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閑話6 たこにルビー 3 (ギム視点)

たこ技師視点

第三話

 

 

 

 「…機械人形のようすがおかしいんだけど」

 

 aが言い出したのは、命令違反で大怪我してから半年以上経ってからだったか。

 

 私としては、やっと気付いたのかと言う気持ちだった。機械の不調には小姑みたいに煩いくせに、他人から自分に対する扱いに関しては、なまこ並みに鈍感だ。

 明らかに異性としての好意を持って見ている同僚である奴隷たちからの視線にも、全く気付いていないみたいだし。

 

 まあ、今回に関しては、機械人形と言うより、その造り手の気持ちかな。

 

 そう思ったから、aに言われても大して問題視しなかった。

 

 生命維持装置代わりに、光速移動装置を取り付けて敵を殲滅するプログラムを組み込むような狂人だ。ご執心の機械化奴隷のために、機械人形に彼女を守る命令を刷り込んでいてもおかしくない。

 

 aには馬鹿なこと言って見せたけれど、はっきり言って機械人形がプログラム外の動きを見せるなんて、思っていなかった。

 

 その余裕が崩れたのは、aたちが第27小隊と合同で活動するようになってからだ。

 

 GN-及びGM-ナンバーと、番号なし(φたち)、両方のメンテナンスを引き受けていたからこそ、その違いについては理解していたはずだった。

 時折ひとにすら思えるほど、細部の行動にまで人間らしさを追求されたφ(ファイ)たちに対し、GM、グリード博士の研究チームの機械人形は、そこまで人間らしい行動に重きを置いていない。

 表情の硬い人間だと押し通せるレベルとは言え、そう言った開発方針の違いは大きい、と、思っていた。

 

 そもそも喩え人工知能があったとしても、プログラム以上のことは出来ないと思っていたのだから、機械人形も氏より育ちだなんて、思うはずがなかったのだ。

 

 aと関わるようになって、GN-003329番―aはミミズクと呼んでいたか―を始めとする第27小隊の機械人形たちは、目を見張る勢いで感情豊かになっていった。

 ハードウェアの都合上、細かい表情や声のトーンの変化が行えるようになったわけではない。だが、明らかに、放つ感情が濃く多彩になっていた。黙々と指示をこなすだけだった彼らが、自分で考えることをするようになった。

 

 そんなようすを間近で見せ付けられて、ようやく私はaの影響力に気付いたのだ。

 

 aは生まれつきの才能か、恐ろしく五感が優れている。

 目は機械化による能力向上があるが、耳に関しては生来の機能のみで機械人形に勝るとも劣らない聴力を発揮する。加えて機械化により、記憶力や頭の回転も向上されている。

 

 ゆえにaは、ちょっとした足音や駆動音で機械人形の個体を区別でき、さらに不調などの指摘までして見せる。

 つまり、型番に当てられ十把一絡(じっぱひとから)げに扱われる機械人形や戦争奴隷を、明確に区別しさらに体調を気遣うことまで可能なのである。

 何度も言うが根は優しい子だ。不調に気付けば無視は出来ない。

 

 個を認められることのない彼らにとって、個を認め気遣いまで示す存在は、どれほど偉大だろうか。

 

 そのaの能力は、奴隷のみならず機械人形すらほだしたのだ。

 

 もし、それが真実ならなんと恐ろしい子だろうと思った。

 

 プログラム外のことなど出来ないはずの存在に、プログラム外のことをやらせることが出来る存在。

 機械技師にとっては、天敵みたいな存在だ。

 どんなに精巧に造った機械人形も、aと関わらせればどんな奇行をして見せるか、わからないと言うことなのだから。

 

 それは、危険だと思った。

 

 そんな才能は、彼女が生き残るための、障壁にしかならないと。

 

 「…φが、死んだ」

 

 何かのパーツを握り締め、憮然とaが呟いたとき、恐れていたことが起こったと思った。

 

 彼女はとうとう、決定的な命令違反を犯させてしまった。

 

 命令違反など絶対にするはずのない、機械人形に、だ。

 

 「…φの、ためだから」

 

 私はそう言って、かの天才科学者から与えられたφのドッグタグを手渡し、彼が勝ち取った休暇を言い渡すしか、出来なかった。

 

 頭の中は、絶望で渦巻いていた。

 

 自分の無力さを、人生で一番悔やんでいた。私の力では、この愛らしい少女ひとり、救ってやることが出来ない。

 

 aは私の気持ちになど気付かないようすでドッグタグを受け取って出て行った。

 その後18小隊の機械人形たちがやって来て、aがどこに行くのか知りたいと言われて、ますます追い詰められた。

 

 機械人形が自発的に、何かを望むなんてあり得ないはずだったのに。

 

 「気になるなら、行ってみると良い」

 

 そう伝えながら内心、ああ、と悲嘆する。

 

 ルビーは同じコランダムの中で、唯一サファイアから外された特別な石だ。いくらルビーの行く末を憂いても、ただのたこには祈るくらいしか出来ない。

 なんて無力なことだろう。

 

 生まれ持った階級は仕方がない。でも、せめてかの天才の、半分ほどでも私に能力があったなら、彼女を保護する方法だって、何か取れたかも知れないのに。

 いくら過程を夢想しても、現実の私はただのたこでしかないのだ。

 

 もしも手に入るなら、猫に小判なんて言わせないくらい、全力で大事にしてあげるのに。

 

 たこにはどうしようもない現状を憎みながら、私はそっと優しいルビーの幸せを祈った。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


次話からは再びaちゃん視点でお送り致します


続きも読んで頂けると嬉しいです

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