第五話 機械の翼
え、投稿話間違ってない?と思われそうな話のぶっ飛びを見せていますが
間違っていないです
今話は流血もありませんので
安心してお読み下さいませ
機械人形が発明されてから戦闘用殺戮機械人形が実用化を迎える前の短い期間。それがわたしたち機械化戦争奴隷の最盛期だった。
わざわざ大層な人工知能と動力炉を開発せずとも、自律で動いて闘う、便利な道具。
多くの機械技師が、戦争奴隷を改造して強力な人型殺戮兵器を造り出した。現在の戦闘用殺戮機械人形の発展は、わたしたちで行われた実験の恩恵で成り立っていると言っても過言ではないと思う。
Jから始まる個体識別番号を持つ彼らは、戦争奴隷を進んで機械化したとある機械技師の、偉大なる作品群たちだ。
ちょっとした強化や装甲化から、最早脳以外を機械に変えられたものまでさまざま、合計は九千人を超える。
多くの助手の力を借りたとは言え、高々十年にも満たない期間でその人数を改造した彼は、疑うべくもなく天才で狂人なのだろう。機械人形に大局を取られた今もなお、彼だけはひとの改造に拘っているらしいし。
わたしと同じく第二次ベルヴィストク会戦時に戦線デビューを迎えた識別番号J-2960番、通称フクロウも、かの機械技師の手で機械化された戦争奴隷のひとりだ。
同期で、機械化人間で、その上同じ浮浪児出身。互いを認識するには、十分過ぎる符合だった。
…わたしは目立つ存在らしいから、わたしは知らなくても一方的に知られている相手もかなりいるみたいだけど。
「よぉ」
たこ技師以外で久々に掛けられた肉声に、振り向いて目を細めた。
「フクロウか。なんだ、フクロウの隊も同じ作戦班か?」
「みたいだな。にしても、フクロウなんて呼ぶ相手も、かなり減ったなぁ」
ひらひらと手を振ったフクロウが、隣に並ぶ。
2960番だからフクロウ。呼び名なんて、そんなもんだ。お互いそれなりに育ってから奴隷になったが、その時は名前すら持ってなかった。
チビとかハゲとかキツネ目とか、呼び名なんてぱっと見で適当に呼ばれるだけだ。
「減ったって、また増えるだろ?」
「機械化奴隷は増えなくなるさ。他の戦争奴隷なんか増えても、直ぐ死んじまう」
「…違いない」
肩を竦めたわたしにフクロウは苦笑を返した。
「工場生産の奴らは渾名なんか呼ばないし、奴隷以外は俺たちのことなんかひとと思ってないだろ?あいつらにとっちゃJ-2960番、それが俺なんだよ」
フクロウがひょいと手を伸ばし、ぽんぽんとわたしの頭を撫でる。
「その点お前は良いよなぁ、a。誰が呼んでもお前の名前はaなんだもんなぁ」
戦争奴隷の年齢なんてあってないようなものなのに、フクロウはわたしより年上だと言い張って、こうして兄貴風を吹かせる。
わたしもフクロウも家族なんて持たない人生だ。だからお互い、気軽に撫で撫でられる関係の相手なんて持たずに生きて来た。共に明日をも知れぬ身だから、馴れ合う気なんてないけれど、じゃれ合うくらいなら許されても良いだろう。
そう言う幾人かの‘兄貴分’を除けば、誰にも撫でられることのない頭を、大人しく撫でられながら笑う。
「接頭語だよ?番号で呼ばれるのと変わらないさ」
「まぁな」
「それなりに気に入ってはいるけどね」
わたしの個体識別番号はない。代わりのようにaと呼ばれる。
10のマイナス18乗を意味する接頭語。わたしに目を付け改造を施した狂人が付けた個体名だ。
音だけ聞けば名前にも聞こえるが、結局は記号なんだから番号と大した差はない。
それでもまあ、名前として気に入ってるし文句もないが。
「俺も、フクロウって呼ばれるのは気に入ってるさ。折角翼を貰ったわけだからな」
語るフクロウの背に翼はない。
彼が翼と呼ぶのは、身体に埋め込まれた重力低減装置だ。
彼と彼の前に改造された数人をモルモットに実用化されたその装置は、機械化奴隷最盛期で五指に入る画期的な発明で、改良品は以降に造られた機械人形や機械化奴隷の大半に搭載されている。
プロペラも翼もなしに空を翔ることを可能にした、夢のような発明品だ。
元々の身体能力や経験の賜物か、搭載されたプログラムの恩恵か、フクロウは上手くこの装置を使いこなしている。
彼が生き延びているのは間違いなくこの装置のお陰だろう。
「だな。良いなぁ飛翔能力」
「ハッターは、飛行には拘らないよな」
ハッターってのは、わたしの名付け親の渾名だ。
研究狂いの帽子屋。明らかに中傷だ。
始めは才能を妬んだどっかの僻み野郎が付けたんだろうが、本人は他人からの呼称なんざ気にしないし、言い得て妙だと広まった。
わたしがそう呼ぶと、名付け親の名前くらいちゃんと呼びなさいと苦言を呈して来るもんだから、わたしは使ってない渾名だけど。
他の奴にはなんも言わないのに、わたしにだけ文句を付けるんだから、謎過ぎる。取り敢えず狂ってんのは確かだ。
「飛行機能を付加した個体も作ってるけどね。積極的に飛ばそうとは思ってないみたいだな」
少なくとも、わたしに翼を授ける気は更々ないみたいだ。
翼が欲しいと言ってみたこともあるのだが、取り付く島もなく却下された。
何やら理由を聞かされた気がするが、なんだったか。
まあ、忘れてるんだから大した理由じゃないんだろうな。
そう思って記憶を探る努力もしなかったことを直後に後悔することになるなんて、この時のわたしは思ってもいなかった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
え、ブラッシュアップは?
と思った方いらっしゃったら申し訳ありません
名付け親とaちゃんの絡みは今の所予定してないです
不穏な幕引きしてますが
次話も読んで頂けると嬉しいです