閑話9 最悪の二択 (ギム視点)
たこ技師視点
人道にもとる発言が出て来ます
苦手な方は回避して下さい
読まなくても本編に支障はないです
打たれた痛みと空腹で、眠れない。
獄舎の食事は酷い味で、一口食べて戻してしまった。
固いベッドとカビ臭い毛布も、睡眠の妨げに一役買っていた。
ひ弱過ぎる自分に、嫌気が差す。
aならばこの程度で、眠れないなどとは言わないだろう。
腕が千切れても腹に穴が空いても、泣きもせず耐えて帰還する子だ。
aは痛みを、恐れない。
親でも子でも恋人でもない、赤の他人のために、炸裂する爆弾の前に我が身を差し出せる人間が、どれほどいるだろうか。
そうまでして助けられてなお、己の自尊心を優先する人間の、なんと醜いことだろうか。
今まで何度も、あの子を死地へと送り出して来た。
命じられるままプロテクトも掛けたし、ただでさえ異様に機械化された彼女に、さらなる機械化を加えもした。
けれど施した機械化は、すべてあの子を生かしたいがためのもので。
そんなのが自己満足であることは、よくわかっているけれど。
あの子を自爆テロ作戦なんかに投じさせるために、生かして来たわけじゃない。
これまで粛々と命令に従って来た私の、初めての反発への答えは、硬鞭と投獄だった。
頬に一撃を喰らわされ、それでも反発を続ければ、何度も身体に鞭を振るわれた。顔が一度だけだったのは、失明すれば使い物にならなくなるからだろう。技師として致命傷にならない、背中や脚への鞭打ちを、気絶するまで繰り返された。
その後、痛みで目覚めれば、檻の中。
死んだら困るからかおざなりな手当てだけはなされていたが、それだけだ。
機械人形に連れられ、ぼろぼろで帰って来たあの子を治してやることすら、出来なかった。
彼女は誰か他の技師に身体を弄られ、生きた爆弾として敵国に送り出されるのだろうか。
昼も夜もさだかでない獄舎の中で、悶々と考える時間を、遮ったのはとある男の訪れだった。
「お前かハッターでないとあの奴隷を直せないと、機械技師どもが騒いでいる」
使えない。と男は吐き捨てて私を見下した。
「ハッターは今多忙だ。お前がやれ」
「自爆なんて気違いな命令を撤回し、治すだけなら喜んで」
男が瞬間気色ばんだ顔を見せたあとで、嘲るように嗤った。
「なら、他の方法で利用するしかないな」
「他の方法?」
男の厭らしい嗤いは、嫌な予感しか与えなかった。
吐き気を催す醜い表情のまま、男は気色の悪い声を吐き出す。
「お前が治さないならあの奴隷は軍事の役に立たないだろう。なら、まともに動けなくとも出来ることで役立たせるしかない。そうだろう」
動けなくとも出来ることの内容は、男の顔を見れば明らかだった。
聞きたくもない言葉が、落とされる。
「あの奴隷、生意気で痩せぎすだが、奴隷どもを誑かすだけあって顔だけは良いからな。身体は強化されているし、子も孕めなくなっているのだろう?慰みものにはちょうど良い。長い戦争でみなストレスがたまっているからな。発散は必要だろう」
ぎりっと、噛み締めた歯が音を立てた。
この男は、選べ、と言っているのだ。
戦争奴隷として殺すか、性奴として生かすか、選べ、と。
最悪な二択を突き付けられて歪んだ私の顔を、愉快そうに男が見下ろす。
どちらを選ぶかなんて、わかっているのだろう。
私にとっては最悪の二択でも、aならば迷わず…。
「お願い、聞いて頂けますね?」
無礼なほどに慇懃な態度が余計、気色悪さを増長させるのだと、この男は気付いているのだろうか。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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