第四十六話 はないちもんめ 2
暴力表現があります
苦手な方はご注意下さい
功を焦るやつは早死にする。
階級持ちの兵が指揮官として戦場に立つと聞いたとき、そんな言葉が脳裏をよぎった。
「…そんなにわたしを殺したいのか」
思わず、呻くようにこぼす。
マーティが頭痛を堪えるみたいに額を押さえた。
「違う」
わたし以上に、呻くような声だった。
あの馬鹿ども殺したいと書かれた顔で吐き捨てる。
「無学な戦争奴隷に出来て、自分に出来ないはずはないと」
「は?」
「お前を褒めるやつらに反論して、言ったんだよ。自分たちが指揮官としてその場にいないから、凡才な戦争奴隷が抜きん出て見えるんだってなー」
わたしは絶句して何も言えず、馬鹿じゃねーの、とマーティが呟く声が、虚しく部屋に響いた。
髪に指を突っ込んで、ようよう訊ね返す。
「真面目に訓練もしてない、勝たなきゃ殺されるわけでもない貴族の坊ちゃんが、機械人形や機械化奴隷に勝る動きが出来ると?」
ヒトの数十倍の速度で演算可能な高速演算器埋め込まれてんだぞ、こっちは。
思考速度も反応速度も、五感も五体も持久力も、ヒトとは比べものにならないくらい強化改造が施されてるんだ、わたしたちは。
訓練だって、強くならなきゃ死ぬしかないんだから、死に物狂いでやってんだ。
死にたがりのわたしですら、訓練も作戦も真面目にやってる。
強化された奴隷や機械人形ですら、真面目に訓練して、必死に戦って、それでも死んでるってのに。
「なんの強化もされてない促成栽培児が、どんな扱い受けてんのか、わかって言ってんのか?つか、促成栽培児より役立たずだろ貴族とか。学校のお勉強がいくら出来たって、戦場じゃ役に立たないぞ?殺せんのか?敵とは言え、人間を」
「…それ、言ってやれ、あの馬鹿どもに」
促成栽培児はひと殺しに忌避感を抱かないよう教育される。機械化される奴隷にはひとを殺せる資質があるやつが選ばれたり、酷い場合は洗脳を受ける。
戦場に立ってひとが殺せませんなんて、お話にならないからだ。
あまりに、馬鹿な考え。
誰も、反論しなかったのか?マーティも?
なんで止めないんだと、目の前のマーティにすら腹が立って、わたしはマーティの胸ぐらを掴み上げた。
「わたしが言って聞くかよ。あんたが言え。戦争は遊びじゃない。殺し合いなんだって。あんた偉いんだろ?なんでそんな馬鹿止めてないんだよ。なんで誰も止めないんだよ!?とばっちり喰うのは、全部わたしたちだ!!」
戦争で上手く立ち回れるからって、それがなんの自慢になると言うんだろう。
上手く立ち回らなきゃ死ぬから、やらざるを得ないだけなのに。
「ひと殺しが上手くて、何が偉いって言うんだよ」
前線じゃ誰も、殺したくて殺してるやつなんていないのに。
戦争をしたいって言うあんたらが前線に立たなくて良いように、逆らえないわたしたちが、捨て駒にされてるって言うのに。
そんなにひと殺しがしたいなら、浮浪児なんか捕まえずに、最初から自分らで戦えば、わたしだって、フクロウたちだって…。
わたしたちは誰ひとり、戦争なんか望んでなかったのに。
「わたしたちが、どんな思いでっ…わたしたちがっ、っんで、前線にっ、立って、んかっ」
わかってんのか。
最後は怒りが勝り過ぎて、言葉にならなかった。
視界が、明滅する。
マーティに危害加えてんだ、当然か。
それでもぎりぎりと、握り締めた服を絞め上げる。
ふざけるな。わたしたちの人生を、返せ。
強過ぎる感情に押されて、ぼろぼろと涙があふれた。
思いっきり顔を歪めて、マーティを突き飛ばした。
椅子ごと飛ばされたマーティが、床に倒れ込む。
頭が痛くて、めまいがした。
噛み締めた唇が、ぬるりとぬめる。
階級持ちの兵への暴行。今度こそ、首が飛ぶかも知れない。
殺したきゃ殺せ。蛮行を止めろ。
肺でも圧迫されたか、げほげほと咳き込むマーティを、睨み付ける。
「…殺せよ」
押し殺した声が、低く響いた。
ようやく立ち直ったマーティが、顔を上げる。
「わたしが気に入らないんだろ?殺せよ。馬鹿やらないで、目障りなやつだけ排除すれば良いだけだろ」
有能な敵軍の兵より、無能な自軍の指揮官の方が、きっと多くの味方を殺す。
わたしへの敵愾心ごときで、戦場に立つ?
馬鹿言うな。
「殺せよ!!わたしがどんなにひと殺しが上手くたって、どうせ貴族に逆らえやしないんだ!わたしひとり殺して、戦争奴隷なんか貴族サマに敵いやしないんだって、優越感に浸れば良いだろ!?」
叫んだ衝撃が頭に響いて、立っていられなくなった。
どさりと、床に膝を突く。
揺れる視界、乱れる呼吸。
慌てたようにこちらへ駆け寄るマーティを、それでも睨み続けた。
「っざけんな。っざけんなよ!?あんたらは、どんだけ、わたしたちをおもちゃにするんだ!?わたしたちにだって、奴隷にだって、夢や、こころが、っ」
言い終える前に、視界が暗転した。
脱力した身体が、床に倒れ込む。
このまま、死んでしまえばいい。
何度思ったかわからない思考をまた繰り返して、わたしは意識を手放した。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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