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第五十二話 戻らないもの

山場です

内容が重いです

 

 

 

 並んだ兵を前に、わたしは唇を噛み締めて頭を下げた。

 

 「ごめん」

 

 わたしのせいで、オマエらは死ぬんだ。

 

 機械人形たちはわたしを見下ろして、悲しい顔で微笑んだ。

 

 「イイエ。(アト)、行キマショウ」

 

 θ(シータ)に促されて、わたしたちは死に向けた行軍を開始した。

 

 

 

 作戦は単純だ。忍び込んで自爆する。それだけ。

 そんなことをするくらいなら、忍び込んだ先で破壊の限りでも尽くした方が効果的だと思うが、この作戦を考えたやつはどうしてもわたしを殺したいんだから仕方ないだろう。

 

 戦敗色の高まる敵国はすさみつつあり、森や山に隠れつつとは言え、あっけないほど簡単にわたしたちは目標地点に辿り着いた。

 

 潜入までが第一段階。ここで適度に暴れて、敵に捕まるのが作戦の第二段階だ。

 敵に捕まれ、だなんて、なんて滑稽な作戦なんだろう。

 

 細心の注意を払って、わたしたちは鈍い動きの敵たちに、上手く捕まれるように動いた。

 

 

 

 捕まった27人の先鋭たち、いや、棄て駒たち。この中に唯一潜む人間であるわたしを見付けて機械人形とは別に扱ったら相手の負けだ。

 わたしは出来るだけ被害が多くなるように自爆し、機械人形もどこかで自爆する。跡形もなく自爆するのがポイントだ。狂人の手による機械人形だから心配はいらないと思うが、頭だけ変えて悪用されても困るのだ。

 第一世代とは言え、彼らは狂人の手で何度もブラッシュアップを施された、有能な兵たちなのだから。

 

 わたしと機械人形を見分ける最大の特徴は、脳だろう。手足は機械義手足だから見分けの役には立たないし、腹の中身も弄くられてる。機械を切って赤い液体が出ても循環液だったりするから始末が悪い。

 

 わたしなんかは声や気配で見分けられるけど、たこ技師曰くそんなのわたしくらいなものらしいし。

 

 見分けなんか付きっこないと思ってたのに、やつらはわたしを選び出した。

 もしかすると、暗殺任務に動いていたわたしを、知っている人間なのかも知れない。顔は、隠してなかったし。

 

「お前はこっちだ」


 作戦第二段階成功。

 

 片腕を掴まれ自爆への歩みを進めようとしたわたしのもう片腕を、掴んで止めた何かがいた。

 

「θ!?」


 θがわたしの腕を掴んで抱き寄せた。

 機械人形の力だ、抗う余地もなく捕獲された。耳許に寄せられた唇から、ひとのように感情がこもった機械音が流し込まれる。

 

「ダメ。行ッテハダメ」

「何、言ってんだよ」


 思わぬ邪魔にわたしは青ざめる。θはわたしを無視して敵に話し掛けた。

 

「爆発物処理師ヲ呼ンデクダサイ。彼女ノ身体ハ爆薬マミレデス。ワタシタチカラ離レルト、自爆シテシマイマス」

「なっ…。だって、この子は人間だろう!?」

「馬鹿言うなよθ!!わたしをあんたと一緒にスクラップにでもしようっての!?」


 わたしと敵兵の青年が慌てて叫んだ。θがまたもやわたしの言葉を無視して言う。

 

「人間ジャナイ。彼女ハ、戦争奴隷。イラナクナッタ戦争奴隷ハ、死ンデモ構ワナイト、考エラレテイル。デモ、ワタシハ、彼女ニ、死ンデ欲シクナイ」

「馬鹿な!?だ、だが…」

「嘘言うな!!手を離せ!!これは命令だ!!!」


 命令と言う言葉にθの身体が一瞬反応しかけたが、θは抗うように更に強くわたしを抱き込み、いやいやと首を振った。

 

 そんな、人間みたいな行動、いつの間に覚えたんだ。

 

