第五十五話 100京分のいちの奇跡 1
短いです
すみません(´・ω・`)
「a」
変な呼び名を付けられるのはごめんだと、わたしはそう吐き捨てた。
「あん?」
「Anじゃなくて、a」
不可解げに聞き返したマッドサイエンティストと、同じくらい不可解げにわたしは繰り返した。
「個体を識別するための呼称が必要なんだろう?なら、わたしはaだ」
死にかけたわたしを無理矢理この世界に留めた男が、薄ら寒い笑みを浮かべて言った台詞が頭にちらつく。
こびり付いて離れない、最初の呪縛。
わたしが死ぬ自由を奪われた、あのとき。
「c、m、μ、n、p、f、a。10のマイナス18乗。100京分のいちの、いくら集まったって取るに足らない無意味な物って意味の名前。わたしの個体識別名で、わたしが唯一持ってる自分の持ち物だ」
生まれて、色々なものを失って、でも獣みたいに生き延びて、糞みたいな命がようやく尽きてくれると思った、その希望を奪われると同時に与えられた、悪意と同情と暴力以外の初めてのもの。
あとで訊いたら由来は後付けで、単純にあの男が手掛けた12番目の機械化生物だったからと言う下らない話だったが。
それでも他の研究者たちの被献体や機械人形たちみたく番号で呼ばれないだけマシな話なのだろう。記号とは言え、あの男は自分が生んだ化け物共に、無二で奪われることのない私物を与えた。
個体識別番号ではない、自分を表す術を。
あの男は狂っていたが、狂っているがゆえにあり得ないほど正気だった。
普通正気ではいられないはずだ。自分と同じ種の生き物を、生きたままで、ぐちゃぐちゃに弄くって改造し尽くすなんて。
他の研究者達たちは、戦争奴隷なんか人間だと思わないことで、どうにか正気を保っているんだ。
そう考えるとたこ技師もかなり狂っていると言えるが、恐らくたこ技師とあの男は、同じ狂気でもベクトルが違うのだろう。
どちらにせよ、狂っていることに変わりはないが。
「実際わたしはこうして捨て置かれてるんだから、あながち間違った名前じゃないな。わたしにぴったりの名前だ」
「本当に取るに足らないなら、お前は今ここにいないはずだ。お前は機械人形に命令違反を犯させるような、俺たち機械人形開発者から見れば偉く奇特な人間だろ。隅々まで調べ尽くしたいくらいの、異常者だ」
マッドサイエンティストはわたしの頭に視線を向けて言った。
頭を割って脳の中身を見てみたいとでも、視線で訴えていた。
「…わたしに価値なんかないよ。調べる意味もない」
わたしは肩をすくめた。
「たまたまわたしが長く近くにいただけで、誰だって関係なかったんだ」
たまたまわたしがあの男に目を付けられて飛び切り気合いを入れて強化されて、たまたまあの男が作った先鋭の機械人形集団の指揮官にさせられて、たまたま長く死なずに生き残ったから、情が生まれた。それだけだ。
わたし自身には、露ほどの意味も価値もない。
ただ、機械人形を自爆作戦に追い込んだ挙げ句、命令違反で自滅させた害悪なだけ。
なんの疑問もなく放った台詞を、否定したのはお兄さんだった。
わたしに手を伸ばし、そっと髪を撫でる。
「誰だって関係ないなんて、そんなことはないよ」
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
aちゃんの名前の由来のお話でした
接頭語だとピコ、フェムト、アト辺りが好きです
ただし使う機会はありません
続きも読んで頂けると嬉しいです




