閑話7 赤い魔女 1 (―――視点)
某ストーk…こほん、敵国の青年視点
今更ですが
どうして閑話だけアラビア数字なんだろう…
謎だ←
殺人描写があります
苦手な方はご注意下さい
最近この国には、魔女が出るらしい。
どこからともなく現れる、赤毛、黒服の、人喰い魔女だそうだ。
魔女は突如現れ、人間離れした動きをし、国の要人を殺すのだと言う。
国内のレジスタンス、文官の反発、他国の間者、さまざまな憶測が飛び交っていると言う。
その話を聞いたとき、ぼくの頭に浮かんだのは、赤い髪の天使の顔だった。
敵国に仕える、機械化兵の少女。
戦況の傾きであの花畑に行けなくなって以来、顔も見れていない彼女なら、魔女のように忍び込んで国の要人を殺すことだって、可能なんじゃないかと思った。
だって、彼女は切り立った崖を生身で駆け下りられるのだから。
叶うなら、会いたい、と思う。
会ったら最後、殺されるのかも知れないけど。
ぼくは前線に行かせては貰えないし、いくら彼女でもこんな国の中央付近まで忍び込めはしないだろう。
そう、少し残念な気持ちになったぼくの予想に反して、予期せぬ再会は訪れた。
さっきから、どうも騒がしい。
静かなはずの研究室に怒号交じりの喧騒が届き、ぼくは顔を上げた。
何事だろうと、研究室の扉に近付く。
「…だ!!」
「しょ…ん、…た!!」
扉に阻まれて、何を言っているのか聞き取れないが、どうやら穏やかな雰囲気ではなさそうだ。
危ないだろうかと不安に思いつつ、薄く扉を開いた。
「赤い魔女だ!!」
とたん耳に飛び込んだ声に、危機感も忘れて廊下に飛び出す。
「将軍が、マルクス大将がやられた!!」
「研究塔に逃げた!追え!!」
外から響く怒号と、廊下を走る黒い影。
「こっちに!」
思わず、呼んでいた。
鮮やかな紅玉が、ぼくを映す。
逃げているはずなのに、なぜかのんきに首を傾げて見せた天使は、にっと笑ってぼくの研究室に飛び込んだ。
ぼくも彼女に続いて、扉を閉める。
騒がしい声と足音が、少しだけ遠ざかった。
走っていたはずなのに息も乱していない彼女が、ぼくの研究室に立っている。
真っ赤な髪と真っ白な肌を際立たせる、真っ黒なドレス。いつも見ていた軍服とは違うけれど、確かに彼女だった。
彼女の瞳が、ぼくを映している。
夢みたいだ。
呆然と彼女を見つめるぼくの前で、彼女はふっと微笑んだ。
「わたし、犯罪者だけど、捕まえなくて良いのか?」
幾度となく聞き惚れた声が、ぼくに向けて紡がれる。
人形のような見た目に反する粗雑な喋り方だが、彼女には不思議としっくり似合っていた。
犯罪者。その通りだ。彼女は何人もの重鎮を殺した、赤い魔女。
「…ぼくに、きみを捕まえる力はありませんから」
「捕まえるために誘導したんじゃないのか?」
捕まえるために誘導したんだと思ったなら、なんで彼女はぼくの声に従ったんだろう。
彼女はぼくを見上げて、首を傾げている。
遠くから見て目測してはいたけど、本当に小柄で華奢な子だ。
わかっていても、兵士には見えない。今みたいに女の子らしい服装をしていると、特に。
「捕まえられると思ったなら、なんで入ったの?」
「あんた、捕まえる気なさそうだったから」
確かに、捕まえる気なんてなかった。気付いたら、呼んでいたのだから。
でも、彼女はあの短い時間で、それに気付いたと言うのだろうか。
「きみは、」
呟いたとき、ノックの音が響いた。
「奥、箱があるから、隠れて」
彼女に奥の扉を差して示す。研究室の奥は仮眠室だが、半物置化している。
彼女は気配もなく、奥の扉へ消えた。
急かすように、再びノックが響く。
「シュルツ博士、いらっしゃいますか?」
「はい、いま出ます」
扉の前にいたのは、殺気立った警備兵だった。
追う者と追われる者の落差に、苦笑しそうになる。
「どうしました?さっきから、どうにも騒がしいですが」
「賊が、研究塔に忍び込みました。部屋を改めさせて頂いても?」
「…研究室をですか?ぼくの部屋に賊が入り込んだ、証拠でも?」
部屋の中には彼女がいる。そうでなくても、繊細な研究試料に触れられたくはないのに。
「いえ、それは…」
「だから何度も、監視カメラの設置を主張してるじゃないですか。予算がどうのと出し渋って、って、え?」
わたしの背後から伸びた手が、兵士の首を握り潰した。
華奢な、少女の手だ。
「庇ってくれてありがとう、お兄さん」
片手でひとりを殺めた天使が、にっこりと微笑む。
「そろそろ暗くなる頃だし、もうお家に帰らないと」
「…国に?」
訊ねた言葉は天使を驚かせたようだった。
「わたし、訛ってる?」
「いや、綺麗な発音だよ」
目を瞬いた天使に首を振って答える。
今更気付いたが、天使は流暢にこちらの言葉を喋っていた。
「でもきみ、機械化兵だろ?あっちの」
「なんか、そう思うような行動取った?」
「いや、ぼくが顔を知ってただけ」
天使は濡れた手をぼくの白衣で拭ってから、困ったように頭を掻いた。
「うーん、それ、知られるとあんまり嬉しくないんだけどな…」
「どうして?」
「トカゲのしっぽになる、わたしが」
つまり、彼女の独断扱いで生贄にされる、と言うことだろうか。
「口封じ、して良い?」
「え?ああ、うん」
彼女を危険に晒すくらいなら、ぼくは死のう。
迷いもせずに頷けば、天使はおかしそうに噴き出した。
「なにそれ。あっさり頷いて良い質問じゃないだろ」
「いや、うん。そうだけど」
「黙ってて、って言ったら、黙っててくれる?」
「え?」
殺さない、のだろうか。
「好きで殺してるんじゃないよ。必要がないなら、殺さない。お兄さんは、庇ってくれたしね」
天使が笑って言う。
確かに、魔女の被害者は国の要人ばかりだった。兵や従軍者の被害もあるにはあるが、あえて殺したと思える人数じゃない。
彼女の目撃者がいるのが、良い例だろう。本当にばれたくないなら、目撃者ひとり残さず殺した方が良いのだろうから。
でも、彼女の身分を知るぼくを生かすのは、余りに危険じゃないだろうか。
「この国は、科学者を拷問に掛けたりしないだろ?あんたが黙っていさえすれば、わたしはしっぽにならなくて済む」
「きみが困るなら、喋る気はない、けど」
「そっか、ありがと、約束な」
にっと笑って彼女はぼくに手を伸ばすと、
「じゃあ、おやすみ」
痛みはなく、ただ視界が傾いで、ぼくの意識は途切れた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
彼が死んだか否かは…
aちゃんがドレスを着ているのには
一回目の時に着せられた服が敵国で主流な型だったので
国籍や身分をごまかすために利用したと言う裏設定があります
ドレスが気に入ったとかではないです
別の方の視点に移った閑話8を明日18時に投稿予定です
短めのお話になりますがお読み頂けると嬉しいです




