第五十話 消去 1
「…?」
目覚めて、違和感に囚われる。
…おかしい。
起き上がって、手を動かした。
動きは、する。でも、これは…。
「a、目が覚めたのか」
目の前に現れる、シミひとつない白衣。たこじゃない。
顔には見覚えがあるような気もしないでもないが、名前はまったくわからない。
見回した部屋も、たこの部屋ではなかった。
「…たこは?」
「タコ?」
たこ技師の名前は、
「…わたしの、メンテナンス担当技師は?」
「ギム博士か?」
「…ああ」
たしか、そんな名前だった、はず。
「奴なら今、謹慎中だ」
「謹慎?」
あのたこ、何か問題でも起こしたのか?
「上の命令に従わなかった。お前の身体に、爆弾を埋め込むのは絶対に嫌だと言ってな。奴隷や機会人形だけでは飽き足らず、ホフマン少佐まで誑かしたのかと呆れていたが、まさか機械技師すら誑し込んでいたとはね。恐れ入る」
いや。
待て待て。
話について行けない。
どう言う状況なんだ。
「誰かを誑し込んだ記憶はない。それに、わたしに爆弾って、なんの話だ?」
「お前の次の仕事の話だよ。敵国中心部に入り込み、自爆テロをして来いとさ」
ああ、そう言う話ならわかりやすいし、身体の違和感にも説明が着く。
つまり、死ねってことだ。
殺す奴隷を全力で直したりする優しさを、この国に期待すんのは間違いだからな。
あるいは、
「…あんた、才能ないのか」
「あ゛?」
「あ、いや、ごめん。口に出す気は、なかったんだ」
思いっきり睨まれて、ふるふると首を振って否定する。
「ただ、あんまりにも修理が下手だから、機械技師じゃないのかと…あ」
「馬鹿にしてるのか」
「してない。ごめん。混乱してるんだよ。えーっと?わたしが自爆テロを命令されて、たこ技師…ぎむ?博士が、それに反対したってことで、合ってるか?」
「そうだ」
なにをやってるんだ、あのたこ。
呆れて、頭を掻く。
とりあえず、流しておこう。
「そうか…。自爆テロは、単独でか?」
「いや。第18小隊とだ」
「…そうか」
今度は、両手で頭を抱えた。
わたしのせいだ。
あにときは、必死過ぎて気がまわらなかったが、今思えば、非道い行動だった。
「反論、しないのか?」
「反論して、何か変わるのか?」
名前を知らない白衣の男の質問に、質問で返す。
「わたしが殺されんのは構わないし、やらかしたのは初めてじゃないから仕方ない。そんで、わたしに機械人形を助けられるような権限はない。なら、反論なんか無意味だろ?」
たこ技師やマーティが相手なら突っ掛かっただろうけど、名前も知らない相手にそんなことするほど、常識知らずではない。
相手を見て行動する。卑怯と言われようと、それが習い性だ。
「あの作戦から生還した他の兵たちは、必死にお前を擁護してるけどな」
白衣の男が笑う。擁護って…、
「わたしは、何時間眠ってたんだ?」
「丸三日、だな」
寝過ぎだ。
「心配しなくても、うち二日は強制睡眠だ。お前の言う通り、オレはギム博士ほど優秀じゃない。開いて初めてわかったのが情けないが、ギム博士かハッターでなければ、お前を実戦で使えるレベルまで修理するのは不可能だ。今、ギム博士の謹慎を解くように要求出してるところだよ」
ふむ。話のわかるやつみたいだな。
なら、一言くらい物申しても許されるか。
「わたしに関しては一般兵に逆らったんだから、殺されておかしくないんだ。けど、他の兵はわたしに命じられて動いただけで、非はない」
「貴族どもが足を引っ張ったんだとは、言わないのか?」
「上官の命令は、絶対だろ」
いくら馬鹿でも。
「あんな馬鹿じゃなくお前に階級付けて欲しいところだな」
「ん?なんかまだ馬鹿やってんのか?」
「お前は敵国のスパイだとか、騒ぎ立ててるな」
「馬鹿じゃないのか」
スパイなら、なんで命がけであんたらを守ったんだ。
「ああ。ホフマン少佐とその場にいた兵たちが、全力で否定してる。お前がいなきゃ、全滅してたってな」
「だから殺すんだろ」
鼻を鳴らして、嗤う。嗤う以外に、何しろって言うんだろう。
「わたしは機械人形に命令を出して、上官に逆らわせた。上官権限を発動された命令が出されていたにもかかわらず、逆らって真逆の命令を出した。生かしておくには、危険過ぎる」
「せっかくの使える兵を棄てるのは、馬鹿だと思うけどな」
「反論しようとすれば、出来ないわけじゃないさ。
今のわたしはホフマン少佐直属兵の扱いで、あの馬鹿貴族ども指揮下じゃなかったこと、しかも状況を見て自己判断することが許された、単独遊撃兵だったこと。これが上官命令に逆らえた理由だな。
で、わたしはとっさのときの指示出しを許されていたし、ここの所の作戦でも毎回指示を出してた。だから馬鹿貴族ども指揮下じゃない隊の指揮官が、わたしの方の指示に従ってもおかしくないってのが、多くの兵がわたしの命令に従った理由。
最後に、わたしが過去第18小隊の指揮官をしていたために、第18小隊の機械人形たちの人工知能上にわたしの上官権限が残っていた可能性があることが、第18小隊がわたしに従った理由だ。あの貴族どもは声で指示出ししてたからな。わたしの声で命令が上書きされてもおかしくない。
だから、わたしはともかく他の兵に関して、処分は不要と考える」
わたしの結論を聞いて、白衣の男は笑った。
「そんだけ御託並べて、するのが他人の擁護かよ」
「何度も言ってるけど、わたしに関しては擁護のしようがない。奴隷の身で一般兵に逆らい、暴言付きで命令してるからな」
「味方の勝利のための行動だろう」
「だとしても。この国じゃ貴族がすべてだ。奴隷は人間ですらない、ただの道具なんだよ」
貴族がわたしを悪だと判断するならば、反論も言い訳も無意味だ。
守るために離れたのに、わたしは結局θたちを殺す。
わたしがθたちに命令して、指揮官に逆らわせたせいで。
助けるために行動して、結局殺す。
なんて、無駄な足掻きだったんだろう。
「…わたしが死ぬのは構わない。けど、第18小隊がわたしの巻き添えで処分されるのは、嫌だな」
変わらないとわかっていても、わたしはそう口に出していた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
お盆で帰省したら思った以上に自由な時間が取れず
続きが書けていません
明日の投稿がなくても
ああ、間に合わなかったんだな…と
生温いめで見逃して下さい
休日のはずなのに平日より疲れるって
どういうことなの…orz
明日間に合うかわかりませんが
続きも読んで頂けると嬉しいです




