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第五十四話 囚われた魔女 2

閑話の1、2、3、7を読んでおくと

内容がわかりやすいかと思います

 

 

 

 現れた人物は見覚えのある顔で、きょとん、として首を傾げる。

 こっちの国に顔見知りなんて、いるはずないんだけど。


 「あ、い、生きて…」


 わたしの生存を喜ぶような言葉に、ますます首を傾げる。

 死を願うならともかく、生存を願われる相手なんて…、あ。


 「お兄さん?無事だったんだ」


 思い返せばひとり、会話を交わして見逃した相手がいた。

 最後の暗殺任務のときに、かくまってくれたお兄さんだ。

 ここはそのとき忍び込んだ施設とは違うはずだけど、移って来たんだろうか。


 歩み寄って来たお兄さんが、手を伸ばしてわたしに触れる。


 「覚え、て…。本物?」

 「何について言ってんだか知らないけど、実在してるのは確かだよ」


 夢でも見てるような表情のお兄さんに、苦笑して答える。

 端で話を聞いていたマッドサイエンティストが、にやっと笑った。


 「やっぱりお前が、赤い魔女か」

 「赤い魔女?」


 いぶかしげに聞き返してから、暗殺任務のときにそんな呼び方をされたと気付く。

 気付く、が、任務については守秘義務が課せられている。


 「わたしは、赤い魔女なんて名前じゃない。魔法だって、使えないし」

 「なら、ベルヴィストクの赤鬼でどうだ」

 「わたしが鬼に見えるなら、眼科に行った方が良い」


 赤毛だから赤い魔女だの赤い悪魔だの赤鬼だのと、名付けが浮浪児並みに安直だ。


 「比喩だよ。実際に魔女や鬼だと思ってるわけじゃない」

 「あっそ」

 「どっちも赤毛の女で、お前の祖国の機械化兵だ」


 暗殺者の正体がばれていることで、お兄さんに目をやる。


 「そいつはなんも喋ってない」


 マッドサイエンティストがほくそ笑んで言う。


 「兵の捜索協力中に何者かに襲われた。何に襲われたかもわからない。の一点張りだよ。赤い魔女を間近で見た生存者だから呼び寄せたのに、なにも吐きやしない」


 実際はお兄さんなんて言われるくらい、親しいくせにな。


 マッドサイエンティストの追及にお兄さんが目を逸らす。どうやら彼は、本当に黙っててくれたらしい。


 「赤い魔女は、兵士なんだろ?なんでこのお兄さんは近くで会えたんだ?」


 恐らく確信しているだろうマッドサイエンティスト相手に、それでもすっとぼける。

 せっかく黙っててくれたんだから、簡単に認めても申し訳ない。


 マッドサイエンティストは、面白そうに笑った。


 「赤い魔女は、一時だけ我が国を騒がせた殺人鬼だ。軍施設を襲い、要人を何人も殺した犯罪者」

 「それなら、うちの兵かなんてわからないだろ?」

 「赤い魔女は高性能な防御装置を持っていた。あんな防御装置、作れるのはお前の国くらいだ」


 …装備からばれたのか。

 なら、まあ、仕方ないな。防御装置を使うなとは言われてないし、そもそもばれるなとも言われてない。

 と言うか、マーティにも言ったけど、この男から名前が出た通り、わたしは顔が割れてておかしくないんだ。わたしを使った上が悪い。


 わたしは肩をすくめて、マッドサイエンティストを見返した。


 「あんたが解体したんだからわかるだろうけど、一応言っとく。わたしは自爆のために最低限動ける装備しか残されず、身体中を爆薬で埋められてた。あんたが褒めた防御装置も、各種武器や特殊な装置も、すべて取り外されてる。調べて楽しいもんはほぼ残ってないよ」


 マッドサイエンティストが目を細めて、わたしを見下ろす。


 「お前は当たり前に機械化兵なんざ造る国の人間だから気付かないんだろうが、その人工皮膚だって、視力や聴力、思考能力を上げてる装置だって、この国にとっちゃ世紀の大発明だぞ。まあ、防御装置と重力低減装置がないのは、非常に残念な話だがな」


 マッドサイエンティストも、重力低減装置は気に掛かるのか。


 でも、残念ながら。


 「わたしは元々、重力低減装置なんざ持ってない。わたしをはじめに改造した、狂った男の意向でね」

 「狂った男、ね。お前がもしベルヴィストクの赤鬼と同一人物ならずいぶんと前の兵士だが、向こうの兵はそんなに生き残るもんなのか」

 「生き残らないさ。一年保てば良い方だ。機械化奴隷や機械人形は、比較的長く生き残る方だけど、それでも一年保つ兵は少ない。ベルヴィストクの赤鬼ってのがベルヴィストクでの戦いに参加してたからって理由で付けられた呼び名なら、そいつがいたころの奴隷は、すでに全員死んでるだろうな」