「イヤ。aヲ死ナセルノハイヤ。離サナイ」


 何を言ってるんだ。

 

 わたしの目に涙が溜った。

 

「話せ馬鹿っ。何言ってるんだよ!?そんなことしたらオマエ、壊れちゃうだろ!?」


 ああ、わたしも何を言ってるんだ。

 どうせθたちも、この作戦の棄て駒にされていると言うのに。

 

「イヤ。ワタシハ壊レテモ構ワナイケド、aハ壊レテハダメ。aニハ、代ワリガナイ。aハ、人間。掛ケ替ガナイ」

「ワタシモアトヲ死ナセタクナイ」

「ワタシモイヤダ」

「ボクモイヤ」

「アト、助ケタイ」


 θだけでなく、他の機械人形たちまで馬鹿なことを言い出してわたしを離すまいと手を伸ばして来た。

 

 そう言えばコイツらは、作戦前に何か反論やらしなかった。

 もしかして、最初から、このつもりだったのか?

 作戦無視して、わたしを生かそうと?

 

 ふざけてる。コイツらみんなバグって狂っちまったんだ。


「ば…馬鹿っ。命令違反は厳罰っ…。やめろよ!死んじゃうだろ!?」

「a、機械ハ死ナナイ」

「壊レルダケ」


 その通りだ。馬鹿げてる。

 わたしも狂ってる。

 

「っ…わかってるよ馬鹿あ!でも、自己破壊データが作動したら…死んだようなもんじゃないかっ」

「違ウ」

「機械ハ作リ物。替エガキク」

「aハ、替エ、キカナイ」


 ああもうっ。

 

「違くないっ!!違うならなんで命令聞かないんだよっ!?機械にとって命令は絶対だろっ!?」


 θが愛おしげにわたしを抱き締めて言う。

 

「命令ヨリ、アトガ大事」

「それをっ」


涙が溢れて声がかすれた。


「それを自我って言うんだよっ!!自我があるやつに代わりなんてないんだ。お前らが壊れたら、死んだら、もうお前らの自我は生き返れないんだよっ!!」


“ミミズク”や、φ(ファイ)が、二度と戻らないように。


 人工知能に自我はないなんて、こころがないなんて、誰が言ったんだ。

 

「離せよっ、じゃないと壊れちゃうだろっ、死んじゃうだろっ!?」


意思を通そうとめいっぱい叫ぶ。

わたしが精一杯もがいても、力じゃ機械人形に敵わないんだ。


「ソレデモ、」


 θの、α(アルファ)β(ベータ)γ(ガンマ)ε(イプシロン)η(ニュー)の…わたしを囲む機械人形たちの顔に笑みが浮かんだ。

 

「ソレデモワタシタチハ、aヲコノ手デ守リタイ。aヲ死ナセタクナイ」


 ビーッ

 

 凄まじい音がθの中から響いた。

 θがわたしを抱く腕に力を込める。

 喩え壊れても、わたしがその腕から逃げ出せないように。

 

 ちゅ

 ちゅ

 

 θの唇がわたしの頬を、次いで唇を吸った。


「a、ダイスキ。ワタシタチノ分マデ、生キテ。サヨ、ナラ」


 θの声が、掠れて不明瞭になって行く。


「aニ…アエテ…ヨカ…タ。ワタ…シハ…a、ヲ…ア…イシ…テ…」

 

 がんっ

 

 身体に衝撃が走った。わたしを抱くθが揺れたからだ。


「おいっ、θ!θ!?返事しろよ!嘘だろ!?なんでっ」

 

 混乱しきったわたしの声は、周囲で響いた轟音に掻き消された。

 周囲を取り囲む25体の機械人形から、ビーッっと言う凄まじい警報音が発せられていた。

 

「なっ…」


 今にも壊れようと言うのに彼らは、みんなして馬鹿みたいに、わたしへ柔らかい笑みを向けていた。

 

「サヨナラ」

「ダイスキデス」

「アイシテイマス」

「ナカナイデ」

「シナナイデ」

「シアワセニ」


 愛も涙も幸せも、人間らしいことは何ひとつ知らなかったはずの殺戮人形たちが、口々にわたしに言葉を掛けて壊れて…死んで行く。

 

