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第二十一話 警告

 

 

 

 街殲滅戦から、暫くののち。

 

 「(アト)

 

 訓練後に呼ばれて振り向けば、ミミズクがわたしを見下ろしていた。

 

 ミミズクたちと合同で活動し始めて既にふた月。増えた隊員にも見慣れぬ機械人形にも、好い加減慣れてきた。

 ミミズクの指揮は問題なく、とっとと合同を解除して欲しいと、たこ技師に愚痴るようになっていた。そもそもわたしに務まるんだから、機械に指揮官が出来たっておかしくないことのはずだ。

 

 立ち止まったわたしに合わせて、並んで歩いていたφ(ファイ)θ(シータ)が立ち止まる。

 その2体をちらりと見遣って、ミミズクがわたしに言う。

 

 「アナタガタノ隊ハ、オカシイデス」

 

 ミミズクの言葉に何かおかしなことをしていただろうかと、記憶を探る。

 生憎と、思い付くことはなかった。

 

 「おかしいって、何がだ?」

 

 首を傾げて訊ねれば、ミミズクはまたφとθを見た。

 

 「アナタノ隊ノ機械人形ハ、勝手ナ行動ガ多過ギマス。作戦中ノ無駄モ、多イ」

 

 表情に乏しいミミズクの声は、淡々と事実を伝えた。

 感情のない目でわたしを見据えて、告げる。

 

 「a、アナタヲ守ルタメノ行動デス」

 

 反論は、出来なかった。確かにφたちはわたしを保護しようと動き、それは命令にない勝手で無駄な行動だから。

 何も言えないわたしに向けて、ミミズクは言葉を続ける。

 

 「アナタハ非戦闘員デモ重要ナ指揮官デモナイハズ。自分デ戦ウ能力ヲ持ッタ、戦闘員ノハズデス。ソノアナタヲ守ルタメニ、他ノ隊員ガ作戦中ニ不必要ナ行動ヲ取ルノハ、オカシイデス。違反行為ト判断サレテモ、オカシクナイ行動デスヨ」

 「…そうだな」

 

 それ以外に言いようはなかった。わたしの命令じゃない。たこ技師に異常行動として再三報告してある。どんな言い訳をしても、現状のわたしがその扱いに甘んじているのは否定のしようもないのだから。

 

 「違イマス。aノ責任デハ」

 「ワタシタチガ、勝手ニ、」

 「φ、θ、そう言う話じゃないんだ」

 「隊員ノ勝手ナ行動ダトシテモ、部下ノミスナラ指揮官ガ責任ヲ追及サレマス。aハ、戦争奴隷デスカラ」

 

 口を挟もうとしたφとθの言葉を遮れば、言葉を継いだミミズクが言う。

 

 「…私ハ、報告ヲ怠レマセン。デスカラ、アナタ自身ガ気ヲ付ケテ下サイ」

 「なんで、警告を?」

 

 まるでほんとは違反報告なんかしたくないとでも言いたげな台詞に、思わず問い返す。

 無表情なミミズクの瞳が、わたしの顔を映した。

 

 「…アナタヲ守リタイト思ウ気持チハ、私ニモ理解出来マスカラ」

 「え…?」

 

 ミミズクの手が、わたしの頭を撫でた。

 らしくない行動に、目を見開く。

 

 「アナタハ、私タチ機械デモ、大切ニシテクレル。大切ニサレタラ、大切ニシテアゲタク、ナルモノナノデスネ」

 「わたしは別に、アンタたちを大切にしてなんか…」

 

 むしろ、機械人形なんてと、勝手に嫌ってるくらいなのに。

 大切にしてるように見えるとしたら、それはものが壊れるのが勿体ないと思ってるからだ。

 

 「アナタニソノ気ガナクテモ、私タチニトッテハ、信ジラレナイホドニ、大切ニサレテイルノデス。ワカリマスカ?60体近イ機械人形1体1体、余ス所ナク気ヲ配ッテ気二掛ケル指揮官ナンテ、他ニハイマセン。ソウデショウ?」

 

 最後の言葉はφたちに向けたもので、その答えは当然だと言いたげな頷きだった。

 

 「aハ、特別デス」

 

 機械人形が言う特別と言う言葉ほど、嘘臭い言葉もないはずなのに。

 ミミズクはφの言葉に頷くと、しかとφを見据えて言った。

 

 「デシタラ、aノ特別扱イハヤメルベキデス。作戦ニ支障ヲ来スと判断サレレバ、コノヒトハ排除サレカネナイノダカラ」

 「デモ」

 「aハ、ソウ簡単ニ壊レタリシナイ。ワカッテイルデショウ」

 

 φの反論を封じたミミズクは、わたしに目を戻してぎこちない微笑みを作った。

 

 「…アナタハ、不思議ナヒトデス。アナタガイルト、身体ノドコカニ火ガ灯ッタヨウナ気ガシマス」

 

 けれど、となけなしの笑みを消して続ける。

 

 「ソレハ機械人形トシテ、歓迎サレル変化デハナイ。デスカラドウカ、アナタガ齎ス変化ヲ、上ニ悟ラレナイデ下サイ」

 「…ああ。わかった」

 

 自分がそんな変化を与えられる人間だなんて、思えやしないけど。

 

 「忠告、ありがとな。ミミズク」

 「ドウイタシマシテ」

 

 無表情に戻ったミミズクは、それだけ言って何事もなかったかのように立ち去った。

 

 「なんか、ミミズクの方が指揮官らしいな」

 「aヨリ良イ指揮官ハイマセンヨ」

 「オマエは親馬鹿の母親か」

 

 φの賛辞に顔をしかめて吐き捨てる。

 わたしは良い指揮官なんかじゃない。わたしが良い指揮官らしく見えるとしたら、それは周りが駄目過ぎるだけだ。

 

 「ま、とにかく、オマエら好い加減命令違反はやめろよな。何度も言うけどオマエらに守られなきゃなんないほど、弱っちくねぇんだよ、どっかの狂人のお陰でな」

 「…ハイ」

 「善処シマス」

 「他のヤツらにも伝えとけよ?せっかくミミズクが警告してくれたんだから」

 

 少し不安の残る返事には目を瞑り、命じる。

 この警告はミミズクにとってもボーダーラインのはずだ。すべきでない警告と、判断される可能性もあるのだから。

 

 そこまでミミズクに認められていると、思っていなかった。

 そもそもたましいがないはずの、機械が自分の好みなんて…。

 

 …やっぱり、機械にもこころはあるのか?わたしが、気付いていないだけで?

 

 φを、θを、見上げる。


 前なら、迷わず言えたはずだった。機械人形に、こころなんてないと。

 

 けれど今、自分のこころの存在すら定かでないのに、自分以外のこころなんて、わかるはずもなかった。

 

 



拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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