第二十八話 猶予されたいのち
aちゃん視点
戦闘描写・負傷ありです
苦手な方はご注意下さいませ
ミミズクと結構な悲愴さで別れてから、二週間。わたしは変わらず、生き延びていた。
死ぬんじゃなかったのかと、拍子抜けだ。
どうやらまだ、わたしに積極的に殺すような価値はないらしい。
…わざわざ殺さなくても、そのうちのたれ死ぬだろうって、考えなのかも知れないが。
戦況は確実に、こちらに傾いているんだと思う。
と言っても敵国は広大で、侵略出来たのはおよそ五分の一程度らしいが。
元々、ふたつの国の国力や技術レベルは、同程度だったらしい。
では、なぜこうして戦果に差が出たか。それは、目指したものの違いだと思う。
敵国は最強の矛を求め、それだけを追求した。対してこちらはそこそこ貫ける矛と、そこそこ防げる盾と、いくら死んでも補給可能な兵をつくることを目指した。
結果、相手の矛がいくら強くても、数の力で押し切られ、押し負かされる結果となったのだ。凶暴なスズメバチに、非力なミツバチが打ち勝つように。
そんな話をして、何が言いたいのかと言えば。
つまり、わたしたちの防御装置は必ずしも敵の攻撃を防ぐわけじゃない、と言うことだ。
ほと、と力の入らなくなった指先から赤い水滴が落ちた。
右腕はだらりと垂れて、さっきからぴくりとも動かない。
それでも残った左腕で銃を構え、遠く見える敵を撃つ。
「…ト」
足下には赤い水溜まりが出来ていて、たぶん結構な量の血が身体から流れ出しているのだが、不思議と意識ははっきりして鮮明に敵を捉えていた。
また、敵から銃撃が飛んで来て、右腹に当たった。敵の攻撃と擦れ違いに飛んだわたしの銃弾は、綺麗に当たって数人の敵を蹴散らした。
敵は兵器頼みで兵数が少ない。喩えここでわたしが死んでも、それまでに兵を減らせていれば勝機は十分ある。
「アト」
敵兵は残り、何人だろう?
最初よりかなり減ったと思う。その分、こちらの兵も減ってるけど。
飛んで来る攻撃が明らかに減って来た。目視できる兵ももう、50人といないように見える。
ひとり、ふたり…着実に、数を減らして行く。
「a!」
突然大音量で、機械音声が響いた。思わず片目をすがめ、眉を寄せる。
敵の方を向き銃撃を続けたまま、片手間で問い返した。
「…んだよ、うるさいな」
思ったよりも掠れて小さくなった自分の声に、意外に消耗していたと気付く。
身体の損傷確認より銃撃を優先しているからわからないが、大きな怪我もいくつかあるのかも知れない。まだ立って攻撃出来てるんだから、問題のあるレベルの負傷じゃないだろうけど。
機械音声の主、θが身を乗り出してわたしに言う。
「負傷ガ激シイデス。前線ヲ撤退シ、タダチニ帰還シテ下サイ」
「作戦途中での帰還は許可しない。作戦前に言われただろ。忘れたのか?」
なんでか知らないけどやたら強調された命令だ。逆らうわけには行かないし、逆らう気もない。戻る必要があるほどの負傷じゃないし、そもそも戦争奴隷如きが重傷程度で作戦を抜けるなんざ、何様だって話だ。
大人しく、命令を聞いて、そのいのち尽きるまで国に貢献する。それが、戦争奴隷に課せられた役目だ。
それに。
ちらりと横目で、後ろを伺う。θの防御装置は明らかに停止していた。わたしがどけば間違いなくθは敵の攻撃にやられる。
そんなこと、気付いてる振りはしてやらないけど。
前に視線を戻して、敵陣を見渡して見せた。
「終わるまで待ったって大した時間は掛からないだろ。敵を見ろよ。もう、ほとんど残ってないじゃないか」
味方も、減ってるけど。
そうして話してる間にもわたしの放つ銃弾は敵を殺し、敵の攻撃はわたしの身体を抉った。
