変態さが戦争以外に向いたなら、もっと国が発展しただろうに。
わたしの身体に費やされた技術があれば、例えば五体を失ったひとや、五臓六腑に疾患のあるひとだって、健常者として生きられるのだから。
強靭な脚力と腕力、丈夫な身体。建築現場にでもいれば、役立つだろう。
敏い目と耳は、狩りに持って来いだ。
そんな可能性無視して、戦争の兵器にしてしまうなんて。
耕せば畑になる土地を、踏み荒らし焦土にするなんて。
「高い技術を、戦いなんかに費やして、無駄の極みだな」
「戦争が科学を発展させる、なんて言う科学者もいるけどな」
「ひとのいのちを無為に消費して生まれた技術なんて、わたしはいらない」
急速な技術発展に戦争が必要だって言うなら、わたしは石器に穴倉の家の生活で構わない。
技術は確かに便利だろうが、技術がなくても戦争なんかない世界の方が、幸せだと思う。
「残念ながら、世界はお前みたいなお人好しの馬鹿ばっかで出来てないんだよ」
「人間なんて、馬鹿ばっかじゃないか」
下らないことでいがみ合い、同属同士で殺し合って。
争って競争相手を減らすのは、生きものの性であるとしても。
「ひとはひとりじゃ生きられないのに、なんでひとを傷付けるんだ」
ひとそっくりな兵器を造ってまで、ひと同士の殺し合いをしたがるなんて。
もっと兵器らしい見た目の兵器なら、こころがあるかもなんて思わずに済んだかも知れないのに。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
突然ですが、次話で終わります
作者も今話を書いていてアレ?これ次で終わるんじゃないか…?と気付きました
あほ作者で済みません
完結記念(?)に小話を作ってあったので
明日は二話くらい更新します
次話でラストとなりますが
最後までお付き合い頂けると嬉しいです




