第二十七話 離別
三話ぶりの、aちゃん視点
φを埋めに行った休日の次の日。訓練場で顔を合わせたミミズクは、瞬間顔を歪めてから無表情を造り上げた。
「第18小隊トノ合同活動ヲ、解消スルヨウ通達ガアリマシタ」
前置きもなく放たれた宣告に瞬間頭が追い付かず、ぱたぱたと目を瞬いてから、頷く。
「ああ…そうか」
突然ではあったが、確かにミミズクはもうひとりで指揮官をこなせるだろうし、合同で動かなくても大丈夫だろう。
特に考えずに頷いたわたしの両肩を、ミミズクが掴んだ。造り上げたはずの無表情は、もう崩れていた。
「…アナタハ状況判断能力ニ優レタ、素晴ラシイ指揮官デス。短イ間デモアナタノ下ニ付ケテ、私ハ幸運デシタ。aノ指揮官トシテの適正ハ、シッカリト、上ニ伝エマス」
鬼気迫る気迫で何を突然、と思いかけて、気付く。
「…ああ」
わたしは戦争奴隷の分際で、機械人形を自分の身代わりに一体潰した挙げ句、機械人形一体を個人利用してひとり戦線を早期離脱した、とんでもない指揮官だ。
ここまでやればいつ処分されてもおかしくなくて、だから第27小隊との合同活動解消も、その所為である可能性が高いと言うことだろう。
「別に、そんな気を遣ってくれなくても、」
「アナタノタメデハ、アリマセン」
結構な剣幕での、反論だった。
ミミズクは初め、無表情無感情なヤツだったと思うんだけど、いつの間にこんな感情豊かになったんだろう。
「コノ国ノ軍部ハ、オカシイデス」
いつか聞いたような、けれどいつかとは全く違う意味の台詞を、いつかと違って怒りのこもった目付きと声で、ミミズクは吐いた。
「機械人形ノ一体ガ、ナンダト言ウノデスカ。一、二度ノ早期撤退ガ、ナンダト言ウノデスカ。アナタノ功績ハ、ソノ程度ノ欠点デ灰塵ニ帰スヨウナ、ソンナ微々タルモノデハナイデショウ」
きっとミミズクがひとだったなら、声は裏返り不明瞭になっていただろう。それくらいは、感情の昂ぶりを感じる表情だった。実際は機械人形だから、声が裏返ったり変な言葉遣いになったりせず、お上品に怒りを顕わにしているけれど。
「アナタガイナケレバ、何度第18部隊ハ壊滅シテイタデショウ。第18部隊ダケデハアリマセン。アナタノオ陰デ辛勝ヲ拾エタ作戦ガ、今マデ何度アリマシタカ。機械人形ヤ有能ナ技師ガ、aニ傾倒スルノガ気ニ喰ワナイ?何ヲ馬鹿ナ。犬ダッテ優レタモノ、優シイモノニ従ウノデス、機械ダッテ、何モシテクレナイ愚カ者バカリノ国ヨリモ、自分ヲ思イ遣リ気遣ッテクレル、優レタヒトヲ、特別扱イシタクナルノハ当然デショウ。自業自得ノ責任ヲaニ被セヨウダナドト、醜イコトコノ上モアリマセン」
…機械人形が、所有者をけなすとかまずあり得ない光景のはずじゃなかっただろうか。
いつの間に、こんなにグレたんだよミミズク…。わたしのせいなのか?
