第二十話 虚ろな戦争
戦場描写があります
苦手な方はご注意下さい
燃え上がる炎。響く泣き声。轟く爆音。視界が揺らぐほどの熱。
いったい、なにが、起きている?
呆けていたのは一瞬だった。
敵の非道さとか味方の被害とか、考えるのはあとで良い。
思わぬ攻撃に崩壊した戦線を立て直すべく、通信で指示を出し、更に声も張り上げる。
戦場では得てして、冷静さを失った方が敗北する。
「冷却液を所持しているものはありったけ使え。敵はこの地を放棄してる。飛べる奴は飛んで回避。それ以外は爆弾に注意して撤退しろ。敵国人も刃向う奴以外は無視して良い。とにかくこの地からの離脱を優先しろ。街を抜ければいくらでも巻き返せる、そのための戦力を無駄にするな。総員ただちに撤退しろ!繰り返す、総員ただちに撤退しろ!」
わたしの命令を第18小隊の飛行兵が拡散している。
その間も爆音は止まらないが、幸いなことに狂人は自分の造った兵の声をでかくするのが趣味だ。普段は抑えている声量を、全開にすれば爆音にすら勝る。
…痴漢に襲われたら相手の耳元で叫べとか言われたが、そもそもわたしとサシで勝てるのなんか機械人形くらいなのだ、狂人は誰がわたしを襲うと言うのか。流石狂人。意味がわかりたい。
今日の作戦は街攻めで、じりじりと敵国に侵攻していた自陣が、ついに敵の主要都市のひとつまで侵攻した所だった。街を守る兵がやけに弱っちいと思っていたらコレだ。街に一般人ががいたからまさかと思ったのに、糞野郎、街中に爆弾隠して街ひとつ生贄にしやがった。
この街を落とせても、拠点として使うなら爆弾処理必須な上に建物は全滅だろう。
作戦なんか知らなかったのか、街の住人の阿鼻叫喚の声が耳に響く。
「総員撤退しろ!繰り返す、住人は無視してただちに総員撤退しろ!!」
叫び声を掻き消すように命令を怒鳴り、炎の暑さに顔をしかめて辺りを伺う。
爆撃で吹き飛んだ高層建築が、下にいた機械人形を押し潰さんとしていた。
「っそ野郎!!」
銃弾を連射して瓦礫を散らす。
走り寄って確認した数体の機械人形は、明らかにオーバーヒートを起こしていた。
「GM-515891番、515907番、これ使ってコイツら連れて退避しろ」
持っていた冷却水の入ったボトルを数本2体に押し付ける。
「シカシ、」
「反論してる間があったら動け。飛行兵はこの街攻略の主戦力なんだ、みすみす潰せるか。ほら、行けっ!!」
反論しようとしたGM-515907番の頭をひっ叩いて命じる。
次の言葉は待たずに走り出した。
「焦らず周りを見ろ!これ以上の爆撃を、訓練で当てられてるだろうが。不意打ち程度で取り乱すな!総員退避!繰り返す、総員退避!焦らず街から離脱しろ!!こんな下らない策、ぶっ潰してやる!!」
そのあとも数体、オーバーヒートを起こした機械人形を逃がし、わたしが街を離脱したのはほぼ殿の位置だった。
熱と酸欠でふらふらしながら、残存した味方を見回す。負傷したものも含めて八、九割は生き残ったようだ。敵の策に完全に嵌った所からの撤退にしては、なかなか粘ったみたいだな。
薄く笑って、命じる。唯一冷静に動いたからか偉そうに命令したからか、他の隊の兵たちもわたしの命令を聞いてくれる気らしい。
「無事な飛行兵に命じる。建物はひとつも残さなくて良い。爆風や火災の熱の届かない高空から叩いて街を更地にしろ。どうせ建物はもう使えない。後処理を楽にしてしまえ。他の奴らは残って待機。無事な兵は伏兵の警戒と街からの逃走者の殲滅。誰が敵だかわからないからな。こちらに向かって来る奴はうちの兵以外全員殺せ。返事は」
「「「Aye-aye-sir!」」」
「よし、じゃあ行け。1、2、3、殲滅開始!!蹴散らせ!!」
残酷と言われようが、思い付く方法はそれしかなかった。
とにかく、この作戦は効かないのだとハッタリでも思い知らせなければ、おそらくまたこうして、犠牲にされる街が出る。ならば徹底的に叩き潰して、街ひとつ潰す価値のない作戦なのだと思わせなければ。
