第三十三話 守るかたち
溜め息を吐いたマーティは周囲を見渡し、
「とりあえず、不当な叱責した馬鹿どもは、あとで処分を言い渡す。消えろ」
まず、下衆どもに目を留めた。
真っ青な顔になった下衆どもは何か反論しようとしたようだが、マーティのひと睨みで飛び上がって逃げ出した。
マーティの視線が、わたしに移る。
その前にちらりと後ろに視線が飛んだと感じたのは、気のせいだろうか?
わたしを見下ろしたマーティが、口を開いた。
「んで、a。お前、隊移れ」
「え…?」
思わぬ言葉に、ぽかりと口が開いた。
「なん、」
「ナゼデスカ」
わたしが呆然と疑問を口にする前に、後ろにいたθが割り込んで問い掛けた。はるか上の兵である、マーティに、だ。
ああ、そうか。
「だからだよ」
マーティが、θに目を向けないまま言い放った。わたしを見据える目が、わかってんだろ、と言っていた。
「お前ら、馴れ合い過ぎ。その状態でいたら、どっちも身を持ち崩すだろーよ」
「ソンナコトハ」
「機械は黙ってろー?」
反論しようとしたαの言葉を見向きもせずに一蹴して、マーティが視線でわたしの目を射抜く。
「わかってんだろー?おかしいって。なー、aちゃん?」
そうだ。わかってた。
わかってたのに、わたしは。
「わかってんのに、離れるって選択肢が出ない時点で、おかしーんだって、わかるな、お前なら」
なにも言えない。
反論の余地はなかった。
だって、知ってるんだ。マーティは、わたしがどうやって生き延びて来たか。
誰とも馴れ合わずに来たんだって。自分を守ろうとするものをこそ、遠ざけて。それがわたしのやり方だって、知ってるんだ。
「馴れ合う相手が、奴隷同士ならまだ良かった。でも、機械と馴れ合うのは駄目だ。わかってんだろー?上の馬鹿どもが重要視してんのは、奴隷より機械だ。今だってお前、かなり厳しい位置にいるんだからなー?今まではあいつが権力にもの言わせて守って来たけど、それだっていつまで保つか…」
…狂人の気まぐれな保護。わたしには逃げる手段のない、おぞましい柵だ。
わたしが少し顔をしかめた理由を、マーティはどう受け取ったか。
「今のままなら、お前の首が絞まるばっかだろー。お前が言ってどうにもならない、あるいは、お前がどうにかする気がないならー、共倒れ前に引き離すしかないだろーよ」
わたしは、弱くない。けれど、わたしの見た目は、とても弱く見える。女だから、チビだから、華奢だから。さっきの下衆だって、わたしがチビな女だからあんな要求をしたんだし。
そうして弱いものとして、わたしを守ろうとしたやつは、いた。
そう言うやつに対してわたしは、まず助けなんて要らないと伝えて、それでも理解しないやつには、あえて離れてひとりで立てることを示して見せた。お前の手なんか要らないんだって、言わなくても理解できるように。
マーティはそう言うさまを見て来たから、わたしがひとりで投げ出されても大丈夫だと知っている。だから、離れろ、と言うんだ。
マーティが離れろと言うのは、わたしを、守るためだ。
機械人形を棄てて、手を離せ、と。
「不味いって、気付いてるん、だろー?」
気付いてる。何度も、このままじゃ駄目だと思った。
だから何度も、言った。守るなって。守る必要なんて、ないんだって。
でも、機械人形たちは、聞かなかった。
なのに、今までみたいに離れようと思わなかったのは。
わたしが、絆されたから?
知らぬ間に機械人形と、馴れ合っていた?
「…このままじゃ、お前だけじゃなく処分対象になるぞー」
ぼそりと言われた言葉は、きっとわたしへの説得だ。
守りたいなら、離れろ、と。
「aガ、処分対象ニ?」
わたしが答えを探す間に、βが口を挟んだ。
マーティが目を細め、わたしは目を閉じた。
わたしは、害だ。
閉じた目を開いて、マーティを見上げた。背筋を伸ばして、姿勢を正す。
わたしの目を見返したマーティが、頷いた。
「第18小隊からの除籍。それは命令でしょうか、マーティアス・C・ホフマン少佐」
「命令だ」
“命令”と言うのは、きっとマーティの優しさだ。
わたしたち奴隷は、命令には逆らえないから。
「わかりました。除籍は、今日付けですか?」
「今日付けで移動だ。しばらくはオレの指揮下に入れ。そのあと、どこかの小隊に入れる」
「わかりました」
「a!?」
θが肩を掴むのに、振り返って言い放つ。
「上官の命令は絶対だ。そんな当たり前のことも忘れたか?」
「ソレハ…」
マーティがθの手を払い、わたしを機械人形たちから引き離した。
「お前らのそう言う態度が、aを不利な立場に追い遣るんだよー。お前らは、なーんもわかってないかも知れないけどなー」
「…何度も、言ったはずだ。迷惑だって」
どうかもうわたしになんか拘るなと、突き放す言葉を吐く。
「迷惑なんだよ。お前らなんかの庇護なんかなくても、わたしは大丈夫なのに」
ショックを受けた顔の機械人形の視線に、睨みを返す。
伸ばされたθの手は、マーティによって叩き落とされた。引きずるように、後ろに下がらされる。
「行くぞ。もう、関わるな」
マーティの言葉に頷いて、機械人形たちに背を向ける。
「a…」
「…」
追い縋る声を、黙殺する。
マーティに背を押され、足早に歩み去る。
眉は寄り、唇は噛み締めすぎて血の味がした。
振り返る間際に見えた表情と、掛けられた声が胸に突き刺さって、ずっと離れなかった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
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