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閑話10 狂愛 1 (マッドサイエンティスト視点)

本編にするか閑話にするか迷ったお話です


読まなくても本編に影響はない…はず

 

 

 

 ベッドの上で横たわる赤毛の女は、安らかな寝息を立てていた。

 黙って大人しくしていれば、人形のようにしか見えない。


 寝ている姿だけ見るのなら、こいつが恐るべき殺戮者だなんて、思うやつはいないだろう。


 いや、そもそも。


 こいつの本質はきっと、殺戮者なんかじゃないのだろう。


 条件反射。そう言った。

 監視カメラの映像を見た限り、こいつがとっていた行動は矛盾だらけだった。


 身を守り敵を殲滅しようと動きながら、同時に、身を削り妨害するものを呼び寄せようとする。


 まるで、相反するふたつの意志が、ひとつの身体を取り合っているかのようだった。


 こいつは恐らく、意志に反して殺戮を行わされる事情があるのだ。


 真っ赤な髪に被われる頭に視線を向ける。

 十中八九、その事情とは脳に施された何かだろう。


 頭には爆薬が検出されなかったこと、俺に脳外科の知識がなかったことから、首から上には手出ししていない。辛うじて聴覚と視覚、声帯を弄られているのはわかったが、それ以外はまるきり不明、だった。

 が、今回のことで少なくとも、こいつの身体が本人の意志に反して動く可能性は理解出来た。


 近付いた敵を問答無用で殲滅する、自動迎撃モードでも、搭載されているのだろう。


 俺としては馬鹿な女が何人死のうと関係なかったが、馬鹿女のせいでこいつが自滅するのは困る。


 まさか自傷してまで、自分を殺そうとした敵国の人間を救おうとするとはな。

 初見では不可解過ぎる行動だったが、こいつが自分の身体を御せないと仮定するなら、理解は出来ないが説明は可能な行動だ。


 意志に反して動く身体に無理矢理意志を反映させた。攻撃をずらして壁やベッドに当てることで、四肢を欠損させ、強制的に自分を戦闘不能に追い込んだ。

 そこまでして他人を、それも自分を恨み殺そうとする馬鹿を、救いたいと願う心理は理解出来ないが、そう言うことなのだろう。


 思い返せばシュルツ博士も殺していないし、興味を持ってからほじくり返した衛星映像でも、度々他人を助ける姿が見受けられた。他人を助けて負傷する。そう言う性分の人間なのだろう。


 俺から見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ない性分に映るが、シュルツ博士辺りなら優しいと表現するのだろう。

 戦場にいるのが、この上なく似合わない女だ。


 「…んぅ」


 赤い唇から声が漏れて、起きるのかと顔を見下ろす。

 まだ、強制睡眠剤は効いているはずだが。


 単なる寝言だったらしく、真っ赤な瞳がまぶたから姿を現すことはなかった。

 かすかに顔を動かしたせいで、ろくな手入れもされていないらしい赤毛が、白く整った顔に掛かった。


 顔の上の赤毛を拾って、払ってやる。

 目は、覚まさない。

 どうやら殺気でも向けない限り、睡眠を妨げられることはないようだ。


 その方が、弄るのに都合が好いからだろう。


 この女は自分の持つ色彩が、この国の上流階級、特に王族に多い色だと、知っているのだろうか。

 自分のやった行為がどれほどこの国を追い詰めたか、知っているのだろうか。


 もしもこの女の身体に、王家の血が流れているなら…、


 「いや、違うな」


 それはあり得ないのだと思い出して、ひとり首を振った。

 この女にはそもそも、血が流れていないのだから。


 こいつは自分に流れるのが血液ではないと、気付いているのだろうか。


 どんな原理か知らないが、やたらと自己治癒力の高い擬似血液。専門が医学や生物学のやつなら垂涎なのだろうが、俺の専門は機械だ。義肢や義足のためにかじってはいるが、最先端の知識なんかは持っていない。その価値は、理解出来なかった。


 だが、現在この女に王家の血が流れていないのは確実、と言うことだ。

 機械化前に関しては、その限りではないが。


 もし、王家の血縁なら、皮肉な話だ。

 身内を兵器に変えられ、亡国に向けた一手に利用されたのだから。


 とくにどうと言うわけでもないが、真っ赤な髪を一房、掴んで引く。


 「んー…」


 不満げな唸りが漏れて、薄く赤い目が覗いた。

 朦朧とした視線が俺を見て、舌足らずな言葉が放たれる。


 「まだ、眠い。寝、かせろ…ビート」


 言うだけ言って、すぐに目は閉じられた。

 生憎と俺の名前はビートじゃない。

 誰かと、間違えたのだろう。


 眠る自分のそばにいるのが当たり前で、無防備な姿をさらすのに抵抗がない、名前で呼び合う相手。

 順当に考えるならメンテナンス技師だが、この女は自分のメンテナンス技師を、たこ技師と呼んでいた。名前は覚えていなさそうな雰囲気だった。


 それ以外に、と考えるなら所属隊の兵士だが、こいつが連れて来ていた隊の兵にビートなんて名前の機械人形はいなかったし、向こうじゃ基本的に兵は番号識別らしい。

 メンテナンス技師でも所属隊の兵士でもないなら、


 「恋人?」


 いや、あり得ないか。

 こいつにその手の悲愴さは見られなかった。恋人を故郷に残して死にに来た女には、とても見えない。

 むしろ、死ねて清々だとでも思っていて不思議がない。


 と言うかそもそも、こいつがベルヴィストクの赤鬼なら、従軍したのは五年以上前のはずだ。寝ぼけて出るほど日常的に、恋人と接する機会なんざないだろう。


 と、すれば、


 「狂人とやら、か?」


 何度かこいつの口から出た、こいつを機械化した存在。

 古い機械化兵のはずなのにこいつの性能がやたら良かったのは、いまだにそいつが関わって性能を向上させているからなのだろう。


 赤毛の女を、見下ろす。


 長い髪、腹にチャックこそあるが、他はひとつとして傷痕のない美しい顔と身体。


 人智を超えて敵を殲滅する能力に、身を挺して女を守る機械人形。


 打ち出したとある憶測に、ぞくりと背筋が粟立った。


 「まさか、な」


 その憶測が真実なら、ビートとやらはなるほど確かに、疑いようもなく、狂人だ。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


マッドサイエンティストと呼ばれるわりにまともかも知れない彼でした

本当の狂人は某狂人さんの方です


続きも読んで頂けると嬉しいです

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