第三話 機械の少女
会話なしの説明回です
機械人形、それも戦闘用殺戮機械人形と聞くと、大抵の人間は冷たく硬質なイメージを抱くらしい。
だからみんな、実際にソレらに出会って触れると仰天する。
機械の身体を形作る硬い骨格や、行動を司る精密部に加わる衝撃を減らすため、機体を覆う最外部は柔らかい。外殻はひとの表皮に似せられ、触れた機械人形の身体の感触は鍛え上げられたひとの身体とさしたる違いは見付けられない。その上に、基部の熱を逃がすために外部に循環されている循環液のお陰で、その最外部は人の肌と同じように温かいんだ。
しかも―
機械人形に黒子や皺があるなんて聞いたら、驚くだろうか。
時にひとの振りをさせられ敵を騙すのにも使われるカレらは、一体一体外見も声も変えられて、一見すると人間と区別がつかないほど精巧に人間に似せられている。
ひとのように涙を湛えた瞳は瞳孔を収縮させるし視線も動き、まばたきまでする。呼吸で胸は上下するし、口の中は濡れて良く動く舌も使い道のない歯もある。
わたしはひととアレらを見間違いやしないけれど、他の戦争奴隷なんかは結構間違っている。敵方も、レントゲンやら何やら使わないと、区別出来ないらしい。
全く、世も末だ。
魂もない無機物と、生きものの区別が付かないなんて。
世も末。わたしを取り巻く世界を示すのに、これほど適した言葉もないと思う。
気が付けばひとりで、野良犬のように生きていた。
長年の戦争で国は荒み、ガキが生きるには些かどころでなく厳しい世の中だった。
それでも生きる意味も理解せず生き続け、苦しみつつもようやっと解放されると思って目を閉じたのに、目が覚めれば見知らぬ研究室。
何が琴線に触れたのか天才の名を恣にする狂った男に目を付けられたのが運の尽き。
狂人の手で余す所ないほどに改造されたのちに、軍用に使い易くカスタムされた身体は、最早ひとより機械に近い。
機械工学の発達したこの国でも、わたしほどに機械化された人間は珍しいだろう。まあ、酷いともう脳だけ残して機械化されてたりするから、最も機械化された人間には、ほど遠いけど。
そうしてもう、意味さえも失ったような戦争の、駒として生き長らえている。
共に戦争奴隷となった仲間すら多く失い、今では気味の悪い機械人形に囲まれて。
多くの同胞たちや、無慈悲な機械の攻撃に紛れて、どれほどの人間を殺したかわからない。
兵士ならば、いや、戦場にいるならなんだろうと関係なく、女も、子供も、数えきれないほど殺した。
どれほど少なく見積もったって、今更良い子ぶって数人逃がしてもなんの免罪符にもならないような人数なのは確かだ。
凄惨な泥試合と化した戦争の中、戦争奴隷としてそれなりの年数を生き残ってるんだ。業の深さも窺えようと言うものだ。
戦場に立てば、脳に埋め込まれたチップが命じる。目の前の敵を殲滅せよと。
ろくに教育も訓練も受けてない身体が、チップに刷り込まれたデータのもとに最適化した行動を取らされる。
そこに、わたしの意思なんてない。上の命令ひとつ逆らうのも、命懸けなんだから。
偉そうに人間と機械は違うなんて言っても、考えればわからなくなる。
人間扱いされない戦争奴隷で、しかも機械化され、埋め込まれたデータに動かされるわたしは、人間と言えるのか。
機械人形を嫌うのは同族嫌悪を覚えているだけで、本当はわたしにだってこころなんてないんじゃないか?
わたしは人間か。それとも機械か。
わたしにこころは、意思はあるのか。
普通の人間なら当たり前に答えられるはずの問いに、わたしはどうしても答えられずにいた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
三話目なのに主人公の名前出てないって…
次話で主人公の名前が判明しますので
続きも読んで頂けると嬉しいです