 わたしを除いて、だけど。


 「前線にいるのはみんな奴隷だ。使い捨てだよ」


 この前は異例的に貴族が混じっていたが、んなもん異例中の異例。あの馬鹿貴族は馬鹿過ぎてだめだ。


 「機械化奴隷や機械人形なら、生きて戻りさえすれば修理を受けられるけどな。戦場で死ねば、それまでだ。生き残れやしない」

 「…死んだら」


 思わず、と言ったようにお兄さんが呟いた。


 「死んだら、どうなるんですか?」

 「死体が現存して基地に持ち帰られた場合、使える部品や装置は全部、回収される。機械化されていない兵は、この時点で戦場に置き去りだな」


 荷物を運べる手は限られている。持ち帰っても仕方ないものは持ち帰られない。


 「部品を回収したあとは?」

 「機械人形なら金属部を鋳溶かして再利用、非金属部分はスクラップで焼却だな。機械化奴隷なら、そのまま焼却炉だ。骨も残さず焼き尽くし」


 お兄さんの顔が歪む。マッドサイエンティストも、わずかながら不快げな顔をした。

 人道、と言う点なら、この国の方が優れているのかも知れない。奴隷に対する考え方の違いも、大いにあるだろうけど。


 お兄さんが痛ましいものを見る目で、わたしを見つめた。


 「だからきみの手で、埋葬していたの?」

 「え…?」


 思い掛けないことを言われて、目を見張る。


 「埋葬って…」

 「国境の…今は国境からだいぶ離れてしまったけど、長く国境だった場所の花畑に、仲間のパーツを埋めて、歌を歌っていたでしょう?」


 確かに、歌っていた、けど。


 「なんで知って…」

 「見てたんだ、何度も。きみが来るのとは逆の、崖の上から」


 崖の、上…。

 死んだ仲間を弔うとき、わたしの精神はまともじゃない。崖の対岸なんて気にしたことは、なかったと思う。

 だってあんなところ、誰も来ないと思ってたから。


 ああ、でも、それなら説明も着く。


 「だから、わたしがあっちの兵だって知ってたのか」

 「うん」

 「けど、そんな話したらあんた、罰されるんじゃないか?」


 わたしの問いに答えたのはマッドサイエンティストだった。


 「シュルツ博士の研究は重要だし、博士本人じゃなきゃ難しい。そうそう殺されやしないだろうよ」


 あとで詳しく話は聞くが、とマッドサイエンティストは笑った。

 しゅる…なんとか博士ってのが、お兄さんの名前か?


 ただのお兄さんだと思ってたけど、なにやらすごい博士みたいだ。


 お兄さんが少し頬を赤らめて、ぶんぶんと首を振る。


 「ぼくなんてそんな…カインス博士には、遠く及びませんよ」

 「俺とは、方向性が違うだろ」


 かい…なんたらってのが、マッドサイエンティストの名前か。まあ、マッドサイエンティストで良いな。どうせ覚えないし。


 振り向いたマッドサイエンティストが口を開き、なぜか顔をしかめて閉じた。

 わたしとお兄さんを交互に見てから、再び口を開く。


 「お前、名前は?」

 「なんだ突然」


 マッドサイエンティストらしくないかと思ってたが、訂正しよう。

 この男は間違いなく狂人だ。論理立てた話をする気がない。


 「名前だよ。お前の」

 「奴隷に名前なんかあるわけないだろ」


 端で聞いてたお兄さんが、驚いた顔をする。

 どうやったか知らないが、わたしの名前も知ってるらしい。


 お兄さんの表情を伺ったマッドサイエンティストが、目を細めて問いを重ねる。


 「シュルツ博士はご存知のようだがな?」


 わたしが名前を教えたがっていないと思ったのだろう。お兄さんが申し訳なさそうな顔をした。良く顔に出るお兄さんだ。


 「あってもお前に教える義理はないだろ」


 髪に指を突っ込んで言ったが、言わない理由は特になかった。なんとなくだ。

 マッドサイエンティストは、ふむ、と唸ってにやりと笑った。


 「教えないなら何か適当に、」

 「(アト)


 マッドサイエンティストにみなまで言わせず、わたしは吐き捨てた。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


ストーk…けほん、一途な青年、無事でした


続きも読んで頂けると嬉しいです

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