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第三十八話 丘の上のこぼく 4

 

 

 

 白衣の男の口添えで、重力低減装置はなんらかの重要な装置であることが認められ、結果わたしはぎらぎらした目の白衣男に詰め寄られることになった。

 

 「だから、詳しいことは知らないって。知りたきゃ“あっち”の研究者でも拉致して訊けよ」

 「グラビトンもアンチグラビトンも存在を示唆されつつ、発見はされていないはずだったんだ。

 だと言うのに君の説明を信じるなら、この装置はアンチグラビトンを発生させて重力を低減させているとしか思えない。

 この国じゃ存在すら証明出来ていない物質を、こんなに小さな装置で発生させられるなんて…。

 信じられない。

 ああ、今すぐにでもこれの開発者に会って、詳しく話を聞きたい。

 なんでボクはこの国の人間なんだ。

 あああ、ねぇキミ、本当に動かし方を知らないのかい?

 実は知ってて、ボクがこうして悶え苦しむ様を嘲ってるんじゃないかい?

 ほら、ねぇ、黙ってたことは怒らないから、今すぐ発動させて見せてよ。ねぇねぇねぇねぇ」


 身を乗り出して来る男から、露骨に身を逃す。


 「知らないってば。使えるんならこんなとこにいないで、今頃もっと平和で豊かな国に亡命してたさ。そんなに稼働してるとこが見たいなら、“あっち”の機械人形生け捕りにでもすれば良いだろ。まあ、無理だろうけど」

 

 何か特殊な命令でもない限り、捕虜になって逃げようがないと判断した瞬間、機械人形は自己破壊プログラムが発動して自滅するはずだから。基幹部が崩壊すると言う噂だし、まず間違いなく修復不可能になるだろう。ご丁寧なことだ。

 

 その後しばらくわたしは白衣男に質問攻めされ続けたが、偽浮浪者男が白衣男をどうにか落ち着かせたお陰で、ようやく解放された。

 

 「…肉、増量な」

 「…悪かった」

 

 うんざりした顔で偽浮浪者男に要求すると、明らかに罪悪感に打ちのめされた顔で謝られた。

 

 「肉?」

 

 と言うか、なんでまだいんのかね、おっさん。

 暇なのか、中将のくせに。

 

 考え込んだまま居座り続けていたおっs、バーナーが、わたしと男の会話を聞きとがめて呟いた。

 

 …なんだろう。嫌な予感しかしない。

 

 「あ、えっと、話の礼に夕食を奢る約束を…」

 「儂が連れて行、」

 「断る!」

 

 何が楽しくて、これから殺そうって相手と楽しく食事しなきゃいけないのか。

 しかも、陸軍中将どのの晩餐に、今の汚れきった格好でご相伴出来ると思えない。汚れ含めて、変装なんだ。身体を洗えとでも言われたら困る。

 

 皆まで言わせず、きっぱりはっきり誤解の余地なく拒否すれば、途端青くなった偽浮浪者男に飛び掛られた。

 

 「お前はさっきからあ!!」

 「何が楽しくておっさんと食事しなきゃいけないんだよ。嫌がらせか。金取るぞ」

 

 さっと避けて反論する。

 

 「お前は知らないかも知れないがこの方は陸軍中将で、口を聞くのも名誉な方なんだぞ?そんな方が食事に誘って下さっているのに、断るとか、軍関係者が聞いたら血の涙流して怒り狂うぞばかあ!!」

 「知るか。おっさんと堅苦しい食事とか、死んでもごめんだわ」

 「良い肉食わせてやるぞ?」

 

 全く同じ台詞を、浮浪児時代に脂ぎったペド野郎から言われたわ。

 別パターンで美味い菓子とか、玩具をやるとかも言われたこともあるわ。

 無論大人しく付いて行く振りして、美味いとこだけ享受させて貰った。ガキだからって物で簡単に操れると思うな。

 

 「良い肉に興味ねぇよ。タレまみれのくず肉を腹一杯喰いたいんだ」

 

 つまり、ジャンクフード。高級店の高級肉には興味ない。安さが取り柄の硬い肉を、味付けで誤魔化して山ほど食べるのが良いんだ。

 

 「お前…貧民根性溢れ過ぎだろ…」

 「悪いか。…高い肉とか、胃もたれするし」

 「ああ…」

 

 悪いもんに胃が慣れちまってんだなと、偽浮浪者がわたしの頭を撫でようと、

 

 「触んな」

 

 したのを避ける。

 

 「かっわいくねぇ」

 「そりゃどーも。野良犬じゃねぇんだ。気安く触んな」

 

 鼻を鳴らしてしっしと手を振る。

 

 「!」

 

 隙を突いて背後から伸びた手を、横跳びに避けた。

 

 「ちっ…良い動きだ」

 「何すんだおっさん、変態か」

 

 何を思ったかわたしを捕まえようとしたバーナーを、胡乱な目で睨む。

 