くらくらする頭で考え付く作戦がそれなんだから、わたしも大概非道な奴だ。
背後に立った兵士を、振り向かないまま呼ぶ。視界が揺れていようと目の前の地獄絵図から目は離せない。何かあった時、わたしが命令を出す必要があるから。
「…φ」
「aノ予測通リデシタ。街ノ外カラ飛行兵ヲ狙ッテイタ兵ニツイテハ、既ニ殲滅ヲ始メテイマス。マモナク、殲滅終了スルカト」
「そうか…」
二段構えの戦法だ。敵国の参謀は、こちらの国の上層部より賢いらしい。と言っても二番煎じを平気で使う辺り、タカは知れているが。
「a、コレヲ」
φが取り出したのは補給飲料と冷却水だった。
冷却水はありったけ使えと命じたはずだし、補給飲料に至っては、φには必要ないはずなのに。
「…んで、こんなもん持ってんだ」
「指揮官ノ欠ケハ士気ニ関ワリマスカラ」
「機械人形に士気なんざあるかよ」
強がってもめまいは治まらない。ふらりと揺らいだ身体をφに抱き留められ、口元に補給飲料のボトルをあてがわれた。拒否する気力もなく、与えられるまま喉へ流し込む。相変わらず温いが、回る視界を治めるには十分だった。されるがままで、冷却水の補給も受ける。
「少ナクトモ、私ノヤル気ハ落チマス。アマリ無理ハシナイデ下サイ」
「無理っつーか、単純な状況判断だろ?わたしは飛べなくて、街の破壊には役立たない。なら、物資は飛行兵の回復に回すべきだ。命令は、うちの隊とミミズクに伝えてあったからな」
起き上がろうとすると、φの腕に邪魔された。
「おい。離せ」
「…」
だんまりか。
「オマエも多少ヒートアップしてるだろ。暑いんだよ。離せ」
暑さを訴えるとやっと渋々解放される。
目の前では既に、ひとつの街が消えかかっていた。策を弄しても、力で策など叩き潰せる戦力差。
血と炎の臭いが、ここまで漂って来ている。
「こんなことに、なんの意味があるってんだろうな」
火達磨になりながら街を飛び出し、そのまま燃え尽きた人影を見るとはなしに見て、ぽつりと呟く。あれは今日、生き残るための判断に失敗したわたしの姿だ。上手く離脱出来ていなかったら、わたしもああして焼け死んでいた。
殺して殺されて、殺し合って。
それになんの意味があるんだ?そうしていったい、誰が得をするって言うんだ?
こんな戦いで荒れ果てた土地を手にして、何が出来る?
考えたって、わたしにはわかりゃしない。
小さく溜め息を吐いて、見晴らしの良くなった土地を見遣る。
「…あれじゃ、部品の回収も難しいか。逃げ遅れた兵に、悪いことしたな」
敵国の住民には、同情しない。
平気で国民を使い潰すような国に、住んでいたのは自分だ。生まれは選べなくても、育ちはある程度自由が利く。腐った国を腐ったまま放置し、その国にい続けたのは彼らだ。戦争奴隷と違って、彼らには逃げる手段も、あったはずなんだから。
わたしの命令で破壊の限りを尽くして帰って来た、機械人形たちを見渡す。
殺すためだけに造られた、空虚な機械。こころがない方が、彼らにとっては幸せなのかも知れない。
空ろな戦争で、壊すことだけ求められ、壊すためだけに生きて、いつか自分も壊される。そんな虚しい一生なら、こころなんてない方が空しさを感じなくて済む。
「おかえり。殲滅終了。ご苦労さん」
「「「Aye-aye-sir!」」」
「…策に嵌る前に気付かなくて、悪かった」
俯いて低く呟いた言葉が、届いたものは果たしていたのか。
深く呼吸して顔を上げると、声を張って命じた。
「交代の兵が着き次第、わたしたちは撤収になる。敵兵に注意しつつ、撤収準備しろ。移動に支障がありそうな兵は、今のうちに応急処置しとけ。せっかく生き残ったんだ、生きて帰還しろよ」
「「「Aye-aye-sir!」」」
返事の声は綺麗に揃っていたけれど、わたしの気持ちに釣られたか、どこか空虚な響きを感じた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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