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第二十四話 いのちの代償 3

いのちの代償、完結編

aちゃん視点に戻っています


戦闘事後の描写です

流血等ありますので苦手な方はご注意下さい

 

 

 

 気が付けば周囲の火が消え、わたしは完全に活動を止めたφ(ファイ)の前に呆然と座り込んでいた。


 周囲に火が掛けられて、敵の思惑に気付いた。機械人形や機械化奴隷の防御装置は、稼動による熱を逃さなければならないため、あえて熱は遮断しないように作られている。その弱点がばれ、利用されたのだろう。前もって油でも撒かれていたのか、火の手は異様に強かった。…侵略するのは良いが、事前調査をする程度の知恵もないから、こう馬鹿みたいに敵の策にはまるんだ。

 慌てて飛行兵に飛翔と冷却液の使用を命じて、自分は炎に飲まれた。運悪く促成栽培の戦争奴隷が過半数を占める戦線で、火種となるひとの身体に囲まれて、オーバーヒートを起こしかけたわたしの元にφが駆け付け、自分の持っていた冷却液を無理矢理わたしに流し込んだ。その後、足を止めていたわたしたちに向けて大火力の砲撃が放たれ、φがわたしを庇って壊れて。


 そのあとの、記憶がない。


 いつかの、そう、わたしの初戦だった第二次ベルヴィストク会戦のときと、そっくりな状況。あのときも唐突に意識が途切れ、気付けば敵の消えた戦場に立っていた。

 あのときと違いがあるとすれば、今は後陣は存在せず、代わりに周囲に生き残った兵が大量にいることか。

 街攻めの経験で飛行兵の重要性が叫ばれ、機械人形全てに重力低減装置の搭載が義務付けられたのだ。幸いにもと言うべきか、皮肉にもと言うべきか、人間はほぼ死滅した戦場で、機械人形の被害は皆無のようだ。


 目の前で横たわる、φを覗いては。


 「…っけほっ」


 漏れた咳には血が混じっていた。身体中が痛い。手足が今にも崩壊しそうだった。

 これも、第二次ベルヴィストク会戦のあとと、同じ状態。


 身体がだるくて、立ち上がる、気力もない。


 状況を確認して、指示を出さないといけない、のに。


 「げほっ、こほっ、ごほこほっ」


 咳き込んで血を吐き、ぜいぜいと荒く息を吐く。這いずってφににじり寄り、ぼろぼろの身体に触れる。


 「けほっ…んで、わらっ、てんだ…こほっ、ばかっ…」


 『アナタガ無事デ、良カッタ』


 満足そうな笑みを浮かべるφを、力の入らない手で叩く。反応はない。当たり前だ。死んでるんだから。


 死んでる?違う。コレは、ひとじゃない。

 壊れてる、だけ。


 ほんとうに?


 『私ハ、モット生キタイ』

 『(アト)、愛シテイマス』

 『アナタト、モット、ズット、一緒ニ、生キタカッタ』


 誰かを愛しいと思い、誰かと生きたいと願う、なんて。

 身を挺して愛するものを守り、それで自分が壊れても相手の無事を喜ぶ、なんて。

 そんなの、わたしよりずっと、人間らしいじゃないか。


 誰かを愛するなんて、こころあるものにしか、出来ないことなんだから。


 φから零れたパーツを拾って、ポケットにねじ込んだ。

 φの身体を一度抱き締めてから、立ち上がる。

 ズタ袋を取り出し、ネジひとつ残さずφの身体を拾い集める。同じような作業が、あちこちで進められているはずだ。と言っても、黒こげの促成栽培児たちは無視され、集められるのは敵味方問わずの武器ばかりだろうが。あとは、時折混じる機械化奴隷のパーツか。


 身体はどこもかしこも痛くて仕方ないが、不思議と怪我はなく。咳き込めば出るのは血だが、倒れるほどでもない。


 φの身体を集め終えてかつぐ。武器拾いに混じろうと歩き始めた。


 意識が飛んだ後遺症か、現状に現実味がない。


 「ひっ…!」


 偶然近付いたのは戦争奴隷の飛行兵だったらしい。見慣れない顔。かの機械化人間狂いは、まだ奴隷の機械化を続けているのか。


 「…化け物っ」


 恐怖に彩られた顔で呟かれた言葉の、意味を理解する余裕もない。


 …わたしの初戦と言われる第二次ベルヴィストク会戦だが、正直ろくに記憶が残ってない。戦線が劣勢に追い込まれ、周りの兵が死んでいくなか、わたしだけ防御装置で無事で、けれど近付いて来る敵兵に囲まれ、ああようやく死ねるんだなと思った。そこで、今日のように意識が途切れてるから。気付けば前線には敵味方含めて生存者がいなくなってて、わたしだけぽつんとひとり突っ立ってた。

 わたしが殺したんだなんて、思いもしなかった。

 そんな馬鹿なって、笑い飛ばそうとした。


 だって人間がたったひとりで、十万を超える兵を殺せるなんて思えないだろ?


