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第二十二話 戦争奴隷 2

更新に間が空いてしまい

済みませんでした


三十話の最終文および

三十一話の全文を差し替えました

改稿後の三十一話を読まないと理解できない内容になってしまっているので

お手数ですが三十一話から読んで頂けるとありがたいです


次話に続くお話になっておりますので

ご注意ください

 

 

 

 「いま、訓練中だよなー?集まって、何してるんだー?」

 

 声の主は軽い足取りで、歩み寄り、立ち止まった。

 

 「ん?(アト)か?」

 

 いまだ抜け出せはしないものの、どうにか視界だけは確保したわたしの顔を、見知った兵士が覗き込む。わたしが戦争奴隷になった頃は見習いだったが、今じゃもうかなり上の兵士になったらしい男。軍のトップの孫らしく、階級も、たぶん出身家の家格も、下衆どもよりはるか上。

 

 「…マーティ」

 「きさま、奴隷のくせに無礼な…!」

 「いーんだよ、オレが許してんだから」

 

 わたしが呟いた名前に下衆が激昂し、乱入者、マーティがしかめ面で留める。

 

 高位貴族出身らしいのに、身分どうのをうざったがっている変人、それがマーティだ。どうやらどこぞの狂人とも幼なじみらしいし、類は友を呼ぶのだろう。

 

 「でー?これはいったいなんの騒ぎなんだー?」

 

 マーティの後ろに、顔見知りの奴隷がいた。状況を見かねて、援軍を呼んでくれたらしい。わたしに目配せして、走り去る。

 

 この国の人間は、気付かない。奴隷だけが、気付く。

 家畜だって、叩かれれば痛いんだってことに。

 

 「θ(シータ)、離せ」

 

 低く唸ればようやく手が離れた。マーティの前に両膝を突き、両手も地面に置いて、深々とこうべを垂れる。

 

 「お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 

 跪いて地に頭を擦り付ける体勢に、マーティが不快げな空気を発した。

 

 知っている。マーティがかしずかれることが嫌いだって。

 知っていて、やっている。

 

 「全て、わたしの責任でございます。わたしが訓練に遅刻し、訓練の妨害をし、部下の監督が不十分だった上、卑しい奴隷の身分で高貴なる方に口応えを致しました。その罰として今から服を脱ぎ背に笞を受けるはずだったんですが、このように、わたし指揮下の隊のものがそれを妨害したために、このような騒ぎに…。全て、わたしの不徳の致すところでございます。この罰は、いかようにも」

 「…服を脱いで、笞打ち、って言ったかー?」

 

 不快も顕わなマーティの声に、わたしではなく下衆どもが身を震わせる。

 

 「あ、あの、」

 「オレは、aに訊いたんだけどー?」

 

 下衆の言葉を遮るマーティの声が低い。

 

 怒ったな。わかってやってるけど。

 

 「言いました」

 「女のお前に?男のこいつらが?ここで?服を脱げってー?」

 「はい」

 

 下衆どもは青ざめてるんだろうなーと思いながら、額突いたまま淡々と答える。

 

 他の一般兵ならともかく、見付かった相手が悪い。マーティが嫌いなものは、身分を振りかざすことと、軍を汚されることだ。

 身分を振りかざし戦争奴隷を性奴扱い。マーティが怒らないはずがない。

 

 「笞打ちに、なぜ服を脱ぐ必要がある?」

 「『犬畜生だ、服の上から殴られた程度では痛くも痒くもないだろう』と」

 「そもそも、殴られる理由があったのかー?」

 「…わたしは、戦争奴隷ですから」

 

 らしくもなく、マーティが舌打ちをする。

 そうさせたのは、わたしだけど。

 

 「それが理由だと言うつもりかなー、aちゃん?」

 「“相手が奴隷で自分が奴隷でないこと”以外に、奴隷を殴る理由が必要ですか?他の奴隷ならまだしも、わたしは戦争奴隷です。他人の持ち物を傷付けたことにもなりません」

 

 戦争奴隷は、“国奴こくど”。誰の持ち物でもない、“国民全員の下僕”。自分の下僕なんだから、どう扱ったって咎められはしない。それが、この国の常識だ。

 

 「お前、なー…。わかった、殴られる理由はいーから、経緯を説明しろ。お前の遅刻の理由と、お前が訓練に来てからオレが来るまでのことを、いちからとおまで、包み隠さず。あと、いー加減顔上げろよー」

 「ですが、戦争奴隷如きが御前ごぜんで顔を上げるのは…」

 「お前…」

 

 ねちっこい嫌がらせしやがってと言う呟きは、幸いわたしの耳にしか届かなかったようだ。

 

 「いーから顔上げろー。オレが許すって言ってんだろー!?」

 「かしこまりました。寛大なお許し、感謝致します」

 

 顔を上げれば苦虫を噛み潰したようなマーティが、手を伸ばしてわたしの額に付いた土を払った。

 

 「顔も髪も土まみれじゃねーか、ばか」

 「…主たる国のために土にまみれ、血にまみれ、身を粉にして働き、命果てるまで国に尽くすのが、我ら戦争奴隷の役目ですから」

 「…」

 

 大仰な溜め息を吐き、たいへん不愉快げに顔をしかめながら、マーティが呻く。

 

 「とにかく、経緯を話せ」

 「かしこまりました」

 

 とは言え、さて、どこまで話すか。

 

 わたしは小さくため息を吐くと、マーティを見据えた。

 

 「遅刻は、治療のためです。昨日の負傷が酷かったため、担当のメンテナンス技師の裁量で訓練より休養を優先されました」

 「それは、ギム博士に確認を取れば保証されるのか?」

 

