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閑話4 たこにルビー 1 (ギム視点)

ギムって誰だっけ…?と思った方は

aちゃんと仲良くなれると思います


たこ技師視点 三話完結です

 

 

 

 その少女は、人形のように愛らしい見た目をしていた。

 

 最上級のルビー(ピジョンブラッド)を彷彿とさせる澄んだ深紅の瞳に、痩せこけてはいるが白い肌。華奢な身体は庇護欲をそそり、ろくに手入れなんてされてないはずの髪だと言うのに、鮮やかな赤毛は目を奪った。

 

 拾われて来る直前の状況を覚えているのだろう。

 目を覚ました彼女はぎょっとした様子で起き上がると、呆然と自分の身体を見下ろした。

 持ち上げた手を握ったり開いたりして、動くことに困惑している。

 

 運び込まれたときの彼女の状態を考慮するに、手が動くことよりもまず生きていることや、手が“ある”ことが、何より彼女を驚かせたのだろうが。

 

 少女を見下ろす狂った天才科学者は、目を細めていた。

 

 少女が視線を上げ、自分を見下ろす男を見上げる。

 

 名前を持たない少女に、科学者は(アト)と名付けた。

 

 暫くは科学者直々に面倒を見ていたが、天才だけあって彼は忙しい。その他にも色々な理由が渦巻いた結果、aと名付けられた少女の世話役は、私へと回された。

 

 少女は愛らしく華奢な見た目を裏切って、なかなかに強かな性格をしていた。

 精々10歳かそこらだと思うが、大人相手でも物怖じせずに対応し、彼女なりに筋の通った受け答えをする。口調こそ粗野だが、敬うべき相手にはそれなりの態度を見せるし、年齢の割に賢く容量の良い子なのだろう。たまに、頑固で融通の利かない所も見せるが。

 

 聞いた話では天才科学者直々に、スラムから拾って来たと言う話だが、スラム出身の子供はこんなにも澄んだ目をしているものなのだろうか。

 他の機械化奴隷と関わっていれば知れたのだろうが、一応医師の資格はあっても私の専門は機械技師。機械化奴隷の権威たるヤコブ博士の研究チームがいる以上、機械化奴隷の世話役に私の名前が挙がることはまずない。いまだになぜ、aの世話役に任命されたかが、自分でも謎なくらいなのだから。

 上の考えることも、スラムの子供のことも、上位中産階級(アッパーミドル)の私には、想像なんて出来ないことだった。

 

 「たこ技師」

 

 敬うべき相手にはそれなりに敬うaだが、私はその対象に入らなかったらしい。

 彼女は私がたこに似ていると言って、そう呼ぶようになった。本名はもしかすると、忘れられているかも知れない。

 

 数か月の訓練ののち、彼女が配属されたのは初戦から大規模な会戦の前線。

 

 機械化された戦争奴隷としては、異例だった。

 

 わざわざ機械化したのだ、初めは後方に控えさせたり、小規模で危険の少ない作戦に行かせたりして、ある程度戦場に慣れさせてから前線に出させるのが通例だ。aはそんなこと知らず、戦争奴隷の扱いなんてそんなものと納得したようだったが、いくら戦争奴隷だろうと折角金を掛けて機械化した兵を、訓練を受けさせたとは言え右も左もわからないまま戦場に投げ込むような、金の無駄は普通しない。せめて多少は使えるようにしてから、戦場に出すのがセオリーだ。

 より生き残りやすいようにわざわざ、人を殺すのに躊躇いのなさそうな孤児を選んで機械化しているくらいなのだから。

 

 恐らく、かの天才科学者に向けた、やっかみ混じりの嫌がらせだ。彼が初めて手掛けた機械化奴隷を、早々に殺してやろうと言う魂胆だったのだろう。

 

 結果は天才が一枚も二枚も上手うわてで、aは敗北しかけた戦線をひっくり返して帰還したのだが。

 

 天才科学者の技術にも驚いたが、何より驚いたのは、自分より二回りも幼い少女の根性だった。

 

 自力で帰還した彼女の身体の損傷から見て、彼女に掛かっていた痛みや負担は、大の大人でも失神しておかしくないレベルだったのだから。

 それを彼女は涼しい顔をして、自分の足で帰還して見せたのだ。きっと誰ひとりとして、彼女の不調になんて気付いていないだろう。

 

 「痛くないのかい?」

 

 思わず問い掛けると、aは不機嫌そうに答えた。

 

 「痛い。だるい。眠い。寝かせろ」

 「あ、ああ。おやすみ」

 

 けほっと咳き込んだ口元からは血が溢れていたが、aはそんなこと気にせず目を閉じた。一分も掛からず聞こえて来る寝息。

 

 自分が十万の人間を殺したことを、aは知らなかった。私の言葉を聞いて、そんな馬鹿なと笑った。

 つまり、かの天才科学者が何かを仕込んでいたのだろう。

 

 通信機がメッセージの着信を告げる。

 

 『aを第三研究室に運ぶように、とのことです』

 

 彼の要望を伝える連絡だった。

 

 彼はa以外の機械化奴隷を造るつもりはないらしく、今は戦闘用殺戮機械人形の制作にご執心だ。だと言うのに、aはやたらと気に掛け、何かあるとこうして関わろうとする。

 

 aの何が、彼をこうも惹き付けるのだろう。

 

 彼の元から帰って来たaは、自分が十万人を殺したのだと認めたようだった。

 

 「十万人をひとりで殺すとか、化け物かよ。あの野郎、ふざけたことしやがって」

 

 どうやらaは、自分を機械化した彼を、恨んでいるようだ。

 彼女はとても真っ直ぐな子だけれど、どこか世界を見限っているような所がある。確証はないがたぶん、aは積極的に生きたいとは思っていないのだろう。

 

 「でも、きみのお陰で後方にいた多くの兵が助かったんだよ」

 「その分、敵の兵は死にまくったけどな」

 

 鼻で笑って、aは吐き捨てた。私は、何も言ってあげられなかった。

 

 その少女は、人形あるいはルビーのように美しく目を奪うのに、炎のように苛烈だった。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


ヤコブ博士はフクロウの機械化をした研究者です

説明なくても大丈夫かなと思って出してしまいましたが

もしいきなり誰だよ!?と混乱された方がいらしたらすみませんm(__)m


殺伐としたお話の中の癒したるたこ技師ですが

内面書いたら意外に黒いような…

あれ…?


作者がむやみやたらとたこ推しする作品ですが

続きも読んで頂けると嬉しいです

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