第五十三話 囚われた魔女 1
作品内の会話や地の文は登場人物の意見であり
何かへの否定的な意見があっても作者にその何かを貶める意図はありません
登場人物の個性としてお許し願います
結論から言えば、わたしは一命を取り留めた。マッドサイエンティストと呼ばれる男のお陰で。
まだ生き長らえさせられるのか。目を開けてそう思ったことは、θたちへの裏切りだろうか。
「前以上に機械化された身体だ」
狂ったと言うわりにまともそうな男はわたしに言った。
狂ってるって言うのは、どっかの狂人みたいなのを言うんだ。
「お前の国は気違いだな。まぁ、俺としてはありがたいサンプルを得られて嬉しい限りだが。お前ほど改造された人間っつうのも珍しい。お前はこの国の捕虜なんだろ?お前の外れた手足やお仲間も含めて、たっぷり調べさせて貰うから、楽しみにしとけ」
「機械化は進んでも、弱くなったら意味ないな」
わたしはマッドサイエンティストを鼻で笑った。
爆薬が検出されなかったためか、舌は抜かれなかった。
抜けと、言ったのに。
「マッドサイエンティストが聞いて呆れる。こんな良心的な科学者には久し振りに会った」
「弱くなっただと?どうしてわかる?お前まだ、ベッドから出られてもいないじゃないか」
「そもそもメンテナンス後ベッドから出られないなんてのがあり得ない。そこから技術の低さが伺えるね。メンテナンスが済んだらまず駆動確認の戦闘演習、常識だろ」
半壊後でもたこ技師なら目覚めてすぐ訓練だ。
わたしは肩をすくめて笑った。
「それだけじゃない。動かなくたって自分の身体のことくらいわかるし、機械の質なんて駆動音で一音瞭然だ」
わたしはマッドサイエンティストの後ろに控える機械人形を指差して嘲笑った。
「あんたが大事そうに連れてるその機械人形だって、ポンコツも良い所じゃないか。まさかソイツらが一番高性能だなんて、言わないだろ?」
マッドサイエンティストは驚いた顔をした。
「へぇ、お前にこいつらが機械人形だって言ってあったか?ただの戦争奴隷かと思ったが、機械に詳しいのか」
「まさか」
はんっと笑ってわたしは首を振った。
「わたしはただの戦争奴隷だ。あんたはそれが機械人形だと言ったことはないし、他のやつもそんな事は言ってない」
「ほー。大抵みんな言われるまで機械だと気付かないんだがな」
「声でわかる。機械か人間かなんて」
わたしはマッドサイエンティストの方を見ずに言った。
「じゃあ、喋らなければわからないのか?」
「喋らなくたって、ちょっとした動きや気配でわかるだろうがよ。機械に魂なんてないんだから」
だからわたしは機械人形が嫌いなんだ。
魂がないとわかるのに、あるんではないかと期待させるから。
魂がないと思いたいのに、あるみたいに振る舞って見せるから。
機械に魂なんかないと言いきってはみたけれど、本当はもう断言出来る自信なんかなかった。
φ、ミミズク、θたち。本当に、こころなんてないのか?
