第四十三話 手の鳴る方へ 2
攻撃しかけた手を引っ込め、心配顔のミミズクと見つめ合う。
なんで、ミミズクがわたしを抱き上げてるんだろう。
首を傾げて、問い掛ける。
「なんだ突然。どうかしたのか?」
「aコソ、ドウシタノデスカ?コノヨウナ所ニウズクマッテ、呼ビ掛ケテモ、気付キマセンデシタ。ドコカ具合デモ悪イノデスカ?」
「あー、ごめん、ちょっと考え込んでただけだ。大丈夫だから、下ろせ」
ミミズクの腕を叩いて、下ろさせる。
ミミズクと会うのは、第27小隊との合同活動解消以来か。
正直なところ、また会えるとは思ってなかった。
自分の行動に突っ込まれる前に、話題を振る。
たとえ相手がこころなき機械だったとしても、誰かとの会話は気を紛らわすには打ってつけだ。
「ミミズクは、変わりないか?」
「…隊員ニハ、欠ケガ。アナタノヨウニ動クノハ、ヤハリ、難シイデス。欠員ヲ出サナイアナタノ、凄サガワカリマス」
「殺し合ってんだから、こっちだって打撃を受けるのは当然だろ。わたしが欠員を出さなかったのは運が良かっただけだし、今じゃ指揮官に相応しくないって除隊されてる」
ミミズクはどうにも、わたしを過大評価しているきらいがある。
わたしはそんな、大した人間じゃないのに。
偶然生き残ってるだけの、機械くずれだ。
「マーティノ補佐ヲシテイルト、聞キマシタ。無茶ナ任務ヲ、命ジラレタラシイト、第18小隊ノ隊員タチガ、騒イデイマシタヨ」
「…アイツら」
学習機能に、重篤な欠陥でも持ってるんじゃないだろうな。
呆れて髪を掻き上げたわたしを、ミミズクが見下ろした。両手を掴まれ、ばんざいさせられる。
「任務ハ、終ワッタノデスカ?怪我ハ?」
手を引かれ、くるりと回された。
どうやら、怪我の確認をされているようだ。
「前の仕事なら一昨日終わらせたよ。怪我はない」
「モウ、次ノ任務ガ?」
「一日休んだからな」
昨日たこのメンテナンスも受けたし、体調は万全だ。
わたしから手を離したミミズクが、いまだ心配そうな顔で口を開く。
「マタ、無理ナ任務ヲ?」
「さあ?さっき伝えられたばっかだから、詳しくは知らないけど」
十中十九、無茶な要求だろうと思いつつ、笑ってはぐらかす。
今度はどこで、何を殺せと言われるのか。
「アマリ、無理ハ…」
「いや、命令されたら、断れないし。アンタも一緒だろ?」
機械化奴隷も戦闘用殺戮機械人形も、逆らうなら脅威でしかない。
自己保身精神猛々しいこの国の重鎮たちが、自己の安全のための方策を練っていない、わけがない。
自国の兵相手であろうと警戒心はばっちり。見ず知らずのガキに気を許して殺されたどっかのおっさんとは、違うのである。
「ソレデモ、」
「わたしは、大丈夫だから」
自分でも、何が、と訊きたくなるようなごまかしを、それでも笑って口にする。
人間は利己的で、嘘吐きな生き物だ。
「オマエは、オマエ自身と自分の隊のことを心配してろよ。ほら、今日の予定はなんだ?こんな所で、時間潰してて良いのか?」
「今日ハ、訓練ヲ…」
「そうか。頑張れよ。じゃあ、」
言いかけて、ミミズクの手を取った。
左肘の、関節、か?
「左の肘関節、傷んでるぞ?訓練後にでも、たこに替えて貰え」
ミミズクが活動停止したみたいに、固まってわたしを見た。
「ミミズク?どうした?」
「アナタハ…」
泣くわけない機械人形なのに、泣きそうに見えた。
「アナタハ、変ワリマセンネ…」
「は?なんの、」
「イエ。忠告、アリガトウゴザイマス。アナタモ、自分ヲ大事ニシテ下サイ」
「ん?あー、じゃあな。オマエの無事な姿が見れて、良かったよ」
ミミズクの肩を叩いて、擦れ違う。
「ドウカ、オ元気デ」
立ち去るわたしの背を見送るミミズクは、気付いてそう言ったのだろうか。
自分を大事にしろと言ったミミズクの言葉に、わたしが頷かなかったことに。
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