 ギム…?……ああ、たこか。

 

 「…はい」

 

 たっぷりまばたき三回分遅れて頷いたわたしを見たマーティはしかめ面を解き、肩をすくめて呆れた顔を見せた。

 

 「お前らほんっとー、そーゆーとこ似てるよなー。a、お前、オレの名前覚えてるかー?」

 「…マーティ」

 「それはー、愛称。オレが訊いてんのはー、本名」

 

 知るか、んなもん。

 

 思ったことは、口に出さなくても理解して貰えたらしい。

 

 「あーはいはい。ちなみに、あいつの名前は?」

 「ビー、っそれを今訊くことになんの意味が?」

 「…はは。まー、名前は関係ないか。理由があって遅れたんなら、それは責めるべきことじゃないな。で、遅れて来てどーなったんだー?」

 

 遅れて来て、怪我を心配した機械人形どもに囲まれた。だから、昨日のことを含めた叱責を行った。その途中、囲まれたわたしを揶揄しに他の隊の機械化奴隷たちがやって来た。

 

 これを、巧く言い換えるとどうなる。

 

 「先ほども言った通り、わたしは昨日の負傷が重篤だったため、作戦終了後すぐメンテナンスルームへ向かいました。そこからずっとメンテナンスルームにいて、訓練にも遅刻したために、隊の兵と関わっておりません。

 わたしは指揮下の兵へ、作戦後や訓練前後に指示や注意を言うのが習慣ですので、訓練に来たわたしに指示を仰ごうとわたしの指揮下の隊員が集まりました。そこへ、隊員の集合に気付いた他の隊の戦争奴隷がなにごとかと集まり、第18小隊のみの集合であるから訓練に戻るよう伝えていたところ、そちらの方々が何をしているのかと訊きにいらっしゃいました」

 

 嘘は、ひとつも、言ってない、はず。

 

 マーティが頷いて、先を促す。

 

 「そこまでは、何も間違ったことはないな。あえて挙げれば訓練前後に済ませるべき指示出しを訓練中にやったことかー?それもまー、訓練に遅れちまった以上仕方ねーし、注意するなら訓練前にしといた方が効率的だな。それで?」

 「そこでわたしから、わたしが訓練に遅れたため指示を確認していたこと、他の隊の戦争奴隷たちはわたしたちの隊が集合していたために誤って集合してしまったことを伝えました。そのため、そちらの方々が自分の隊もわからないのかと他の隊の戦争奴隷たちを叱責なさって」

 「叱責して?」

 「わたしにたいしても叱責するため硬鞭こうべんを振り上げたところ、指揮下の機械人形が止めに入りました。恐らく理由を言わず指揮官を攻撃されたために、訓練と勘違いしたか、自動防御プログラムが作動したんだと」

 

 ちらりと後ろに目を遣り、黙れと睨み付ける。

 視線を戻せばマーティが、眉を寄せ目を細めて機械人形たちを見遣っていた。

 

 「で、それを伝えたわけか」

 「はい。なんにせよわたしの監督不行き届きですから、それも伝え、遅刻の理由に関してもその時に伝えました」

 「…お前が?」

 

 ああ、やっぱり、違和感を覚えられるか。

 

 マーティは機械化直後からのわたしを知っている。つまり、わたしが今までどんな考えのもとどう立ち回って来たかを、知っているんだ。

 

 「…はい。無礼にも、戦争奴隷の身で、守るべき国民に、刃向いました。許されざることをしたと、理解して、」

 「正当な理由を話して何が刃向いだ。口応えでも、ないだろー」

 

 遮ったマーティの視線はわたしの背後を見ていた。

 唇が、なるほどな、と動く。

 

 マーティが何か声にする前に、口を開く。

 

 「ですが奴隷が、主に逆らうなど許されることではありません。叱責の邪魔をする機械人形たちを訓練に戻らせ、わたしは叱責を受けました。その途中で、そちらの方々に服を脱げと言われ、笞打ちのためと言われましたんで、服を脱ぎました」

 「はーあぁ!?」

 

 声を上げたのはマーティで、上がったのは怒りと呆れと驚きが入り混じった大声だった。

 思わず眉を寄せるわたしの肩を、マーティが両手で掴んだ。

 

 「おっまえ、脱いだって、ここでかー!?」

 「ここで脱ぐように言われましたから」

 「言われたからって」

 「…途中で止められましたが」

 

 どっかの下衆と違って真面目に鍛えているマーティの握力は強い。肩が痛い。

 

 宥めようにも奴隷から触るのは身分的に許されない。マーティの性格上許されるのはわかっているが、今触るのは駄目だ。仕方なく、言葉で宥める。

 

 「下着を脱ごうとした所で、指揮下の機械人形たちが乱入して止められました。その騒ぎの途中にあなたが」

 「…機械人形が、止めたと」

 「はい」

 

 そこは下衆どもにも他の兵たちにも見られている以上、誤魔化せない。

 

 「指揮官が訓練場で突然脱ぎだしたので、頭が狂ったとでも思って焦ったんじゃないですかね」

 「焦ったで、済む話かー?つーかそもそも、機械人形が焦るって」

 「機械ですから、不測の事態には意外に弱いですよ」

 

 悪びれもせずのたまう。機械が不測の事態に対応出来ないのは、事実だ。

 

 マーティは額を押さえて溜め息を吐いた。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


これからの更新速度なのですが

現在書き貯め皆無になってしまっているため

日刊ではなく三日ごとの更新にしたいと思います

更新速度が遅くなって申し訳ありませんが

続きも読んで頂けると嬉しいです

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