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第四話 少女とたこ

特に理由のないたこ推しが読者さまを襲う…!


主人公の名前がやっと出ます

 

 

 

 痛みに唸って目覚めた。

 

 白い天井。白い壁。こちらに背を向ける白い人影。

 …たこの部屋(メンテナンスルーム)か。

 

 どうやら死ぬことは許されず、生き長らえさせられたらしい。

 

 汚れた白衣の男が、振り向いてこちらを見た。

 

 「目が覚めたかい、(アト)

 

 (アト)、わたしの名だ。

 ミドルネームもファミリーネームもない、ただの(アト)。とある男が適当に付けた個体名。

 そもそも家族も名前も持たない浮浪児だったんだから、名前があるだけで随分な進歩だ。


 道具として扱われる戦争奴隷と、犬畜生みたいに生きる浮浪児と、どちらが人間としてまともかなんて、わかりゃしないけど。

 

 歩み寄る男に顔を顰めて、わたしは鼻を鳴らした。

 

 「起きて早々見る顔がたこだなんて、最悪の目覚めだな」

 

 目の前の中年男はわたしのメンテナンスを行う機械技師で、名前は…なんだったか、えーと、まあ良い、たこ技師だ。

 わたしの機械化を一手に引き受け実行したのはとある狂った男だが、以降のメンテナンスやら追加の機械化やらをやったのは、主にこのたこだ。

 

 一応まあまあ才能のある博士らしいんだが、これと言って権力も発言力もなく、仕事はもっぱら他人の開発した機械のメンテナンス。

 つまり、まあ、ただのたこだ。

 

 歯に衣着せればふくよかな、着せなければ良く肥えた身体の、ひとの良さそうな顔をした男だが、見ていて目の保養になる顔じゃない。

 残念ながらメンテナンス後に目覚めると、まず間違いなくこのたこの顔を見ることになるんだけど。

 

 「麗しい顔で目覚めたいなら、今度からφ(ファイ)にでも看病させようか?格好好いって、結構技師の女性からも人気だよ」

 

 機械人形は基本的にフツーの顔が多い。人間の兵士に混じっても目立たないためにだ。

 だが、φはと言うかうちの小隊の機械人形はと言うかどっかの狂人が作った機械人形はと言うか、兎に角一部機械人形は作り手の趣味で適当に造られたために、無駄に整った顔が多い。厭味か。

 流石狂人、空気は読めなかったと言う話だ。わたしの機械化を行った奴の仕業だが。

 

 軽い口調で言うたこ技師に思いっきり顔を顰めて見せて、即座に拒絶した。

 

 「やめろ。嫌がらせか。機械人形しかいない隊に入らされてるだけでも、うんざりだってのに」

 

 機械人形の看病だなんて、ぞっとする。

 アレをダッチワイフにしてる奴らもいるらしいが、正直気が知れない。あんな気味の悪いもん抱くくらいなら、豚相手に腰振ってる方がマシだ。

 

 どっかの狂人に言わせれば、わたしの意見の方が圧倒的少数らしいが。

 

 たこ技師は片眉を上げ、わたしに起きろと手を振った。

 従って起き上がったわたしをベッドから引っ張り出す。

 

 痛みに呻いてもお構いなしだ。

 

 「指揮官は人間って決まりなんだ、仕方ないだろう。…ふむ、問題なく作動してるな。じゃ、戦闘訓練行って来なさい」

 「まだ痛いんだけど」

 「六時間も寝たんだ。休養は十分。それとも動けないと休んで、怒髪天の司令官のお叱りをみっちり受けるかい?」

 

 この、鬼畜たこ野郎が。

 

 「あーはいはい。精々痛む身体に鞭打って、訓練して来ますよ」

 

 わさわさと頭を掻き混ぜて、置いてあったスリッパを引っ掛ける。

 頷いたたこ技師が、思い出したように言った。

 

 「ああそうそう。明日、‘彼’がきみのブラッシュアップをしたいそうだよ」

 

 たこ技師の言う‘彼’は、わたしを機械化した狂人のことだ。

 さっき以上に盛大に顔を顰めて、吐き捨てる。

 

 「今更なんだってんだよ。うざったい」

 「攻撃機能と防御機能の向上だそうだ。悪い話じゃないだろう」

 「身体かっ開かれて機械押し込まれるのがか?ならあんたが機械化されろよ」

 

 解剖する側は楽でも、解剖されるカエルは堪ったもんじゃないんだ。軽々しく悪い話じゃないなんて、生身で研究室に座ってるだけのたこのくせに、よくもまあほざきやがる。

 

 「いや…済まない、無配慮なことばだった」

 「…改造されるたびに、ひとでなくなって行く心地がするんだ」


 それは無意識に漏れた言葉で、明らかな弱音だった。自分がそんな風に思ってたなんて気付いてなかったけど、口にすればストンと腑に落ちる言葉だった。

 

 所詮わたしは戦争奴隷で、彼らに取っちゃひとじゃない。

 その中でたこ技師は、比較的良心的な方だ。わたしみたいな戦争奴隷や機械人形たちに多少なりとも同情してて、こうして口ごたえしても罰したりしない。

 

 何か言おうとしたたこ技師に、もういいと手を振った。意識せず漏れてしまった言葉で、同情なんか欲してなかった。

 

 「明日ね。わかった。防御力不足で大怪我したんだ、悪い話じゃないって、あんたの言葉は正しいよ。じゃ、訓練行くから。メンテナンスどうも」

 

 生きてる世界が違うんだ。怒っても仕方ない。

 溜め息ひとつ吐いて、わたしはメンテナンスルームをあとにした。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございました


と言う訳で、aちゃんと書いてアトちゃんでした

明確な記載はありませんが

作者のイメージでは現時点で中高生くらいの女の子です

名前の由来は後々出ますので

そこまでお付き合い頂けると嬉しいです


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