そりゃあ、上の奴らだって、わたしを処分したくなるよな…。
小さく溜め息を吐いて、苦笑する。ずっとわたしの肩を掴んだままのミミズクの手を、軽く叩いた。
「それがこの国の一般的な奴隷に対する扱いだよ。そう言うもんなんだから、怒ったって仕方ない。…悪いな、折角忠告してくれたのに、無駄にして」
「悪イノハ、アナタデハナク、命令ニ背イタφデショウ」
「でも部下の不始末は、上司の責任だ。わたしが罰されるのは、当然の流れ。オマエだって、わかってんだろ?」
わさわさと、櫛なんか通したこともない頭を掻き混ぜる。
実際の理由がなんであれ、今のわたしには落ち度がある。奴隷なんざ理由がなくても殺される存在で、要らない奴隷に殺す理由があるなら殺すのを躊躇ったりしないだろう。
わたしにとっちゃ、いずれ来るはずだった死が、思わぬ理由により訪れたと言うだけの話。とっくの昔に見放しきった人生を、惜しむ気にもならない。惜しんでくれる人間がいるとも、思ってなかった。
ん、だけどな。
目の前の機械人形は、母親とはぐれた幼児みたいな顔で、こちらを見詰めていた。もしも感情に従って流れるような涙腺を持っていたなら、泣き濡れてたんじゃないだろうか。
いつかφに対しても、思ったことを思い出す。
コイツらは、大の大人みたいな形をして、内面は生まれたばかりの幼児と変わらないんだ。
自分の髪に突っ込んでいた手を抜き、わたしより遥かに高い位置の頭に伸ばす。触れた髪は人工物めいた手触りで、こんな所にも狂人と常人の違いが出るのかと、場違いだがおかしく思った。
「ごめんな」
何に対する謝罪なのかは、自分でもわからなかった。わたしの声を受けたミミズクの表情が、更にくしゃりと歪む。
慰めたかったはずなんだけど、失敗したみたいだ。
とにかく、続けてもミミズクの害にしかならない話題をやめようと、体の良い話題を探す。けれど、そんな、機械人形との差し支えない日常会話なんて、ストックはないわけで、
「合同活動解消は、いつから?」
「…今日カラデス」
結局、事務的な会話、それも元の話題から離れていない会話になってしまった。
と言うか、わたしは何も聞いてないのに、今日から適用か。それだけ本気で危機感を持たれた、と言うことだろうか。
どんよりとした空気を漂わせるミミズクに、困ってまた自分の髪を掻き混ぜる。
「あー…、合同で活動しなくなるっつっても、同じ前線配備だろ?生きてりゃ、また会うこともあるよ。な?わたしが教えられたことなんかロクなもんじゃないだろうけど、精々活かして生き残れよ」
「私ガ生キ残ッテモ、アナタガ生キ残ラナケレバ、意味ナンテ、」
「だぁっ!なんでそう、悲観的に考えるかな?言っとくけどな、わたしはオマエらより、十何年も長生きしてんだよ。兵士として生きた年数だって、数倍は長い。戦争奴隷の平均生存年数、知ってるか?ほんとなら、とうの昔に死んでておかしくないんだ、わたしは。それを、こんな長々生き残ってんだから、そんだけしぶといってことだろ?そう簡単に、死んだりしない」
両手を伸ばしてがしがしとミミズクの頭を撫でて、きっぱりと言う。
自分でも、ちっとも信じてないことだった。わたしが生き残ってるのは悪運と性能のお陰だとも思うが、それ以上に、意識的に殺されようとされてなかったからに過ぎないだろう。つまり、上がわたしを処分しようとすれば、簡単にわたしなんか消されてしまうと言うことだ。
しかもそれを、わたしは当然のように受け入れていて。
φたちやミミズクよりも、わたしの方がよっぽど、機械みたいじゃないか。
浮かびそうになった表情を、ふてぶてしく見えるであろう笑みで上書きする。
ミミズクとは経験が違うんだ。裏に勘付かせたりしない。
わたしの所為でぼさばさになったミミズクの頭を、笑って叩く。
「オマエはわたしの心配なんざしてる場合じゃないだろうに。もう、力不足を補ってやれる奴はいないんだからな。頑張れよ?」
「…ハイ」
視線を落としてどこか納得しきれていないようすのミミズクに、駄目押しとばかりに付け足す。
「オマエの指揮能力だって、わたしの指導手腕として、評価されるかも知れないだろ?」
上がった顔に笑みを向け、頷く。
重く聞こえないように、出来るだけ軽く。
「ま、オマエなら大丈夫だろ。じゃあな」
戦場での最後の会話なんて、湿っぽくない方が、良いんだから。
最後にようやくお互いに笑みを浮かべて、わたしとミミズクは手を振って別れた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
大変申し訳ないのですが
先の展開に詰まった腹いせに脱線して閑話を書いてしまったので
次話から三話がまた閑話になります
お話が進まなくて済みません
次の閑話は作者の好みによる人選ですが
お前誰なストーk…げふん、恋する青年視点ではなく
ちゃんと準レギュラーくらいで登場している人物視点のお話ですので
多少は本編の補填になるんじゃないかなと思います
本編飛び飛びの更新になってしまって申し訳ありませんが
続きも読んで頂けると嬉しいです




