閑話3 赤い髪の天使 3 (―――視点)
赤い髪の天使 3
彼のお話はひと段落で
次話はaちゃん視点のお話に戻ります
ぼくの不安をよそに、彼女はそれからも姿を見せ続けてくれた。
見ている男の存在も、勝手に心配されていることも気付かず、土に汚れながら仲間のパーツを埋め、泣きながらレクイエムを歌って去る。
彼女に出会わない期間が長く続けば不安で気を揉み、姿が見られれば涙が滲むほどに安堵する。
名前も知らない、敵国の兵士相手だと言うのに、まるで恋する乙女のような行動だった。彼女を救う努力もしないくせに、勝手に気持ちだけ抱いて。
言葉は覚えても、彼女はいつもひとりだったから、彼女の名前を知ることはないだろうと思っていた。
天使がレクイエム以外を歌った、あの日までは。
崖の中から響くアリアに、ぼくは驚いて崖の端へ駆け寄った。
見えたのはいつも通り泣きながら歌う彼女と、30人ほどの兵士。彼女も天使かと思うほどの容姿だったが、彼女を囲う兵士たちも、きらきらしいほど整った顔ばかりだった。
服装が軍服でなかったら、本当に天使の集団にでも出会ったかと思っただろう。
思わず目を奪われたぼくはしかし、次の瞬間には見たことを後悔させられた。
「―っ!?」
歌う彼女以外の全員が、一斉にこちらを向いたのだ。
驚嘆か恐怖か、心臓がぎゅうっと縮む。
望遠鏡を取り落としそうになって、慌てて抱え込んだ。彼らの方はとても、見られなかった。
心臓が破裂しそうな勢いで鼓動を打ち、一瞬で血の気が下がり、身体中からどっと汗が溢れた。乱れた呼吸をなだめるのにかかった時間は、数秒か数時間か。
死すら覚悟して上げた視線の先で、けれどすでに誰ひとりこちらを向くものはいなくなっていた。
敵意がないと見逃されたか、攻撃されても問題ないと見なされたか、歌い終えた彼女の方に気を取られたか。
明らかに、最後の理由だろう。
彼女を見る兵士たちの視線には、紛れもない恋情がこもっていると感じた。
名前も知らぬ彼女に奪われたぼくの心が、そう見せるだけかも知れないけれど。
「アト、どうして泣いているのですか?」
「嬉しがってるように、見えるか?」
天使はアトと言う名前なのかとか、天使と普通に会話を交わせる兵士たちが羨ましいとかも思ったが、何よりそんな不躾な問いを投げる男に憤った。いくら顔が良くても、言って良いことと悪いことがあるだろう。
けれどそんな憤りは、続く会話で綺麗に驚きへと塗り替えられた。
「人の感情と言う物は、わたしには不可解です」
「わたしが壊れても」
「機械だからって」
会話の端々から読み取れる、その意味は。
「―――」
声を上げないようにするので、やっとだった。
瞬きし、首を傾げ、会話をする。髪は風に柔らかくなびき、視線に合わせて瞳が動き、赤い唇から声が漏れる。
あれが、機械人形?
あり得ない。だって、どう見ても人間にしか、見えないのに。
あそこにいる、彼女以外全員が、機械だって、言うのか?人ではなく、作り物の人形だって?
「ごめんなさい、アト」
愛しくて仕方がないとでも言いたげに天使を抱き寄せ、苦悩と懺悔の滲む声を出すあれが、造られた偽物だって言うのか?
信じられない。そんな、こと。
敵国の技術も凄いのだろう。あの外見や動きは、とてつもなく高水準の技術の粋のはずだ。
でも、それだけとは思えない。
だって、あれは、本当に意思を持って、動いているように見える。
彼女は本当に天使で、機械にすら心を与えてしまったのではないだろうか?
知り合いに知られれば何を馬鹿なと笑われるような疑惑を、そのときのぼくは本気で抱いていた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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