第四十一話 神さまのきまぐれ
「中将、少将、参謀に、参謀補佐ねー…」
報告書に目を落としたマーティが、呟いて溜め息を吐いた。
「なんだよ」
「いやー?取り敢えず、無事で良かったなーと。そんな要人殺しまくってー、よーくも無事で帰れたよ」
「馬鹿みたいに集まってたからな。あの国、危機意識薄過ぎなんじゃないか」
あれだけ軍幹部が集まってたってのに、護衛のひとりもいなかった。軍施設内部だったからかも知れないけど、なら不審者を入れるなって話だ。
わたしが仕向けた部分もあるにしろ、何よりおっさんが馬鹿だった。そうとしか思えない状況だった。
もともとは忍び込んで遠くから各個に狙撃する予定だったものを、ひと部屋で一網打尽とか、トリモチか。確実に、この国では想定外の状況だっただろう。
「バーナー中将は実力ありきで中将職に就いてたから、自信があったんだろーよ。一般兵だったら筋肉量でばれたかも知れないけど、お前の場合はこれだしなー」
マーティがわたしの腕を掴んで持ち上げた。
筋肉じゃなく、機械骨格で動く腕。わたしの元の腕と比べるなら明らかに太いが、男と考えれば普通、より、細いくらいだろうか。鍛え上げられた兵士の腕と比べるなら、遥かに細いだろう。
「男だと思わせてたんだろ?こんなひょろい腕のガキ相手にして、警戒しろってのに無理があるだろー。わざわざ敵わない振りまでしてさー」
「だからって、一撃避けただけであそこまで油断するか?攻撃こそ手加減したけど、不意打ちで捕まえようとしたときとか、余裕で避けてたんだぜ?」
「内部情報ぺらぺら喋ったのが大きいんじゃないかー?重力低減装置の情報は、あまり手に入ってない状況だっただろうからなー。こっちに取っちゃクズ情報でも、あっちからしてみれば重要機密に思えた可能性はあるだろー」
それは確かに、あるのかも知れない。国際法で戦闘機の使用が禁じられている現状、制空権は完璧にこちらが握っている。エンジンなしで空を飛べる装置は、向こうにとって喉から手が出るほど欲しいものなんだろう。
「まー?重力低減装置が向こうに渡ったって、解体して原理が理解出来るとも思えないけどなー」
「そうなのか?」
「だと思うぞー?あれ、あいつですら構造理解すんのに三日掛かったとか言ってたからなー。あいつが、動く現物手にして、三日だぜー?再現含む期間じゃなくて、どうしてこれで飛べるのか理解すんのに、三日。あいつでそれならただの科学者が、動かせもしない機械だけ入手して解析しようとしたら、実用化まで何ヶ月掛かるか」
国の兵器についてぺらぺら喋ったわりに、特に怒られなかったのはその所為か。よほど自国の技術に自信があるようだ。
そもそも帰還したことに驚いてたから、そっちに気を取られてただけかも知れないけど。
わたしだってこんなに早期解決するなんざ思ってなかったけど、あの苦虫噛み潰した顔から判断するに、命令にかこつけて殺そうとしてたんだろうな。余計なことに知恵絞って、なんともご苦労なことだ。
死ね、その一言で、わたしなんか簡単に殺せるはずなのに。
「まー、数日は休めよ。疲れただろー?」
「いや、数時間は寝たし、もう疲れちゃいないけど」
この身体は怪我の治りも早ければ、必要な休息時間も短い。
今回のように怪我ひとつない作戦なら、片手で数えられる睡眠時間で回復する。
ぶっ倒れると数日寝込むどっかの狂人とは、違うのだ。
「いや、当分は大人しく訓練しといてくれよー。オレが、馬鹿ども黙らせる間だけで良いからさー」
「馬鹿ども?」
「あー、うん?いや、気にすんな」
…理解した。
髪に指を突っ込んで、呟く。
「そっくりそのまま、返すよマーティ。わたしがどんな扱いを受けてても、あんたは気にすんなよ」
「いや、気になるぜー?あー、言っとくけどこれー、お前のためじゃないからなー?オレのー、個人的事情により、aを殺したくねーの」
「なんだよそれ。とにかく、余計なことしなくて良いよ。わたしが無茶振りにもお応え出来る、優秀な戦争奴隷であることは、証明されただろ」
戦争奴隷として受けるべき命令なら、どんな命令でも受ける、失敗したら死ぬだけだと、いつもの言い分を繰り返した。
マーティが眉を寄せて、がしがしと頭を掻く。
「だとしても、だ。今回のも含めて、あまりに無茶が過ぎる命令は、こっちの利益にだってならねーし、握り潰すに限るだろー。あの馬鹿ども、aがどんだけ役に立つかってのを理解してねーんだよ」
「…役立つから生かしたいってんなら、まあ、そりゃ、」
悪い気は、しないけど。
でも、と髪に突っ込んだ手を握る。
「でもさ、やっぱり、死ぬなら死ぬでそれをどうこうしようとは思わないな。そんな風に殺されそうになってんのだって、もとはわたしの撒いた種なんだろうし」
八つ当たりでも、とばっちりでも、何かしらわたしが気に食わなくなければしないだろう。わたしに落ち度がなくて殺されるんだとしても、わたしの運が悪かったって話になるだけのことだし。
未来ある女子供は守るべきだけど、わたしに関しては頑張って生かすべき存在でもないと思う。
「お前、なんでそう、生きる意志が希薄かねー」
「…軍に捕まった時点で、死んでたようなもんだからな」
わたしは、死ぬ気で、目を閉じたはずだったんだ。
どっかの狂人が余計なことした所為で、生き長らえさせられてるけど。
生きたがってないわたしが生き長らえて、生きたがってるやつらばかり死んで行くなんて、皮肉なもんだ。
神さまがもし本当にいるなら、きっとこの上なくひねくれた性悪に違いない。
あるいはとんでもない選り好み野郎で、わたしみたいな人間は要らないとひたすら拒絶しているのか。
それとも単なるきまぐれ女で、適当に殺して生かしてしているのかも知れない。
髪を握り締めてうつむいたわたしを、手を伸ばしたマーティが撫でた。
「とにかく、もうちょっと、オレに時間をくれよ。…このままなんて、許すはずがないんだ」
「許すはずがないって、誰が、なにを?」
「いや、ごめん、オレの事情ー」
マーティは笑ってごまかすと、取り敢えず今日は訓練なとわたしを追い遣った。
わけがわからないまま追い遣られて、でも反論も出来なくて、わたしはマーティに背を向けた。
わたしが生きてるのが神さまの嫌がらせにしろきまぐれにしろ、変わらない事実と言うものはある。
奴隷のわたしは、本来ならマーティに逆らえやしないんだ。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
途中で「別に、あんたのためじゃないんだからね!」と言う台詞が
某釘○さまボイスで再生された方と
「べ、別に、お前のためじゃないからな、俺のためだ」と言う台詞が
某杉○さまボイスで再生された方とは
なんだか仲良く出来そうな気がします(笑)
冗談はさておき
次回更新から三日に一度→二日に一度に変更したいと思います
三日に一度だと話がなかなか進まないので…
ストックが貯められれば日刊にするのですが
済みません…(‥;)
続きも読んで頂けると嬉しいです




