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第五十七話 殺戮する機械

戦闘描写、流血ありです

苦手な方はご注意下さい

 

 

 

 自分が恨まれる存在だってことは、理解してた。

 でも、自分が簡単に殺し得る存在だと思われてることは、理解してなかったんだ。




 夢を見た。


 戦場で戦ってる夢だ。

 φ(ファイ)がいて、θ(シータ)たちがいて、ミミズクがたちいて。

 いつ死ぬかなんてわからないけど、でも、それは“今日”じゃなくて。


 負傷したわたしをみんな馬鹿みたいに心配して、いつものように作戦終了後、たこ技師の所に担ぎ込まれて、たこ技師は文句を言いながらもメンテナンスして、あいつからの伝言を伝えて来る。


 あの狂人にブラッシュアップを掛けられて、またわたしは戦場へ。


 戦闘は混戦で、敵がとても近くに--



 「--っ」

 「きゃ」


 殺気を感じて考えるまでもなく起き上がって反撃しようとする。


 身体の反応が鈍い。あの狂人、手を抜きやがったな。


 目の前の敵を視認し−


 「!」


 現状を急速に思い出して無理矢理行動を変える。最盛期より格段に劣化した体骨格が、盛大に悲鳴を上げた。


 うっかり、殺すところだった。と言っても、まずい状況に変わりはないが。


 一撃目は外せた。が、完全に応戦へと意識が移行している。


 考えるまでもない。劣化してもなお生身の男性軍人より強いわたしが、病室に侵入した5人の女を殺すのと、全身を柔らかそうな肉に包まれた女が逃げるの、どちらが早いかなんて。


 まさか、あの馬鹿貴族ども並みの馬鹿がいるなんて。


 「…機械化奴隷相手に生身で襲い掛かるとか、死にたいのか、馬鹿が」


 取り敢えず、唯一自由に動く口で悪態を吐いた。


 劣化した身体が思わぬ所で幸いして、襲い掛かる前に性能把握に時間が回ったのが、彼女たちの幸運だろう。


 その間にわたしも、彼女たちを救う策を見出した。

 動き出した身体に意識を反映させ、渾身の力で床を蹴り、振り上げた拳を、根性でずらして壁に当てる。


 壁はへこんだがそれ以上に、腕と脚がダメージを受けた。たたらを踏んで、床に手を突く。

 肩関節や背筋、背骨や腹筋なんかも、激痛を訴えていた。脳が命じるわたしの全力に、この貧弱な身体では対応出来ないんだ。


 わたしの拳が頬をかすめた女は怪我もないのに失禁し失神して、他の女たちも腰を抜かして、ひとによっては頬を濡らしたり股を濡らしたりしていた。


 ひとを害そうとしたくせに、ひとに害される覚悟はないのか。

 呆れたが、溜め息を吐く暇はなかった。


 まだ、身体は動く。


 起き上がりついでに病室の扉を蹴り開け、緊急用のボタンをコードごと引き千切る。これで、最悪の場合も発見は早まるはずだ。


 「さて、誰から死にたい?」


 腰なんか抜かしてないでさっさと逃げやがれと言う思いを込めて吐き捨てる。答えを待つ間に失神した女を扉から蹴り出した。当たり所が悪ければ、死んでるな。


 この病室にいるよりは、きっと生存率が高いけど。


 「ば、化け物…!!」


 床に汚い染みを作った女が叫ぶ。叫んでる余裕があんなら、早く逃げてどっかに消えて欲しい。頭が痛い。視界が歪む。


 駄目だ。


 意識が途切れれば、この身体はどんな動きをするかわからない。


 その前に。


 目眩を払うように頭を振って、腕を壁に叩き付ける。壁と腕が、ひび割れ潰れた。壁を蹴り崩し、無駄に大きなベッドも蹴り上げた。


 耐えきれなかったらしく、片脚が根元からもげた。


 一足一手で、それでも攻撃しようとする身体ごと、壁に突っ込む。ばきりと、腰椎辺りが叩き折れる音がした。


 いっそこれで、死ねたら良いのに。


 肺でも傷めたか。


 「けほっ」


 荒い息が絡んで吐き出した咳に混じって、赤っぽい飛沫が飛んだ。


 ああ、目が回る。


 なんで、そこの馬鹿たちはまだ逃げ出さないんだろう。

 自分のいのちくらい、自分で守れば良いのに。


 苛立ちを込めて腿を殴る。ばきんと、骨格が歪んで動かなくなった。がくんと、床に身体が落ちる。


 腕一本(そ  れ)でも敵を殺そうと動く身体に呆れ、生き残った片腕を渾身で振り被り、床に振り下ろす、途中で腕が肩から抜けた。耐久の限界だったようだ。

 やっぱり、粗悪品だ。

 まあ、今回限りは粗悪品で助かってるけど。


 「はっ…ぁ…」


 四肢を欠損したわたしの姿は、倒せそうに思えたんだろうか。


 馬鹿な女がひとり、近付いて来る。


 あと、三歩。

 にい、いち--


 「っ」

 「へっ、あ、あ゛ぁあ゛あ゛あ゛っ!!!」


 口の中に、血の味が広がる。落ちてころんと転がったわたしの、口からぼとりと落ちた、ひとの腕。


 右肩を喰い千切られた女が、耳障りな絶叫を上げた。

 血の混じった唾を吐き捨てて、顔をしかめる。


 「はぁ…うる、さいな、ぁっ。腕の…一本や、二本で、騒ぐな…よっ…こほっ」


 さすがにこの鈍りきった身体で、胴体のみで飛び上がるのは辛かった。

 何より気力と体力を使ったのは、首を咬み千切ろうとする身体を軌道修正することだけど。


 上がった息を整えつつ、早く逃げろよと苛立つ。


 「おい、(アト)、なにご−!?」

 「近寄るな。殺すぞ」


 危険察知してようやく駆け付けたらしいマッドサイエンティストを、睨み上げる。

 体力は限界で、このまま敵がいなくなればぶっ倒れられるだろう。


 「とっとと、そこのゴミ、棄てて来い」


 マッドサイエンティストはわたしを取り押さえるために、機械人形を使う判断をしたらしい。戦闘用ではないと言うのに、愚かなことだ。


 振った頭が機械人形の頭を叩き壊し、壊れた脚と胴に挟まれた機械人形の身体が壊れてひしゃげた。

 めきっと音を立てたのは、わたしの身体が相手の身体か。


 「…残念ながら、毒は効かないんだ」


 向けられた麻酔銃に、苦笑を返す。


 「大丈夫。もう、意識が…」


 体機能低下による、活動停止。

 それでもう、動けなくなるはず。


 マッドサイエンティストが、眉を寄せてわたしを見下ろす。


 「その状態でなお、敵を殺すか」


 はっと笑って、言葉を返した。


 「、たり前、だろ、ったしは、そのための、機械、っんだから」


 不明瞭な意識の中、まともに言葉を発せたかはわからない。


 「お前は、捕虜だ。もう、殺す必要もないだろう?」

 「条件、反射だ…戦う、ためにっ、けほ…、っくられた、機械に…殺気、ぁんざ、っける、んが…」


 悪い。


 わたしは殺戮する機械で、書き込まれた命令に、逆らえないんだから。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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