第三十五話 丘の上のこぼく 1
間に合わないかと思った…
戦場跡の描写です
苦手な方はご注意ください
『a、ドウカ、無事デ』
泣き付くような声を、歯を食い縛って頭から叩き出した。
帽子からひと房こぼれた髪をつまむ。
つまんだ指も髪も薄汚れ、べたついて異臭を放っている。髪に至っては汚れ過ぎて、元の色なんかわからないだろう。
服はあちこち擦り切れ、空いた穴は接ぎ当てもせずにほったらかされていた。
懐かしいと言えるかもわからない、浮浪児らしい自分の姿。と言っても、臭いのは嫌いだったから、こんなに汚れたままでいたことはなかったけど。
ほんとにただの浮浪児に戻れるなら、どろどろに汚れて痩せこけた野良犬と道端で寝るのも悪くないのに。
血の臭いの満ちた戦場跡に立って、めぼしいパーツを探す。
何か、目を付けられるものを。
手当たり次第に掻き集める戦場荒らしを後目に、何も拾わず、地面に目を凝らす。
似たような動きをする戦場荒らしが、数人いる。わかっているんだろう。大事なのは数より質だって。でも、まだ甘い。わかってない。
集団の輪から離れて、遺体の少ない方へ向かう。本当に価値ある忘れものがあるとしたら、こっちだ。
接戦とは言え、勝利したのはこっちの隊。なのに撤収後に遺体が残ってるってことは、そこにいたのは促成栽培児ばかりってことだ。そんなとこ探したって、ろくなもんは落ちてない。良い武器はみんな、機械人形に回ってるんだから。
さて、ひとつくらいヤツらの見落としを見付けられるだろうか。
思って見回したけれど、清々しいくらい、残ってない。さすが機械の仕業だ。気持ち悪いくらい徹底的。
それでも何かと、地面を蹴ると、かつん、と金属らしい音が響いた。
「…?」
音を頼りに近付けば、ひしゃげた鉄の箱。
「…おいおい、良いのかよ、こんなもん忘れてっちまって」
なんで忘れられたのかわからない。そもそもなんで落としたのか。
一見ひしゃげた鉄の箱にしか見えないそれは、重力低減装置だった。しかも、ひしゃげてこそいるが、完品だ。恐らく、修理すればまだ動く。
嬰児の頭蓋くらいの大きさ。だいぶん大きいから、初期頃のものだろうけど、それだって敵に渡ればとんでもない情報流出だろうに…、
いや。
もう、いいのかも、知れない。
きっとこれは、第一世代の機械人形に搭載されていたものだ。もう、時代は次世代機だ。機械化奴隷や初期の重力低減装置になんか頼らなくても、敵が空を飛び始めても、そんなの大した問題じゃないのかも知れない。
現に、探せば、もうひとつ、ふたつ。重力低減装置を見付けることが出来た。たぶん、何体もの機械人形が、大破したのだろう。だから重力低減装置を落っことして、多過ぎて拾いそびれた。
地に落ちた翼はとても翼には見えなくて、一見鉄の箱にしか見えないそれを拾うわたしを、周りの戦場荒らしたちは訝しげに見た。
武器にも見えないし、接続プラグもないこれは、機械のパーツにも見えないだろう。でもこの片手に乗るような、小さな箱が鉄の人形を浮かすんだ。
拾って抱えて、立ち上がる。
どこへ持って行けばいいのか、わたしにはわからない。浮浪児やってたのは何年も前だし、そもそも戦場荒らしなんてやったこともないんだから。
立ち上がったわたしに、男がひとり近付いて来た。
「ボウズ、何拾ったんだ?」
「…なんだって良いだろ」
「いや?見ない顔のやつが目立つ動きしてたら、気になるだろうよ」
…やっぱりばれるのか。
目立ってた自覚はあるし、そもそも、浮浪者相手に騙せるとは思っていなかった。案外、浮浪者の横の繋がりは広いんだ。
だから、わたしは肩を竦めて男を見上げた。
「…“あっち”から来たんだ。あんたが良いやつか悪いやつかもわかんないのに、下手なこと言えないだろ」
隠さない。話す。この男の暮らす国の、敵国から来たんだと。
男は目を瞬いて、まじまじとわたしを見つめた。
「“あっち”から?またなんで」
「あの国、浮浪者全員兵士にしちまう気なんだよ。仲間がどんどん捕まって、だからおれは、捕まる前に逃げて来たんだ」
「…なるほどな」
実際、不法入国する浮浪者もいる、と言うか、刻一刻と変わり過ぎて、国境なんか曖昧なんだ。国籍を持たない浮浪児や浮浪者が、都合の良い国に逃げたってなんの不思議もない。
「で、それはなんだ?」
わたしの言い分をひとまず信じたらしい男が、わたしの腕の中身を指差した。
「手当たり次第拾ってたんじゃなく、選び取りしてたよな?なんか意味があんだろ?」
「それをあんたに教えて、おれになんの得があんの」
「ものによっちゃ、高く売れる所に案内してやる。知らないんだろ?この国のこと」
そりゃ、願ったりな状況だけど。
周囲に目を走らせる。周りの目線を読んでから、口を開いた。
「翼だよ」
「あぁ?」
「これは翼だ」
たぶんこの男は、物取りの類じゃない。それどころか、もしかすると…。
内心笑みを浮かべつつ、怪訝な顔の男を見上げた。
「これは“あっち”の戦術の要のひとつ。重力を低減して空を飛べるようにするための機械だ」
「へぇ?」
男の目が、瞬間鋭くなる。
「詳しく話が聞きたい。お前、ちょっと付いて来い」
男が腕を掴むのに、わたしは黙って頷いた。
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