第四十九話 はないちもんめ 5
戦闘描写・死傷者ありです
苦手な方はご注意下さい
叫ぶだけじゃ、状況は変えられない。
考えろ。どうすればいい?どうすれば。
荒れる視界を目まぐるしく行き来させ、状況を確認する。
とにかく馬鹿な追撃を止め、伏兵を殲滅しないと。
「ミミズク。左右斜面の林地に伏兵。殺られる前に、殺れ!森を、焼き払え!!」
「ワカリマシタ。追撃ノ撤回モ、命令シマス」
ミミズクに指示を出しながら、わたしも銃をぶっぱなす。
あれは、火炎放射器か?
盆地の斜面に、火炎放射器。炎の中で笑った、φの顔が過った。
火計だ。
「撤退するやつらの足取りがおかしい。地雷がある。敵の狙いは火計だ、盆地に入るな!戻れ!!」
単なる火計、そんなはずはない。
恐らく、それだけじゃなくて。
撃ち落とされた、フクロウの姿が脳裏に浮かぶ。
「飛行兵!むやみに飛ぶな。狙い撃ちにされるぞ!!おい!頭良いならわかっただろ!?追撃の命令を撤回しろ!!」
ミミズクのお陰かいくつかの機械人形指揮下の隊が進軍を止め、プロテクトに生存本能が勝ったのか、機械化奴隷指揮下の隊も、苦しげながら止まる。
止まらないのは馬鹿貴族指揮下の隊と、ミミズクが指示を出せない隊だ。
「敵が前にいるのに撤回など、許されるわけがない!!」
「馬鹿野郎こんな広さなら追わなくても殲滅出来んだよ!!」
ああもう。脳みそオガクズか糞野郎!!
節穴なお前の目と違って、わたしたちはこのくらいの距離で、問題なく狙撃できるんだ。追う必要なんて、一切ない。
「第18小隊!手近な兵を巻き添えにして戻れ!!」
左右の林地が火の手を上げてからしばらくののち、熱でやられたか盆地で爆弾が暴発した。
やっぱり、火計狙いだ。
わたしの指示に反応して、第18小隊のヤツらが、戦争奴隷とっ捕まえて戻って来る。
間に合わなかった兵が、爆弾に吹っ飛ばされた。
飛び散る血に、馬鹿貴族が腰を抜かす。
役に立たないくせに、足だけはいっちょ前に引っ張りやがって。
「まともに動けるやつはここから敵を殲滅しろ!絶対に盆地に立ち入るな!」
怒鳴って、自分は盆地に向けて駆け下りる。
「a!?」
誰のものかわからない、慌てた声が耳に響いた。
「貴族見捨てりゃ全員処刑でおかしくないんだよ!!」
足引っ張る馬鹿のせいで危機に放り込まれた挙げ句、自業自得で死んだ馬鹿のために処刑されるなんて、堪ったもんじゃない。
「生きたきゃ這いずってでも、盆地から抜け出せ!!早く!!」
怒鳴りながら走り、へたり込んだ貴族どもの許へ向かう。
幾つか火傷を負ってはいるが、なんとか生きてはいるようだ。
失神したり失禁したり、醜いことこの上ない。
拾ってとっとと戻ろう。そう思った瞬間、壮絶な嫌な予感に襲われる。
「固まって屈んでろ!!」
貴族どもを押しこくって固まらせ、その前に立ち塞がった。
持っていた冷却液を、固まる貴族どもにぶっかける。
僅差で冷却液が間に合って、わたしは爆風と熱風に襲われた。
燃え盛る炎を、防御装置が弾く。
ひぃっと叫んで、意識を残していた馬鹿貴族も失神した。
熱もある程度操れるように改良された防御装置に、今ばかりは感謝した。
目の前に広がる、火の海。
守りたかったのに、いったいどれほどの仲間が、赤い海に飲まれたのだろう。
殺してやりたい。
そう思うのに殺せない状況に、吐き気を覚えた。
爆風が落ち着くのを待って、もう一度貴族どもへ冷却液をぶち撒ける。
「a」
「大丈夫デスカ?」
「手伝イマス」
「θ、ξ、α」
ひとりで運びにくい人数に、困っていた所だった。
と言うか、この糞豚どもを、運びたくない。
それに…。
「…助かる。触りたくないなと、思ってたとこだった」
「触ラセタクナイト、思ッテ来マシタ」
…おい。
胡乱な目になりつつも、好都合と頷く。
「じゃあ、運搬頼む。後方の警戒はわたしがするから、とにかく急げ」