わたしの防御装置と身体で阻まれた攻撃は、θまで届かない。
「デスガ…、セメテ、ワタシヲ盾ニ、」
「うるさい。役立たずは黙ってろ」
「ナラバ、ボクガ、」
「喋ってる暇があんなら敵を殺せ、このポンコツども」
反論したθと、口を挟んで来たγに、取り付く島もなく吐き捨てた。
続けて口を開こうとした同じ隊の機械人形たちが、不満げに口をつぐむ気配がした。
言い募るθはわたしより重傷なのだ。左肩から先と右肘から先は欠損し、右脇にも大きな風穴が空いている。行動を司る命令形の回路が生き残っていて、機械人形だからこうして無駄口叩いていられるが、人間だったらすでに死んでいるような欠損具合だ。
先頭に立ったために集中放火を受けていたθの前へ、右手を犠牲に飛び込んだのは、無意識だった。無意識に、死なせたくない、と、思ってしまった。わたしは馬鹿だ。
でも、敵と違って味方なら助けてもプロテクトは発動しなかった。
だから、もう良いかと思った。
わたしを引き戻そうとしたθと、さらに盾になろうとした機械人形たちに、ここぞとばかりに指揮官権限を最大限発動して、絶対にわたしに触るな、わたしの前に出るなと命じた。だから彼らは、いくら言い募ろうとわたしの後ろから出られない。
そんな余裕はない状況だけど、わたしの唇は笑みの形を描いていた。
好い気味だ。
やめろと言うのにさり気なく、ドイツもコイツもわたしを守ろうとしやがるから、好い加減我慢の限界だったんだ。こうして守りたい対象に守られて、精々ジブンたちの行動を猛省すれば良い。
わたしは、守られるほど、弱くなんかない。
せめて、この戦場だけ、でも、
「…っ」
瞬間、薄れかけた意識を、頭を振って取り留める。
「a、」
「だいじょぶだ」
θにみなまで言わせず、遮る。
大丈夫。まだ、大丈夫。
あと、数人だから。
攻撃が、止む。
視界に、生きた敵が消えた。援軍が来るようすも、ない。
小さく息を吐いて、帰還準備を命じる。
「ア、」
「触るな」
近付くなと言う命令が消えた途端に駆け寄ろうとした機械人形を拒絶する。
びくりと身体を揺らした機械人形に、笑みを造って見せる。
「大丈夫だから、帰還準備しろ」
身体は痛いし、疲れてる。立ってるだけでも億劫だし、眠れるもんなら眠りたい。
でも、それで誰かに頼るのは、駄目なんだ。
庇護される立場を、受け入れちゃ、駄目だ。
わたしがちゃんと、守らなくて良い存在でいたなら、φは死ななかった。
それが、考えた結果達した結論。
そして。
今のままじゃ、θたちまでφの二の舞を踏ませてしまう。
戦況はこちらに傾いていても、前線の危険度は下がらないどころか、鰻登りに高まり続けるばかりなのだから。
死の危険はすぐ目の前で待ち構えていて、わたしの杖になろうとするθたちを、飲み込まんとしている。
また、わたしのせいで機械人形が壊れる。
そんなの、耐えられない。
そんなことなら、いっそ、死んでしまいたい。
生きていたくない、死ねたら良いと、ずっと思って生きては来たけれど、こんなに自分の死を望んだのは、初めてかも知れない。しかも、生きたくないから死にたいんじゃなくて、誰かのためなんて。
機械人形を“死なせたくなくて”、死にたいなんて。
狂ってる。馬鹿だ。
θたちの心配そうな視線を振り切って、敵陣へと歩き出す。
あの兵器を持ち帰って、対抗し得る防御兵器を、開発して貰わなければいけない。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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