第三十話 機械と奴隷
(2015.06.24、本文最後の台詞を変更しました)
訓練場に入るなりわたしは、第18小隊の機械人形たちに囲まれた。
「a、怪我ハ大丈夫デスカ?」
「具合ハ?」
「モウ、動イテ大丈夫ナノデスカ?」
口々に言われて面喰らいながら、機械人形たちを見上げる。
「大丈夫だから、戻れ。訓練中だろうが」
言いながら、たこ技師に言われたことを思い出してθを探す。
いつもなら真っ先にわたしに寄って来るθが、今日はなぜか一番離れた位置にいた。心なしか、表情も険しい気がする。
不具合でもあるのかと、他の機械人形を退けてθに歩み寄った。
「θ」
「a…」
呼び掛ければ、θの瞳がわたしを見下ろした。どうにも悲しげな表情に見える。
「どうした?具合でも、」
「a、アナタノ身体ハ…」
「あ?見りゃわかんだろ、問題な、」
全部言いきる前にθの長い腕がわたしの身体に巻き付いた。
「良カッタ…ワタシノセイデアナタガ、死ンデシマッタラト…ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、a」
機械人形たちより頭ひとつ以上小さいわたしに縋り付くように抱きついて、θは言った。
機械だから、声は震えない。涙も出ない。でもわたしには、まるでθが泣いているように感じられた
「…大丈夫だって。わたしは、そう簡単に死んだりしない」
「デスガ…」
「守られる奴の気持ちが、わかったか?」
θの腕から手を伸ばし、θの背中を叩く。訓練に戻れと言ったのに性懲りもなく周りに立ったままの機械人形たちを、振り向いて睨んだ。
「わたしは黙って守られるのを許容出来る人生送ってないんだよ。戦場にひとりで立たされたって、自分の身くらい守れるし、怪我したって自力で帰還できるくらいの力は持ってる。もし力不足で死んだって、それはそれで構わないんだ。余計な手出しすんな」
言ってθの腕を引き離したわたしに、機械人形たちが反論しようと口を開いた。
「…機械に囲まれて、お姫サマ気取りかよ」
が、機械の声より先に別の声が空気を震わせた。機械音声じゃない、ひとの喉から発された肉声だ。
振り向けば、まだ新人の機械化奴隷の集団だった。たぶん、J-の何番かだろう。今はフクロウたちより桁数が増えたって話だ。
女だとか、チビだとか、長髪だとか、そう言うんで言い掛かり付けられたことは初めてじゃない。
わたしは女としても少し背が低いと言われるくらいの身長だし、どっかの狂人が切らせないせいで長髪だ。機械人形や促成栽培児も含めて、兵士には圧倒的に男が多いしみんな短髪だから、長髪のチビ女が目に付くのは無理もない。長身な成人男性サイズで作られてるθたちに囲まれてるから、余計目立つ、と言うかまず、θたちが戦場にいるには綺麗な顔過ぎて目立つしあの狂人馬鹿やろう。
加えて、本来戦争奴隷でも優れた奴しかなれない、指揮官、それも機械人形の隊の指揮官なんてもんにされてるから、妬みなのかなんなのか反感も買いやすい。
前はフクロウとか、他の仲の良い機械化奴隷とかが、抑えてくれてたらしいけど。最近は機械人形と関わることが主だったし、そもそも機械化奴隷が減ってるしで、親しい機械化奴隷なんてほとんどいなくなってた。
フクロウ曰くわたしは、話してみないと本質がわからない奴、らしい。傍から見てるだけだと取っ付きにくくて付き合いの悪そうな奴だけど、話してみると話しやすくて意外と良い奴、だそうだ。だから一方的に知られてるだけの相手からは、嫌われることもあるだろうと。
始め悪感情を持たれても、一度でもわたしと同じ作戦に付いたことがある奴は、実力を認めるなり非情さを恐れるなりして、突っ掛って来たりしなくなるんだけど、彼らは恐らく初戦がまだなんだろう。年も少しだが、わたしより低そうだ。
わたしだけじゃなく機械人形たちも一斉に顔を向けたらしくて、一気に30近い視線を向けられた彼らはびくりとたじろいだ。
溜め息を吐いて、髪を掻き混ぜる。
「ほら、オマエらが真面目に訓練しないから、睨まれただろ」
機械化奴隷たちから視線を外して機械人形を睨、
「って、おい、なんつー顔してんだオマエら」
もうとして、機械人形たちの憤怒の表情にぎょっとした。思わず近場にいたθの肩を叩く。
こんな顔で睨まれたら、孤児出身の図太いガキでもびびる。当たり前だ。
「ダッテ」
「だってじゃないだろ、ν。オマエらが馬鹿みたいにわたしに構ってんのは事実じゃないか」
そんな拗ねたような顔をされても妥協はしない。
折角言い掛かりと言う形で他者からの指摘を貰えたんだ。梃入れに利用させてもらう。
「傍から見てもオマエらのわたしへの扱いはおかしいんだ。戦争奴隷に対する扱いじゃない。…迷惑だ。ただちに直せ」
わたしのせいで、オマエらが壊れるのなんて、見たくないんだよ。
その呟きは、胸の内に留める。
一度瞑目してから、機械化奴隷たちに目を戻した。
「わたしは、オヒメサマなんかじゃない。オヒメサマみたいに守られて生き延びるくらいなら、単身突撃して死んだ方が性に合う。と言うかそもそもあんたら、この国がそんな馬鹿許すと思ってるのか?」
一戦二戦なら、機械人形の庇護下で守られて頼り切っても許されるかも知れない。でも、本当にそれだけの奴隷なら、敵が殺さなくても国の上部に殺される。役立たずを許容するような、そんな甘っちょろい国じゃない。
生き残りたきゃ、役に立たなきゃいけない。逆らっちゃいけない。怒りを買ってもいけない。
機械のオヒメサマとして天狗になるような奴じゃ、生き残れない世界なんだ。
「他人に構ってる暇があるなら、訓練しろよ。あんたら新人だろ?甘い考え持ってるようじゃ、早々にのたれ死ぬぞ」
厳しい言葉だが、それが現実だ。彼らがどんな機械化を受けているのかはわからないが、彼らの前に機械化された多くの奴隷は、前線で使い潰されているのだから。
わたしの言葉に眉を寄せ、口を開きかけた機械化奴隷の言葉を遮るように、第三者は突然介入してきた。
「訓練中に何をしている」
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