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第二十六話 機械人形に捧げる歌

 

 

 

 ICチップを土に埋めて、土まみれの手のまま響かせたのはアリア。

 魂なき機械人形に、レクイエムは似合わない。歌さえ意味を持つかわからない。なんの役にも立たない涙は、溢れるに任せた。

 

 「ドウシテ、泣クノデスカ?」

 

 歌い終わるのも待たずに、θ(シータ)が問うて来た。無視して歌い続ける。

 

 まともに音楽を聞いたことのないわたしの歌なんか、きっと聞けたもんじゃない。

 でも、アイツはわたしの歌を聞いて、綺麗だと笑ったから。

 

 別れの歌くらい、ちゃんと歌いきってやりたかった。

 

 「(アト)?」

 

 更に問う声に目を閉じた。わたしが知る中で最も長い歌曲だ。最後まで歌いきるには時間が掛るが、終わるまで返事はしない。

 

 わたしが指揮官になってからの第18小隊は総勢28名で、うち人間はわたしだけ。今まで増えることも欠けることもなかった隊員が、今回初めて欠けた。

 

 「馬鹿じゃないか…」

 

 歌い終えたわたしはぽつりと呟いた。

 要人ならともかく、戦争奴隷を助けた所で意味などない。戦争奴隷ひとりより機械人形一体の方が何倍も役に立つからだ。

 

 「馬鹿ヤロウが…」

 

 なのにφ(ファイ)はわたしを庇って壊れた。飛んで逃げれば良かった所を、炎に呑まれたわたしの許までわざわざ助けに降りて来て。持っていた冷却液は、恐らく全てわたしに流し込んだんだろう。あのときのφの身体は、明らかにオーバーヒートを起こしていた。だから、飛んで逃げることも出来なくなってたんだ。

 

 作戦によってはひとを守れと命じられていることもある。しかし、最近の作戦ではそんなこと命じられていなかった。ミミズクの警告を受けて、しっかり釘も刺しておいたはずだ。

 だからφは命令にいつして犬壊れしたポンコツ機械人形なんだ。つまり、ただの馬鹿でしかない。

 

 何が苛立つって、壊れぎわに笑っていたことが何より神経を逆撫でしたんだ。

 馬鹿やって壊れて何が嬉しいんだ馬鹿が。

 

 「っ…く」

 

 止まらない涙がもどかしい。機械人形が一体壊れただけだ。泣くなんて馬鹿げてる。

 機械人形はいきものじゃないはず。それなのにひとのように見えるから、こころがあるように感じさせるから、だから機械人形は嫌いなんだ。

 

 あんな、風に、最後に、馬鹿なこと言い残したりして。

 

 「a?ドウシテ泣イテイルノデスカ?」

 「嬉しがってるように見えるか?」

 

 頷いたらぶん殴ってやろうと言う心持ちで聞く。θは首を傾げた。

 

 「ワカリマセン。ヒトノ感情ト言ウ物ハ、ワタシニハ不可解デス」

 

 力が抜けた。φと言いθと言い、機械人形はあんまりにも社会生活不適応のきらいが強過ぎる。

 

 「…何で泣いてるかなんて、わたしだって知りたいよ」

 

 少なくとも嬉しくないのはわかっているが、悲しいのか哀しいのか悔しいのか苦しいのか痛いのか腹立たしいのか。ぐちゃぐちゃだ。

 涙は勝手に流れてくる。自分じゃどうにもならない。

 

 それは、頭で機械にこころなんてないと、必死に否定しながら、身体はとうにφをこころある掛け替えのない存在だと、認めてしまっているようで。

 

 俯いて涙を拭うわたしに、θはぽつりと問うて来た。

 

 「ワタシガ、壊レテモ、aハソウシテ、泣イテクレマスカ?」

 

 目を見開いて顔を上げたわたしの目から、涙は止まらず溢れ続ける。

 

 θが、壊れたら?

 

 わたしは、今のように、泣くだろうか。

 

 「…泣いて、欲しいのか?」

 「…ワカリマセン。ケレド…、ソウ、デスネ。アナタガ泣イテクレルナラ、壊レテモ悔イハ、ナイカモ知レマセン」

 

 答えたθの胸を殴る。

 

 涙が止まらないままで恰好は付かないが、険しい顔で周りの機械たちを睨め回した。

 

 「オマエらが生きてる今は、φが願って叶わなかったものなんだ。馬鹿言うんじゃない。機械だからって、簡単に壊れても良いなんて言うな」

 

 わたしが言うには不似合い過ぎる台詞だ。

 かく言うわたしこそ常に、自分の死を願ってるんだから。

 

 でも、勝手だけど、目の前の機械人形たちには、そんなこと言って欲しくなかった。カレらの役目が、国のために戦って散ることだとしても。

 

 「…壊れないで、くれよ」

 

 呟いた声は弱々しく、懇願するような響きを持っていた。機械人形相手に何を馬鹿なと、頭のどこかで自嘲する。

 

 この国はものを大切ににしない。

 ひとも機械もだ。

 

 いのちは軽く、簡単に捨てられてしまう。

 喩えわたしが死んだとして、悲しむ者はいないのだろう。墓もなく、辛うじて記録には残るかも知れないが、記憶に遺ることはなく、ひとり、あるいは機械人形や敵兵たちに埋もれて、醜いまま死んで行くんだ。ひととしてではない、道具、として。

 

 自分を哀れむ気にはならなかった。

 道具で構わないと、既に諦めているのかも知れない。やっと死ねるならなんでも良いと、むしろそれを望んでいるのかも知れない。

 けれど、他の奴隷たちや初めからそうした目的で造られた機械人形たちが道具として扱われることは、無性に悲しく言いようもなく虚しかった。

 

 θは目を見開き、恐る恐る手を伸ばすと、何を思ったかわたしを抱き締めた。

 θの服に、わたしの涙が沁み込む。

 

 「ゴメンナサイ、a」

 

 θが何に謝ったのか、わたしには理解できなかった。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


実はこの先の展開がまだ固まっていなくて

展開を考える間のワンクッションとして

閑話を三話ほど入れさせて下さいm(__)m


もしかすると閑話後の続きの投稿に日数が空いてしまうかも知れないです

済みません


日刊でなくなっても必ず完結はさせますので

続きも読んで頂けるとありがたいです

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