「ちょ…待てよ、何だよ、みんな、ばかあっ」

 

 もがいても叫んでも、崩壊は止まらない。

 

 がんっ…がんっ…

 がんっ………

 

「―――――!!」


 衝撃が過ぎ、静まり返った機械人形たちの真ん中で、わたしは声なく泣き叫んだ。

 壊れてもわたしをがっちりと抱き締めるθのせいで、崩折くずおれる事は叶わなかった。

 

 いたい、いたいいたいいたいいたい。

 

 怪我なんてしてないのに、痛みなんてないはずなのに、どうしてこんなにいたいんだ。

 

 涙が止まらない。もういっそこの場で自爆してやろうかと思うのに、一向に声は出なかった。

 

 こんなに思い通りにならないなんて、わたしの身体は壊れてしまったのだろうか。

 

 そうかも知れない。だって、わたしも彼らと同じ、戦うためだけに産み出された、殺戮人形なのだから。

 

 誰だよ、殺戮人形にこころなんて求めた馬鹿は。

 

「―――――っか…う」


 やっと、どうにか声が漏れた。思い切り息を吸い込む。


「ばかやろうっ、わたしだって、あいしてるよ―――!!!…っけほっげほっ」


 力の限り叫んで咳き込み、ぜぃぜぃと肩を揺らすわたしに、さっきの敵兵が声を掛けて来た。

 

「爆発物処理師を呼んで来ます。彼らの意思を、無駄にしないで下さい」


 こんなに辛いのに、こんなに痛いのに、こんなに悲しいのに、彼はわたしに生きろと言うのだ。

 

 

 

 わたしの身体を見た爆発物処理師は唖然として、わたしに必要なのは爆発物処理師ではなく医者と機械技師だと言った。わたしは頷いて笑った。

 

「わたしの身体の爆弾は、わたしがある言葉を発すると作動するように設定されてる。死にたくなければその言葉を発する前にわたしを殺せ」

「殺す以外にも方法はあるはずでしょう」

「ああ、あるさ」


 言った敵兵の青年に、わたしは苦笑して頷く。


「もしもあんたの国の医者が、機械義手足をもいで、舌抜いて五臓六腑開いた人間を生かす技術を持ってればね」


手足も腹も頭蓋ですら、隙間があれば爆薬を詰め込まれてる。

反対したと言うわりに、やはり鬼畜なあのたこは容赦と言うものを知らないんだ。


青年が青い顔をしたのを笑い飛ばして、わたしは爆発物処理師に声を掛けた。

 

「わたしの爆弾を処理出来ないんなら、こいつらどうにかしろよ。全員爆薬の塊だからさ」


 爆発物処理師は白い顔で頷いて、わたしを慎重にθの腕から引き剥がした。青年にわたしを引き渡して言う。

 

「この子は…身体中爆薬(まみ)れだ。生きているのが不思議なくらいだよ」


 爆発物処理師の言葉にわたしはくくっと笑った。


「良いんだ死んだって。敵の陣中で吹っ飛んでくれさえすれば、それで成功だったんだから。そいつらも、敵の陣地で捕まりさえすれば良かったから、攻撃と防御のための装置があるはずの場所全部、爆薬に変えられてる。火気厳禁だよ」

「…必ず助ける」


 青年はぎゅっとわたしを抱き締めて、呟いた。

 

 この国の要人をしこたま殺した犯罪者なのに、良いのだろうか。

 思ってもプロテクトのせいで訊ねることは出来ず、わたしは黙って、青年に運ばれた。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


書きたかった山場にようやく辿り着きました

アクセスして下さる方々のお陰です

ありがとうございます


連載前から決まっていた展開なのですが

戦争モノとは言え重過ぎ感が…(‥;)

もっとライトだと思ってた!と言う方がいらっしゃったら本当に申し訳ないです

こう言う話なんだと割り切って読んで頂けると助かりますm(__)m


続きも読んで頂けると嬉しいです

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