「ふうん。魂、ねぇ。お前の国じゃあ、みんなそんな見分けが出来るのか?」
「さぁねぇ」
わたしは笑って首を傾げた。
「他の戦争奴隷は良く間違ってたよ。たこ技師なんかは、見ただけで完璧に機械人形と人間の区別が出来るのなんてわたしくらいだって言ってたな」
「たこ技師?」
「わたしらの隊のメンテナンス技師。わたしの機械化は半分あいつの仕業だ。ただのたこだよ。たこ。才能ないから大した仕事させて貰えないの。しかも上に逆らって最近降格になった」
しかもその理由が、わたしたちを自爆させないためと来た。
ほっぺた真っ赤に腫らして、投獄すらされて。あいつは本当にたこだ。馬鹿だ。
「お前の身体見た限り、才能が無いとは思えないな。残念ながら、俺の持ってるあいつらが、この国じゃ最高峰の機械人形だ。お前の仲間は凄いな」
やっぱり、目の前にいるこの男がマッドサイエンティストと言うのは嘘っぽい。狂った人間はこんなに素直に普通に他人を誉めたりしないだろう。
あの狂人とは、大違いだ。
「凄くない」
私は顔を顰めて唸った。
「あん?」
「凄くない。凄かったら、棄て駒になんかするかよ。わたしもあいつらも、廃棄品だからあんな作戦に使われたんだ」
「あれが、廃棄品?」
マッドサイエンティストが目を剥いて呟いた。
「次世代機は既に完成実用化されてとっくに普及してる。次々世代機も開発されて実用化に向けて調整中って話だった。国は時代遅れになった機械人形のメンテナンスより、新機種改良を選んだんだ」
本当は、わたしたちを排除したかっただけだろうけど。
でも、第一世代でなかったらθたちは生かされたんじゃないかとも、思うんだ。
「どんだけ…進んでんだ、お前の国の機械産業は」
「…中身を気にしなきゃ子供が産めないくらいだよ、違いなんて。孕む心配も感染症の心配もないから、抱き人形には持って来いだ。裏切りもあり得ないから人間の部下より便利だし、浮気しないから人間の恋人より都合が良い。抱き合えば温かいし愛玩用なら話が噛み合わないこともない」
戦闘用は最初、まったく話にならなかったが。
「さっき戦闘奴隷は機械人形と人間を間違えるって言ったけど、あんたが連れてるソレくらいなら、ほとんど誰も間違えないだろうね」
わたしは機械人形を手招いて人との違いを論った。
「暇だから見てれば、瞳孔は動かないわ粘膜はないわ皮膚は固いわ髪も爪も明らかに人工物だわ」
手を握って笑う。
「脈はないわ冷たいわ皺も汗腺も毛穴も黒子も血管もないわ動きはぎこちないわ駆動音は煩いわ」
「…目と耳が良いのか」
マッドサイエンティストは呆然と言った。
「まぁ、普通の人間よりは遥にね。あんたの機械人形、声のノイズが今まで聞いた中で一番少ないよ」
「それは、誉めて…」
「貶してんだ」
私は吐き棄てるようにそう言い放った。
「生の人間の声なら、震えやノイズや揺らぎが大量に入るんだよ。普通。本気で似せたいならデジタルまんまの声なんて使わないのは常識だろ。あんたの機械人形、かっすかすだぜ。キモチワルイ。なんか子守歌?とか歌わせたみたいだけど、吐き気がした。わたしの耳に入る場所では二度と歌わせんなよな、頼むから」
わたしはここ数日眠るたびにうなされていた。それを案じての子守歌だったのかも知れないが、逆効果だ。
「デジタル音声は嫌いなんだ。人間の馬鹿さ加減と傲慢さを見せ付けられる。ゼロとイチだけで世界が表せるはずないだろ」
「科学者を敵に回す発言だな、それは」
「事実だろ」
わたしは笑ってマッドサイエンティストを見返した。
「そもそも人間が世界を正しく認識してる保証なんかないんだ。一瞬前の時間が存在したことすら証明出来ないのに、世界全てを説明しようなんておこがましいにもほどがある」
φは国歌を高らかに歌いながら死んで行った兵士を不思議そうに眺めていたなと、ふと思い出して可笑しくなった。θはφの死に泣いたわたしになぜ泣くのかと問うて来た。
それが、あそこまで変わったのは…、
考え込みそうになったわたしを止めたのは、病室に入って来た新たな人影だった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
科学も機械音声も作者は好きですよ!
化学と物理は死ぬほど苦手ですし
情弱かつ機械音痴ですが
機械系や科学系の得意な方は本当にすごいと思います
続きもお読み頂けると嬉しいです




