表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/76

第四十二話 手の鳴る方へ 1

 

 

 

 執務机に座ったマーティが、重苦しい空気を漂わせている。さすがは国の重鎮の令息と言うべきか、そうしてまともな顔をしていると、偉そうな執務机も似合って見えた。

 

 相対するわたしは、こんな部屋に似合わないみすぼらしい奴隷だけど。

 

 「…済まん」

 

 項垂れたマーティが嫌々仕方なくと言った体でデータディスクを差し出す。

 

 いつかの焼き直しのような状況になったのは、暗殺仕事から帰還した次の日に、マーティから数日休めと言われた、さらに次の日の朝だった。

 

 データディスクを受け取って、見下ろす。もちろん、見下ろしてもなんの情報も得られない。

 

 「また暗殺?それとも、ひとりで敵の本拠地でも潰して来いって?」

 

 数日と言うには明らかに短い期間と、マーティの態度から察して苦笑する。

 

 つまりマーティでも逆らえない上の人間が、わたしの排除に動いてるってことだろう。

 

 「…今回は、また暗殺、みたいだな」

 「わたしは職業暗殺者じゃないんだけどな。勘違いされてないか?」

 

 髪を掻き上げ、笑って茶化す。

 呆れてるだけで、怒ってはいない。

 

 下手に暗殺なんか横行させて、ばれたときに非難されるのはこの国だと思うんだけど、良いんだろうか。まともに戦って殺すならともかく、暗殺なんて後ろ暗いやり方は、他国に弱みを作ってやってるようなもんじゃないんだろうか。

 

 「ばれて四面楚歌にされても知らないぞ、わたしは」

 

 今は一対一の戦いだからこちらが優勢に立ててるけど、もしも周辺諸国が全て敵に回るなら、圧倒的不利に追い込まれるはずだ。

 わたしひとりのために自国を危険に晒すなんて、馬鹿の極みな気がするんだけど。

 

 そこでマーティの苦い顔に、気付いて、ああ、と呟く。

 

 「ばれたら、そんなガキ知らんで済ませりゃ良いのか」

 

 マーティは無言だったが、苦々しい表情が、全てを物語っていた。

 

 命令して、やらせて置きながら、露見すれば、知らぬ顔。

 腐れ外道が好みそうな手だ。

 

 皮肉を込めて笑うと、データディスクを振った。

 

 「取り込んで来る。せいぜいばれないように、努力するさ」

 

 機械人形は第二世代が台頭し、最近では早くも第三世代が開発されたと言う話まで聞く。初期作でも機械人形ならまだしも、空も飛べない機械化奴隷なんてきっともう、前時代と言われる代物だろう。

 お荷物みたいに作戦に加わるより、成功したら儲けもんみたいな下らないをさせられてるのが、分相応ってやつなのかも知れない。

 

 部屋を出る直前にふと、馬鹿な言葉が口を突いた。

 

 「…わたしが死んでも、伝えないでくれ」

 

 自分の言葉に、自分で目を見開く。

 

 誰に何を、伝えるなって言うんだろう。

 誰が、わたしの不在を気にするって言うんだろう。

 誰も、わたしの死になんか構いやしないだろうに。

 

 「(アト)、」

 「忘れろ。なんでもない」

 「aっ、やっぱり、」

 「忘れろ!」

 

 机から立ち上がったマーティを、振り向いて怒鳴る。

 

 馬鹿なことを言った自分に、激昂していた。

 

 睨み付けるようにマーティを見れば、わたしより年上なはずの男がわたしの視線にたじろいだ。

 

 叩きつける口調で吐く。

 

 「わたしが馬鹿だった!一時いっとき指揮官やってたからって、機械人形が戦争奴隷の生死なんざ気にするわけがない。ヤツらこころなんかないんだからな。気の迷いだ。忘れてくれ!」

 「お前の死を気にするのは、」

 「わたしの死を気にするやつなんかいないだろ。喜ぶやつは、いるみたいだけど」

 「そんなこと、」

 「もう行く、じゃあな」

 

 マーティの追求も自分の馬鹿な言葉も、振り払って逃げ出す。

 

 馬鹿じゃないか?愚かにもほどがある。

 なにを、考えてるんだ。

 

 足取り荒くマーティの仕事部屋から逃げ出して、十分離れた所で、唐突に立ち止まった。

 

 「あああぁあ!!」

 

 両手を髪に突っ込んで、しゃがみ込む。

 

 自滅を禁止するプロテクトさえなければ、今すぐ脳みそぶちまけて自殺してたのに。

 

 誰の悲しみを予想した?

 いや、違うだろ?

 誰の悲しみを、期待した?

 

 愚かしい。浅ましい。おぞましい。

 

 自己嫌悪に唇を噛み締めれば、ぬるりと血の味が滲んだ。

 

 深く息を吐いて、荒れ狂うこころをなだめようとした。

 

 「…a?」

 

 忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。

 

 違う。あいつの心配なんて、あいつの興味なんて、期待してない。

 馬鹿みたいにわたしを気に掛けてた機械人形が、気になっただけ。

 

 「a?」

 

 馬鹿だな。機械人形が、わたしなんか気にするはずないだろ。

 きっともう、新しい指揮官に夢中だ。

 

 そう。わたしが馬鹿だった。

 機械人形を気にするなんて。

 

 そうだ、機械人形が、気に、

 

 「a?」

 「うぁ!?…っと、ぁ?GN-003329番(ミ ミ ズ ク)?」

 

 しゃがんでいた身体を持ち上げられて、反射的に喉に抜き手を当てかけた相手を見返せば、わたしの両脇に手を差し込んで持ち上げたミミズクが、心配そうに顔を覗き込んでいた。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