わたしが止めたために、盆地に入り込んだ兵はそこまで多くなかった。つまり、まだ数多くの爆弾が、未発でおかしくない。
恐らく、至近距離なら防御装置を貫通するような爆弾が。
θたちは幸いにも、わたしの思惑に気付かなかったらしい。
あっさり了承して、馬鹿どもを担ぐ。幸いにも、自陣営のいる方向はまだ火が回っていない。
「よし。行けっ」
指示を出して機械人形を先に行かせ、わたしも後を追う。
来る。
思った瞬間止まって振り返り、両手を広げた。
「aッ!?」
「いいから走れ!!」
叫んだ声を、続けざまの爆音が吹き飛ばす。
「ぐっ…げほ…」
防御装置で防ぎきれなかった攻撃が、わたしの身体を抉る。
肺か、腹か。咳き込んで吐いた唾液には、赤いものが混じっていた。
近場の爆弾は多くなかったらしく、すぐに爆音は遠ざかった。
振り向いて、走り出す。θたちは無事だ。
「早く、戻る、ぞっ…ごほっ」
「a!!」
「だいじょぶ、だ。大したこと、ない」
久々の直撃の負傷に、頭がくらくらする。
それでも笑みを造って、θたちに指示を出す。
「良いから、早く戻ろう。また爆弾喰らうのはごめんだ」
急ぐのが得策、そう判断してくれたのだろう。
不服げながら、θたちがまた走り出す。
背後からいくつもの爆音が響くが、今度は身を抉るほど近くはない。
命からがら、わたしたちは火の海から帰還した。
「そのっ、馬鹿ども、後方の、安全な位置、にでも、棄てて、来い。くれぐれも、殺さな、いよう、に…」
荒い息のままθたちに命じて、ミミズクを探す。
無事だった。
「a、怪我ヲ、」
「現状、は?」
ミミズクの言葉を手を挙げて遮り、問い掛ける。
この程度の怪我なんか、心配してる場合じゃない。
「味方ノ死傷ハ、オヨソ三割。敵ハ約七割ヲ殲滅済デス」
「良く、やった。このまま、押しきろう」
頷いて、わたしも敵殲滅に加わる。
頭はぐらつくが、いつ馬鹿が邪魔しに来るかわからない以上、ここで倒れるわけには行かない。
早いうちに火を放たせたのが、功を奏したか、否か。
間もなく、殲滅は終了した。
虚ろな目で、いまだ燃え盛り爆音を響かせる盆地を見下ろす。
あの中に、何人の仲間がいるんだろう。
「くそっ…」
もっと良い方法は、なかったのか?
なぜ、みすみす敵の策にはまった。
「a」
ミミズクが、指先でわたしの頬を撫でた。
負傷を気にしてだろう。壊れものにでも、触れるような手付きだった。
「泣カナイデ下サイ。ドウカ、犠牲デハナク、救ッタモノヲ、見テ下サイ」
知らぬ間に、泣いていたらしい。
ミミズクの指先が、涙の雫を掬った。
「アナタノ声ガナケレバ、ココニイル全員ガ、アノ中ニ飲マレテイマシタ」
「でも、わたしがちゃんと止められていたら…」
「止メラレナカッタノハ、aダケデハアリマセン。アナタニハ、指示ヲ出ス権限ガナカッタ。ソレデモ諦メズ立チ向カッテクレタアナタニ、私ハ感謝シマス」
ようやく、爆発音が止まりつつあった。
それでも火は消えないし、恐らくまだ不発弾はあるだろう。
「ココヲドウニカスルニハ、専門ノ知識ガ必要デショウネ」
「ああ。そうだな」
「デハ、撤退シマショウ」
ミミズクは断りもなく、わたしをひょいと抱き上げた。
「な!?ちょ、」
「作戦ハ終了シマシタカラ、負傷者ヲ救護シテモ違反ニハナリマセン。ギム博士ノ所マデ、責任ヲ持ッテ運ビマスカラ、aハモウ休ンデ下サイ」
休めと言われたとたん、どっと疲れに襲われた。
馬鹿の相手は、精神を削られる上、プロテクトの効果も受け、その上に負傷だ。
世話を焼かれるなんて望んでいないのに、抵抗する気力も完全に萎んで。
「眠い」
「エエ。オヤスミナサイ」
わたしはミミズクの腕に身を委ねると、そのまま意識を手放した。
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