閑話8 赤い魔女 2 (とある科学者視点)
未登場人物の視点です
この国には、最近魔女が出るらしい。
真っ赤な髪に、黒づくめの服を着て、人間離れした動きをする魔女。
何人もの要人が、魔女の餌食になったそうだ。
「間違いない。“あっち”の機械化兵だ」
解析しろと押し付けられた映像を見て、俺はそう答えた。
「ここ、こっちの攻撃を弾いてるだろ?防御装置だよ。かなり高性能だな。最近機械化された兵か…?」
「機械化兵?あちらの主流は今、戦闘用殺戮機械人形とやらじゃないのか?」
無知ゆえであろう疑問に、白けた目を向ける。
これが機械人形なら、向こうの技術はこちらより百年は進んでることになるがな。
「…会ったことのない相手を認識し、差別的に殺害する能力を持った機械人形が存在するとでも?」
壁際に控える機械人形を見遣る。あれは指先の毛細血管や網膜を個体識別に利用している。
あちらの機械人形がなにで個体識別しているかは不明だが、顔写真や名前のみで識別するのは不可能だろう。
相手国にこの国の重鎮の、毛細管や網膜、声紋などのデータが流出しているなら、話は別だが。
「どっちにしろ、今のこの国の技術じゃ、こいつに搭載された防御装置は作れない。他国の兵なのは間違いないだろうよ」
「…畜生国が、汚い方法を」
憎々しげに吐き捨てられた言葉み、内心で唾棄する。
国際法で、暗殺は禁止されていない。あの国は、頭を使っただけだ。
一兵に出し抜かれるような、まぬけが悪いのだ。
「用は済んだろ?行けよ」
ぞんざいに手を振って邪魔者を追い払う。
名前も知らない(始めに名乗っていたような気もするが、忘れた)相手は、少し顔をしかめつつ頷いた。
「ご協力感謝する。ソレの解析も、終わり次第報告してくれ」
映像と一緒に押し付けられた鉄色の箱を見下ろして頷くと、邪魔者はようやく出て行った。
改めて、じっくり映像を観察する。
機械化兵、それは間違いない。防御装置はもちろん、片手で大人の首を握り潰す握力、10 m近く飛び降りてもびくともしない丈夫な身体、車ですら追い付けない脚力。
どれひとつ取っても、生身の人間ではあり得ない。
「どこまで機械化されてるんだ?手足は間違いないはず…。いや、だが、機械義手がここまで滑らかに動くものか?」
衛星映像なのが惜しくて仕方ない。これが動くさまを、間近で観察したい、いや、
「解体して、すみずみまで調べ尽くしたい…」
魔女の殺戮履歴とやらに目をやる。魔女の出現報告が四回で、ひとりで殺したとされる人数が、総勢68人。うち、19人が国の要人、32人が兵士、13人が従軍の使用人で、残りが科学者。これをひと月足らずでやってのけたと言うのだから、魔女の呼び声も頷ける。
始めは前線付近の基地。そこからだんだんと国内に侵攻して来て、ついには国のど真ん中の基地まで襲っている。
ここ、俺のいる首都付属の基地まで来たって、おかしくないだろう。
「ここまで来い。で、捕まれ。俺が解体してやる」
手元の箱を見る。
敵国の重力低減装置らしいと言われた箱。
魔女は、一度も飛んで見せていない。はたして、飛べないのか、飛ばなかっただけなのか。
もし飛べるなら、それも楽しみだ。
俺は笑って、画面の中の魔女を撫でた。
「赤毛と言えば敵国の前線に、音速で移動する化け物もいるって話だったな。ベルヴィストクの、赤鬼だったか?最近見掛けないって噂もあったか…死んだのか?」
たしか、その赤毛も女だったはずだ。
女で、赤毛で、機械化兵。
「もしや、こいつだったりは…」
そうなら、ますます、面白い。
「早く来いよ、魔女」
俺は笑みを浮かべて、画面の中の魔女に声を掛けた。
その数日後、魔女が捕まったと言う話が届き、また数日後、再び魔女が捕まったと言う話が届いたが、どちらも偽物の模倣犯だった。
模倣犯が出始めたからか、めぼしい重鎮を殺せたからか、理由は定かでないが、その後魔女が現れることはなく、入れ替わりに、前線でベルヴィストクの赤鬼を見掛けたと言う噂が届いた。
次会う機会があるとしたら、“前線”がここまで来た時か。
魔女を間近で見る機会は、この国が亡びるまでお預けらしい。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
第四十五話を明日投稿予定です
aちゃん視点に戻ります
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