 『君が多くの命を救ったんだよ』

 『あなたが殺したんでしょうね。生命危機に瀕した場合自己防衛プログラムが発動するように、設定してありますから』


 ふたりの博士が、否定を許さなかった。


 死にかけると勝手に動き出して、周囲の敵を全滅させるプログラム、だそうだ。

 詳しい戦い方は知らないが、事後の身体的損傷具合を見るに、知って楽しいことにはなってないだろう。

 強化された身体ですらついて行けないような動きで敵を薙ぎ倒す、自我の消えた存在。そんなの、人間じゃ、ない。


 きっと今日もわたしは、人外の動きで殺戮の限りを行ったんだろう。

 化け物以外の、何に見えると言うんだろう。


 「…心配しなくても、敵じゃないなら殺さない」


 笑みを浮かべる余力もない顔でそれだけ言い、その機械化奴隷から離れる。

 戦場は広い。わざわざ味方を怯えさせる必要もない。


 「a」


 機械の声に振り向く。


 「怪我ハアリマセンカ?」


 振り向いた先にいたのはθ(シータ)で、その周囲にいるはずのない存在を捜してしまう自分に嘲笑を浮かべた。


 「a…?」


 機械の手が、頬に触れる。

 頬をなぞったθの指を、透明な雫が伝った。


 「ドコカ、痛ムノデスカ?」

 「…うん」


 痛むのかと訊かれれば、身体中が痛い。辛いのかと訊かれれば、目を開いているのすら辛い。

 θは微かに首を傾げると、暫し目を閉じた。


 「怪我ヲ?」

 「怪我はないよ。たぶん」

 「オーバーワークデスカ?」

 「たぶんな」


 息を吐きつつ腰を折り、足元の壊れた機械を拾う。味方の、銃器らしきものだ。

 起き上がろうとしたわたしの腰を、θが抱えた。


 「なに?」


 抗う元気はなかった。


 θがわたしの通信機を指差す。


 「アナタニ、帰還命令デス。第18小隊ノ指揮ヲGN-003329番ニ預ケ、タダチニ“飛ンデ”、基地ニ帰還セヨト」

 「わたしは、飛べないけど」

 「ワタシガ運ビマス」


 有無も言わせずθは飛び上がった。手から拾った銃が滑り落ちたが、φの残骸の入ったズタ袋は手放さなかった。

 片手で袋の口を握り締め、両手でしっかりと抱え込む。

 がしゃりと、金属のぶつかり合う音がした。


 ひとの死体からは、聞こえないであろう音。


 「…彼ナラバ、直セルト思イマスヨ」

 「だろうね」


 狂人と呼ばれる、天才科学者。

 やつなら例えば、顔も身体付きも判別つかないほどにぐちゃぐちゃの死体を持ち込んだとしても、そっくりな機械人形を造り上げて見せるだろう。もとはひとでもそっくりを造れるなら、いわんや自分の造った機械人形をや、だ。


 でも、それは、


 「でも、直っても、治らないんなら、意味がないから」


 いくらそっくりでも、死んだ“誰か”じゃない。

 だって、死んだ誰かのたましいは消えてしまって、誰かのこころは二度と戻らないから。そっくりでも、同じには、ならない。


 ぎりり、と。知らず入った力が音を立てさせたのは、果たして抱いたφの身体が、それとも袋を抱く腕か。


 零れ落ちる涙を、θはきっと痛みのためだと思ってくれるだろう。


 いまだぼんやりと現実味のない意識のくせに、まるで喪われたこころを嘆くかのように溢れ続ける涙の意味を、自分でも考えたくなくて、わたしは袋に顔をうずめた。


 助けられたいのちの代償に、痛むのは身体か、こころか。


 空飛ぶθの動きは、いつか走るφに抱かれて運ばれたときより遥かに振動が少なく、休息を求める身体はしかし、抱えた袋を落とすことを恐れて、目を閉じてもちらと眠気が訪れることもなかった。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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