第二十五話 遺体のない墓
戦争奴隷に墓はない。火葬なんかしてやるくらいならごみと一緒に焼却炉に入れてしまった方が楽だし、迂濶に土葬して科学機密の粋を産業スパイにでも盗まれたら洒落にならない。上の奴らにとっちゃ戦争奴隷は人間じゃないんだから、人間並に扱ってやる必要はないんだ。
価値はともかく生まれは人間の奴隷すらその扱いなのに、あに機械人形の葬儀をせんや、だ。
θに運ばれて戦場から帰還するなりわたしは狂った天才に捕まえられ、強制的に狂人自らの手でメンテナンスとブラッシュアップを行われた。
戦場から抱え続けていたφは問答無用で奪い去られ、わたしがメンテナンスで寝ている間にばらばらに解体され、再利用可能な部品はストックされ、それ以外はスクラップにされたそうだ。わたしがこっそりくすねたパーツ、どうやらICチップの欠片らしいものを除いては。
勝ったあとの戦場で殲滅した敵を掘り返して、死んだ仲間の欠片を一片残らず掻き集めるのは何も感傷のためじゃない。蛆虫みたいに湧いて出る汚らしい戦場荒らし共に、国の技術を奪われないためだ。
これは植え付けられたわたしたちの義務。
戦いの理由すら教えられないのに、こんな知識ばかり大量に刷り込まれている。
研究狂いのメンテナンスから生還したわたしの報告を聞いて、たこ技師は溶けて用を為さなくなったICチップの欠片を握るわたしへ、どこからくすねたかφのドッグタグを押し付けた。φのためだと言って渡されたそれを、わたしは途方に暮れて眺めた。
その上、顔見知りの奴隷が死んだときと同じように、いちにち休みを与えられて。
どうしろって言うんだ。
困った挙句、今わたしの首にはドッグタグがふたつ。書かれた個体呼名はφとa。そしてICチップの欠片は、埋めてやることにした。
今までもやって来たことだ。墓のない仲間たちの一部を掠め取り、いつでも訪れられる場所に埋める。下らない自己満足だ。φのためなんて、たこ技師が余計なことを言うから戸惑っただけで。
いつも埋める場所はとある草地。戦場なんか知らない娘が見たら花畑と表現するらしいが、わたしには花も草も関係ない。
ただ、戦争開始時から変わらず敵対二国の国境上に位置すると言うこの場所は、この国にも相手国にも不利益ばかりの地形で、奪い合うには面倒な上奪い合う意味もなく、立地上まず戦場として選ばれない、と言うだけの理由で選んだ場所だ。
普段ならひとりで走り行く所を、今日はぞろぞろと付いて来るヤツらがいた。
「…なんで付いて来るんだよ」
たまたま先頭にいたθを睨んで問う。
「ギム博士ガ、気ニナルナラ付イテ行クト良イト」
あの、たこ技師が。
「それでのこのこ付いて来た訳か。何が目的だよ、監視でも命じられたか?」
「違イマス。イツモaガドコニ行クノカ、気ニナッテイタカラ」
「なんで」
戦闘用殺戮機械人形に、こころも意思もないだろうに。
そう、だよな?
断言出来る自信なんて、一切消え去っていた。
「アナタノコトヲ、知リタカッタノデス」
答えたθの援護をするように、他の機械人形たちも口を開く。
「aノコトハ、ワカラナイカラ」
「理解出来ナイ行動ガ多イ」
「aハ、不思議デス」
口々に言われた言葉にわたしは顔をしかめた。
「なんだよそれ。厭味かよ」
苛々して撒いてやろうかと思ったが、どうせ無理なのに体力を浪費するのが馬鹿らしくなってやめた。
「まぁ良い。関係ない。勝手にしろ」
所詮やることは穴を掘って埋めるだけだ。コイツらには意味など一片たりとも理解出来ないだろう。
理解出来ない、はずだ。
「アリガトウゴザイマス」
嬉しげに微笑んだθに、やっぱり断言は出来なくなって、
「…付いて来れなくても、知らないからな」
複雑な気持ちを押し隠すみたいにぶっきらぼうに吐き捨てると、あとはカレらを顧みずに、無言で走り出した。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
え、地理関係どうなってるの?と思われた方いらっしゃったら
本っ当に済みません
作者の頭の中にもはっきりとした地図はありません←
おぼろけに、こんな感じと言うイメージで書いています
…地理把握能力皆無の作者ですごめんなさい
地理が死んでる作者の作品ですが
見捨てず続きも読んで頂けると嬉しいです




