第四十四話 手の鳴る方へ 3
さて、もう何人、殺しただろう。
四度目の暗殺任務を無事終えたわたしに、わたしの死を望む派閥は業を煮やしたらしい。
お馴染みになったマーティの仕事部屋で、執務机に着いた部屋の主を見下ろす。
「そんなに握ると、中身まで割れるぞ?」
回を重ねるごとに苛立ちを募らせていたマーティが、今日差し出したデータディスクは、マーティの怒りを受けてひびを入れられていた。辛うじてまだケースだけで済んでいるが、このままマーティに持たせていたらそのうち中身がご臨終するだろう。
「割れちまえ、こんなもん」
「それ、怒られんのわたしだからな」
割られる前に、哀れなディスクを救出した。
中身がなんであれ、ディスクに罪はない。
「で、また暗殺?」
「…違う」
わたしの問いへの返答は、地を這うようだった。
「へぇ…」
じゃあなんだろうとディスクを見下ろすが、むろんディスクを見てもわかる情報はない。
マーティへと、目を戻した。
「何をしろって?」
「遊撃」
「ひとりで?」
「ああ」
いち奴隷に遊撃させるとは、さて、いったいどんな作戦なのか。
取り敢えず、現時点で、言えることは、
「馬鹿だろ」
「いっそ、殺すかー」
おい、陸軍少佐。
「お前さ、なんだかんだ暗殺成功させてるだろー?そのノリで、さくっと、上のやつらをさー」
「まさか、アンタに死ねって言われるとは、思ってなかったよ」
わさわさと髪を掻き混ぜて、鼻で笑う。
「上のやつらを攻撃?出来るわけないだろ。頭が吹っ飛ぶわ」
なんのための、プロテクトだと思ってる。
白けたわたしの視線に、マーティは冷静さを取り戻したらしい。
ぱか、ぱく、と口を一度開閉してから、頭を抱えて机に突っ伏した。
「済まん…」
くぐもった声が、謝罪を告げる。
「いや?あんたが国家転覆狙うのは勝手だけど、戦争奴隷は巻き込むなよな。あんたにも逆らえないが、他の兵にだって逆らえないんだ」
相反する命令を与えられた場合、たぶん、死ぬだろう。
黒を生かすより白もろとも殺すことを選ぶような国なんだから。
「ああ。気の迷いだった。忘れてくれ」
「なら、良いけどな」
マーティは、平民出の兵や戦争奴隷から慕われている。実際に反乱でも企てたなら、付いて来る兵もいるだろう。
それこそ、命がけで。
「遊撃ってことは、わたし以外にも兵はいるんだろ?なら、そう酔狂な案でもないさ。そんなことすんならどっかの隊に組み込めと、思わなくもないってだけで」
「ああ。数隊が同行する。お前は、総指揮の指示に従いつつ自己判断で動け、と言う話らしい」
「はあ」
それはまた、殺したいのか生かしたいのかよくわからん指示だな。
殺したいなら自己判断なんかさせず、敵陣に突っ込ませれば良い話なのに。
「…上でも、意見が割れてんだよ」
「うん?」
マーティがようやく顔を上げた。
「a、お前が第18小隊を抜けてから、明らかに戦績が落ちてんだよ」
「第18小隊のか?」
あの、バカどもなにやってんだ。
顔をしかめたわたしに、マーティが首を振って見せる。
「いーや?第18小隊だけじゃない、つーか、第18小隊は頑張ってる方だぞー。あー、それとだ、第27小隊もなかなか頑張ってんぞー?下がってんのは、全体の戦績だ。お前さー、戦線が傾いたときとか、明らかな作戦ミスのときは、他の隊にも指示飛ばしてただろー?あれが、かーなり戦績に影響してたんだってよー。馬鹿な上のフォローを、お前がやってたんだ。それがなくなったからー、上の馬鹿さがそのまま戦績に影響してんのなー」
「別に、わたしは大したことしてないけど」
「その、些細なことが出来るやつが、いねーんだよ。戦線にいんのは機械人形と促成栽培児ばっかで、たまに機械化奴隷がいても戦歴浅いやつらだからな。ノータリンと経験不足者しかいねーんだ」
戦争奴隷を、使い棄ててたツケか。上の兵は戦場に立ったことのない頭でっかちで、戦場の兵は柔軟性のない機械。机上の空論じゃ勝てない、ってことか。
「そこで、一部のまだまともなやつが、お前を殺すのは軍にとって損失だって主張し始めてなー、お前を殺したい一派が、あんまり好き勝手出来なくなり始めてんだよ」
それで、この中途半端な指示になったのか。
わさわさと、頭を掻いて呟く。
「わたしがいたって、なんも得なんかないと思うけどな」
「馬鹿言うなー。データで出てんだよー。お前が指揮官としていた場合といない場合の戦績差ってさー、わざわざまとめたやつがいんの。オレも目を疑ったぜー?お前がいると勝率九割超えんのに、いない場合は六割切って、ほぼ五分だ。お前なしじゃこの国は負けると、本気で思ったぜー?」
「そんなに負けてたのか」
追い風だと、思ってたんだけど。
「お前がいると大抵勝ってるからなー。そう感じるのも無理はねーよ。とにかく、お前がこの国に必要だってのは、オレも賛成だ。だから、頼む」
生きて戻ってくれ。
「…データ、取り込んで来るよ」
マーティが真剣な顔で発した懇願に、わたしは何も答えずそう言って部屋を出た。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
このあと、二話が閑話になります
aちゃんの暗殺を、される側から見たお話です
読まなくても本筋にはたぶん影響ありません
閑話で日数稼ぎも嫌なので
ここから三話だけ日刊します
そこから日刊を続けられるかは
作者の頑張り次第です(`・ω・´)キリ
明日18時に閑話7を投稿しますので
お読み頂けると嬉しいです




