閑話1 赤い髪の天使 1 (―――視点)
赤い髪の天使 1~3
閑話の上に一話の文字数少ないですごめんなさい
本編未登場キャラの一人称になってます
お読みにならなくても本編を読む上での支障はないと思います
その場所は、ぼくにとって憩いの場所だった。
四方を切り立った崖に囲まれた、1 haほどの花畑。敵対する国双方にとって利点のない立地が幸いしてか、国境だと言うのに戦地には決してならない場所。
悲惨な戦争を続ける国同士の国境だと言うことが、信じられないくらいに平和な風景が広がる、まるで桃源郷のような場所だった。
崖が険し過ぎて、花畑に踏み込めはしない。いつも崖の上から眺めるだけ。
それでも、いや、立ち入ることが不可能だからこそ、その場所はぼくにとって特別な場所であり続けた。
疲れたとき、落ち込んだとき、何もかもが嫌になったとき。いくら心が荒んだときでも、ひとに荒らされない自然の姿は、ぼくを慰めてくれた。
休日に足を延ばしてやって来て、ひとり、崖の端に座って、何をするでもなくぼんやりと真下に広がる光景を眺める。
それだけだったはずの行為が変わったのは、いつからだっただろう。
明確に違いをもたらした、とある出来事。
ひとなど立ち入れないはずの崖下から、ある日歌声が聞こえたのだ。
そのことは初め、ひどくぼくを驚かせた。
だって今までそこで人に出会ったことはなかったし、そもそもその崖の狭間の地に、人間が入り込むなんて、無謀だと思っていたから。高い切り立った崖なのだ。ところどころ尖った岩が張り出していて、ぶつかればひとたまりもないだろうし、いくら下が草地でも落ちれば死ぬ。
そんな所に人なんて、入れるはずがないのだ。
気付かれないかと恐れつつ、それでも好奇心に負けて覗き込んだ崖の中。
真っ赤な髪の天使が、涙に頬を濡らして歌っていた。
聞き覚えのあるメロディに、聞き覚えのない歌詞。
言葉と服装から彼女が天使なんかじゃなく敵国の兵だと気付いても、目を離せなかった。
元は交流の深い国同士で、同じ国に属したことさえあった相手。言語こそ異なっているけれど、文化にはいくつもの類似性があって。
だからこうして、同じ曲がそれぞれの国の言葉で歌詞を付けられ歌われている。
敵国の言葉はわからない。けれど、とても美しく、それでいて胸を裂かれたかと思うほどに悲しみに溢れた歌声だった。
言葉なんて通じなくても、こんなにも気持ちは伝わるものなのかと、衝撃を受けた。
単なる、敵国人、と言う遠い世界のものだと思い込んでいた存在が、突然目の前に、血肉を持って現れた。
敵だろうが、なんだろうが、同じ人間なのだと、今更痛感した。
なんで、同じ人間が、殺し合っているのだろう。
それはきっと、もっと早く気付くべきだった疑問。
学校ではたしかに他人を傷付けてはいけないと習ったはずなのに、抱くことのなかった疑問。
ひとを傷付けてはいけないなら、なぜ戦争は許されるのか。ひとを傷付けてはいけないと言うのなら、なぜ戦争など起こすのか。
当たり前に気付くべき疑問を、赤い髪の天使はその歌声だけで、気付かせてくれた。
薄汚れた軍服に、真っ赤な蓬髪。愛らしい顔立ちに、美しくも悲しい歌声。
思えばきっと、ひと目惚れだったのだろう。
憩いの場所に現れた、心を乱す存在。
その日から花畑を訪れるたび、ぼくは赤い髪の天使を探すようになっていた。
名前も知らない、長年母国と敵対する国の、兵士を。
その皮肉さも自分の立場も彼女の立場も、全部に目を瞑って、ぼくはただ愛らしい姿と美しい歌声に、心を奪われていた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
続きも読んで頂けると嬉しいです