 「引きずって行こうかと」

 「やめろ変態」

 「だからバーナー中将には失礼なことすんなって」

 「変態を変態と言って何が悪い。おっさん、おれは安くないんだ。一緒に食事したけりゃ100フラン払え」

 「ん?100フランで良いのか?」

 「良いわけあるかくたばれ金持ち」

 

 あほみたいに吹っ掛けたのにあっさり払いそうな口振りで返されて歯を剥く。

 100フランとか浮浪児が稼ごうとしたらどんだけ苦労すると思ってやがる。

 

 「金持ち軍人と食事なんか死んでもごめんだ馬鹿野郎。もう良い。帰る」

 「待て待て」

 

 吐き捨てて逃げようとすれば、偽浮浪者に宥められた。

 

 「バーナー中将、あくまでお礼ですので、嫌がっていること強制するわけには行きません。彼には私が責任を持って美味しい夕食をしこたまご馳走しますから」

 

 …話がわかるな。偽浮浪者。

 

 わたしが偽浮浪者を見直していると、バーナーはわたしを睨んで言った。

 

 「何がそんなに嫌なんだ」

 「嫌いなんだよ、お偉いがたが。自分の都合で勝手ばかり押し付けて。ふざけんな」

 

 奴隷は、使い棄ての道具じゃない。

 こころの内で吐き捨てた言葉は、馬鹿げた作戦ばかり立てる馬鹿どもに。

 

 本人の前で堂々と暴言を吐くわたしに言葉を失くして、誰も何も言わなかった。

 

 いっそ晩餐に招かれて、油断を買ってから殺そうか。

 怒りに我を忘れた振りで、陸軍中将相手に喰って掛かる。

 

 「浮浪児なら使い棄てても構わない?浮浪児狩って奴隷にして戦場に立たせて。手前てめえが始めた戦争なんだから、手前でどうにかすりゃ良いだろ。おれたちを、巻き込むな」

 

 続けた言葉の意味は、わたしがここにいる偽の経緯を知る、偽浮浪者だけが理解した。

 

 「仲間が、国に捕まったんだったか」

 「ああ。あの国、捕まえた浮浪児をどうするか知ってるか?身体中に機械埋め込んで、脳にプロテクト掛けて、絶対に逆らわない機械化奴隷にするんだ」

 「ああ。あの国の機械技術は凄いって言うね。実物を見たことはないけど、機械並みに強化された兵なんだろう?」

 「機械並み?そんな生温いもんじゃない。機械そのものだ。人間としての扱いなんか、受けられやしないんだから!」

 

 死んで行った仲間の顔が過る。

 死んでも構わないと生きているわたしとは違う。みんな、みんな、きっともっと生きたかった。

 国が浮浪児狩りなんかしなければ、きっと今も不自由しつつも生きてたはずなのに。

 

 振りでも実感が込められた怒りは、真に迫っているだろう。

 

 「勝手に下らない戦争おっぱじめて、勝手におれたちを搾取しやがって。陸軍中将?口を聞くのも名誉?単なる殺人鬼じゃねぇか。…いっそ、殺してやりたいね」

 

 バーナーの首に右手を伸ばす。強化されたこの右腕は、片手でも陸軍中将の屈強な首をへし折れるだろう。そうすれば、作戦完了だ。

 

 「生憎と、ガキに殺されるほどやわな鍛え方はしていない」

 

 今、終わらせる気はないけどな。

 

 伸ばした手は、あっさりとバーナーに捕えられた。

 人並みの速度で動いたんだから、当然の話か。

 

 「叛逆罪で死刑ものだぞ、今の言動は」

 「あっそ。殺したきゃ、殺せば」

 

 握られた手を申し訳程度に暴れさせつつ、ぬるい殺気を込めてバーナーを睨む。

 

 「殺さんよ。勿体ない。お前の刑は終身刑だ。儂の下で働け」

 「はっ。死にたいのかよ」

 

 警告だ。だって、わたしはこのおっさんを殺すから。

 

 「殺せるものならば殺すがいい。お前に殺されるほど弱くはない」

 「言ったな?後で後悔しても遅いぜ?」

 「取り敢えず、今日の晩餐に付き合って貰おうか」

 「最後の晩餐にならなきゃ良いな」

 

 一度攻撃を避けたからだろう。バーナーはわたしの言葉を真に受けていないようだった。

 油断してればいい。再三の警告は発した。攻撃を受けさせたことで、おっさんの反応速度も理解した。

 普段一緒に訓練してる機械化奴隷や機械人形たちとは、雲泥の差の身体能力。たとえ素手のわたしが相手でも、おっさんじゃ勝てない。

 

 想定外のことで過程はだいぶ狂ったが、結果はきっと変わらない。

 今日が、あんたの命日だ。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございました


あっさい知識で書いていますので

技術などへの鋭い突っ込みはしない方向でお願いします

軽く緩く読んで頂けるととても助かりますm(__)m


続きも読んで頂けると嬉しいです

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